【⽶国ー必読オピニオン】ハーバード法学院教授:パレスチナ問題について真実を語る時

アフリカ系アメリカ⼈公民権運動の指導者で、キング牧師として知られるマーティン・ルー サー・キング・ジュニア氏。⼈種差別撤廃に向けた同氏の功績を讃えるため、⽶国では毎年、1⽉の第3月曜日が祝日となります。この「キング牧師の日」に乗じて、パレスチナのアラブ人難⺠の公⺠権や⾃決権に関わる痛烈なイスラエル批判を、ニューヨークタイムズ(NTタイムズ)などがオピニオン欄で掲げましたが、「事実や歴史の誤認、歪曲が甚 だしい」と反発が噴き出しました。

焦点となったNYタイムズの記事を担当したのは、公民権関連の法律家であるミッシェル・アレクサンダー氏。現在の米社会で顕著な黒人男性の大量収監は、刑法を使った奴隸制度の復元であると暴いた著書「The New Jim Crow – Mass Incarceration in the age of colorblindness (新ジム・クロウ法ー肌の⾊の違いに鈍感な時代における大量収監の実態)2010年出版」は、NYタイムズのベストセラーとなるなど⾼い評価を受け、⼀躍有名となりました。

アレクサンダー⽒のインタビューを収録した動画(16分)は、日本でも「学⽣字幕翻訳コ ンテスト2015」で特別審査員賞を受賞しているので、彼⼥の功績についてご存知の⽅も多いかもしれません。

パレスチナのアラブ⼈難民の⾃決権を巡る問題は、実に70年という長い年月を経ており、 意図的な恒久化も指摘されています。アレクサンダー⽒がなぞらえるアメリカの黒⼈公民権運動の時のように撤廃されるべき⼈種問題が、批判を浴びるイスラエルの側だけにあるのでしょうか。パレスチナ人指導者やアラブ諸国側には問題がないのでしょうか。

ここでは、⽶政治専門紙「ザ・ヒル」が掲載した、左派系の親イスラエル派論客アラン・ ダーシュビッツ⽒の意見をご紹介します。メディア報道ではあまり⽿にすることがない、第二次世界大戦前夜の1938年まで遡る、イスラエルーアラブ間の「2国家共存」を 巡る駆け引きの歴史に触れています。 

一方的な意見を主としたメディアによる情報だけではなく、実際的な歴史と情報をもとにした非常に興味深いオピニオンですのでぜひご覧ください。

Post by Eshet Chayil 2019/01/28  11:21

The Hill by Alan Dershowitz  2019/01/22】

 

アラン・ダーシュビッツ:パレスチナ問題について真実を語る時

 

NYタイムズが21⽇付け「サンデー・レビュー」の1⾯で掲げた論調は、主要紙の中では かつてないほどの偏向ぶりでした。イスラエルーパレスチナ間の紛争に対するオピニオン欄ですが、あまりに酷い偏りぶりに加え、不正確な情報と歴史認識を露呈しています。執筆したのはミシェル・アレクサンダーで、⼤見出しは「今こそ、パレスチナの沈黙を破る時」ー。まるで、パレスチナを巡る案件が、大学内や国連、メディア上で、過剰に取り 扱われていないと⾔わんばかりです。

 

(パレスチナのアラブ人難⺠に関して)破られねばならない沈黙なんぞはないのです。一 方で、破られるべきなのは、パレスチナのアラブ人の(民族自決や帰還の)権利の主張ば かりを取り上げる、ダブルスタンダードでしょう。クルド人やシリア人、イラン人、チェチェン人、チベット人、ウクライナ人に加え、他にも多くの民族が、学会やメディア、国際社会による真の沈黙に喘いでいます。にもかかわらず、国連は、圧政に苦しむこれらの民族全てを併せたよりも多くの時間や費用、投票による支援を、パレスチナ人に与えているのです。(同サイトでも、昨年年10⽉月に、「国連が時間的労力の実に半分をイスラエル批 判に集中させている」というニッキー・ヘイリー元米国連⼤使の語録を紹介しました)。

 

パレスチナ⼈の苦境は、他の多くの民族のかん難とは比較になりません。(大きな違いは) 自らのリーダーによって困難が付加されているという点です。パレスチナ人は、彼らが提案さえ受け入れていれば、占領下などではない、れっきとした自分たちの国を持てる機会がこれまでに幾度もあったのです。英委任統治時代の1938年年にピール委員会が勧告した (ユダヤ人国家とアラブ人国家、英国統治地域に3分割するという)分割案、第二次世界 大戦後の1947年に国連が採択したパレスチナ分割決議、2000年の⽶キャンプ・デービッ ドにおける提案、あるいは、2008年年のエフード・オルメルト首相(当時)による提案が その良い例でしょう。彼らはこれらの提案をすべて拒絶、暴力とテロリズムに走ったので す。自分たちの国を建てるということは、イスラエルをユダヤ人の国家として承認する必要性が派生します。これこそが、今⽇に至るまで、彼らが拒んでいることです。

 

私がこう断言できるのは、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長に直接質問する機会があったからです。(イスラエルをユダヤ人国家として承認するかという私の問いに対する)彼の答えは「ノー」でした。歴代のパレスチナ人指導者は、パレスチナ人国家 の建設を望む以上に、ユダヤ人国家が存在しないことを追求してきました。

 

従って、パレスチナのアラブ人難⺠を取り巻く諸事情は、アレキサンダー氏が主張するよ うに、「我々の時代でも深刻な倫理的課題の1つ」などではないのです。(アラブ諸国 や国連など)関係する全ての者に責任がある、複雑かつ微妙な、また実⽤的な問題なので す。しかし、パレスチナ人指導者が「苦痛を伴う妥協」さえ受け入れる気になれば、解決できる問題でもあるのです。それはイスラエルの指導者がすでに受け入れていることです。

 

もしも初代のパレスチナ⼈指導者が、周囲のアラブ諸国の指導者とともに、独⽴宣⾔をしたばかりのイスラエルに攻撃を仕掛けなければ、難民を創出することなく建国できたでしょ う。もしもハマス(イスラム国際テロ組織)が、イスラエルが2005年にガザ地区の占領を終了・撤退したときに、受け取った資源を横領せず、ロケット砲発射装置やテロ攻撃⽤の地下トンネルを建設を推し進める代わりに、学校や病院を建てたとしたら、ガザ地区は 「海上のシンガポール」と成り得たのです。しかし、現実は、パレスチナ人指導者はガザ を貧困に喘ぐ「檻」のような地域にしてしまいました。

 

ハマスとパレスチナ⾃治政府の指導者たちは、パレスチナ人の苦境に関して、少なくともイスラエル側と同等の責任を負っています。イスラエルが潔癖でないことは確かです。し かし、アレキサンダー氏のように「全ての責任をイスラエルに押し付ける」姿勢は逆効果でしかありません。(上記で見た通り、1938年以来、ユダヤ⼈国家に並立してパレスチ ナ人国家の建国を可能にする決議や提案を全てことごとく拒否してきた)パレスチナ人指 導者をさらに強情にさせるだけだからです。イスラエルの元外交官のアバ・エバンはこう指摘します。「パレスチナ⼈はチャンスを逃す機会を逃すことは決してない」 と。

 

アレクサンダー⽒のあからさまな偏向の1例は、「学⽣の多くが、パレスチナ人の⾃決権 を支持すると公に表明することを恐れている」という不条理な指摘でしょう。「マッカー サイト戦術(赤狩り)」を親イスラエル派のグループが行っているとの難癖です。私は米各地の大学で教鞭を執ってきたので、第一線の現場の証⼈として言えることですが、パレ スチナ人の自決権は、他のもっと切羽詰まった(虐殺や人権蹂躙などの)問題を遥かにしのぎ、全く見合わないほど多くの関心を国際社会で集めています。

 

沈黙を強いられているのは、むしろ親イスラエル派の学⽣の方です。教授の推薦状を取り 付けるチャンスを失ったり、論文評価の格下げ、学⽣同士の間でも仲間外れにされるという恐れがあります。なかには、暴⼒の脅しを受けた学生もいます。私自身も、イスラエルーパレスチナ間の紛争解決策として「2国家共存」を標榜しているにもかかわらず、幾つかの大学での講演の中止や延期といった妨害を受けています。

 

アレクサンダー氏は、アラブ系イスラエル人が法的差別の対象となっているとの論陣を張りました。しかし、アラブ系イスラエル人が実は、イスラム世界に住むどのアラブ系住民 よりも多くの公民権を享受していることを、完全に⾒逃しています。まずは、投票の⾃由 (どの政党を⽀持しても投獄されたり拷問を受けたりする危険性がない)。(アラブ系住民もユダヤ系住民と同じように)自分たちの政党を自由に作ることができ、イスラエル政府批判も公然とできます。(言論や政治思想、信教の⾃由という)正当な行為としての恩恵を、イスラエルの大学からも受けています。

 

アラブ系イスラエル人にとって、唯一、⽋けている法的権利と言えるのは、シャリア法が 統治するイスラム国家として、現在の⾃由かつ世俗的な⺠主義のユダヤ人国家であるイ スラエルを、造り替えるという権利だけです。これは、(昨年7⽉に可決された)新しい 「ユダヤ人国家」法が、「イスラエル国内のアラブ系住⺠の自決権」を禁じているからで、 私は個人的に反対の⽴場を表明しています。

 

アレクサンダー氏は、「パレスチナ(アラブ系イスラエル人)の家が取り壊しの憂き目に あっている」と⾮難していますが、(テロ行為の防⽌等に関する処罰として)取り壊しの 対象となる住居は、ユダヤ系イスラエル人の⼦供や女性、男性を殺害したテロリストの家であることに全く言及していません。

 

また彼⼥は、ガザ地区の死傷者のことを声高に嘆いています。同地区を「イスラエルの占領下」と呼んだ上でのことですが、イスラエル軍兵⼠と入植者は、2005年に同地区から 完全に引き揚げています。一方、犠牲者の多くは、ハマスが、イスラエルの都市や民間人に対し無差別にロケット砲撃を仕掛ける時に、「人間の盾」としてハマスに利用されている点には全く触れていません。(訳注:1993年のオスロ合意の一環で敢⾏された2005年の完全撤退でイスラエルは、埋葬されていたユダヤ系住民の遺体まで掘り起こし撤去。ガザ地区はつまり、イスラエルの占領下などではないどころか、ユダヤ系住民の痕跡が完全に消去された、パレスチナ人によるパレスチナ⼈だけのための自治区。パレスチナ人国家の建設に向け、政治や文化教育の基盤構築・育成が推し進められるはずの地域なのである)。

 

「(南アフリカの人種隔離政策アパルトヘイトを彷彿させる)ユダヤ人のためだけの通り」 が存在するとも彼⼥は言う。しかし、それはお門違いも甚だしい事実の誤認です。問題地域 では、イスラエル市民の安全や治安を守るために、市民のみ、つまりイスラエルの運転免許証の保持者とその車両に利用が限られた道路があります。しかし、イスラエル市民と⾔うのは、ドルーズ人から、ムスリム教徒のアラブ系住民、キリスト教徒のアラブ系住民、 ゾロアスター教徒、そして無信仰者など、全ての住民のことを指しており、実のところ、 イスラエル人なら(人種や民族、信教に関係なく)誰でも、利用可能なのです。

 

アレクサンダー氏の論調でもショッキングなのは、(⽶公⺠権運動の先駆的な指導者で 1964年にノーベル平和賞を受賞した)マーティン・ルーサー・キング牧師の生涯と遺産 が、執筆の原動力であると強調している点です。キング牧師は忠実なシオニストで、「⼈々 がシオニストを批判するとき、その⽭先はユダヤ民族全体に向けられる。反ユダヤ民族主義に陥ってしまうのだ」と指摘していました。キング牧師が、今日のイスラエルの政策を見たら、その幾つかには批判的立場を取る可能性は十分ありますが、私はこう確信してい ます。アレクサンダー⽒のアンフェアなユダヤ人国家に対する攻撃を、キング牧師が聞いたなら、特に、その反イスラルの偏見を正当化するために、彼の良い名前が誤用された点を知ったなら、愕然とするであろうー、と。

 

執筆者: 
アラン・M・ダーシュビッツ氏は、名門ハーバード⼤学法科大学院のフェリックス・フラ ンクフルターの教授。2019年1⽉月発売の新著に「The Case Against the Democratic House Impeaching Trump(邦訳は出ていないが、題名は『⺠民主党が主導権を奪回した米下院に おけるトランプ大統領の弾劾訴追の動きに対する反論』」がある。(左派系の著名弁護士で教鞭歴は半世紀に至る同氏。日⽶両国とも⼤手メディアは⼤統領弾劾の可能性ばかりを誇張して伝えるが、下院が弾劾に突っ走ることは、米国の民主主義が内包する問題を増幅させ てしまうと警鐘を鳴らしている)。ツイッター名は「@AlanDersh」

 

(海外ニュース翻訳情報局  序文& 翻訳 えせとかいる  編集 樺島万里子)

 

※無断転載厳禁

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