【イスラエル・中東情勢‐緊迫化は必須】「平和を愛する国連」のハマス非難決議の失敗, テロ容認?

イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザから、イスラエル南部の都市など民間地域に対し、ロケット弾攻撃を長年に渡り続けるハマスの無差別テロ行為を糾弾するため、米国が主導した初の決議案が国連総会で6日、否決されたことを受け、イスラエルを取り巻く中東情勢の緊迫化は避けられないとの見方がでています。ハマス非難決議の採択失敗については、米大使館移転などイスラエル寄りの姿勢を示すアメリカに十分な支持が集まらなかったなどとして、トランプ米政権を批判する内容の報道が日本では目立っています。

しかし、最も重要なのは、ここでご紹介する「ゲイトスーン・インスティチュート」の分析記事が警鐘を鳴らすように、国連での非難決議の採択失敗を、ハマスなどのテロ組織のみならず、穏健派とされるパレスチナの政党ファタハさえもが、国際社会によるテロ容認と受け止めている点と言えるのではないでしょうか。

ハマス非難決議案は、通常であれば可決・採択となる過半数の賛成票を実は得ています。それにも関わらず、採択に失敗した真の原因は、一部加盟国による「ダブルスタンダード(二重基準)」であることも見逃せません。同記事も文中で触れていますが、ハマス非難議決案の採択には3分の2の賛成票が必要とするようボリビアやアラブ諸国が採決直前になって要求、ハードルを高くすることに日本までもが賛同したことが背景にあります。(Time of Israel)

河野太郎外務大臣は11月24日にイタリアでリヤード・マーリキー・パレスチナ庁長官と会談しており、引き続きイスラエルとパレスチナの2国家共存を支援する方針を確認していますが、パレスチナ人によるテロ攻撃の完全放棄は「平和交渉」にとって基本中の基本はず。日本では全く報道されていませんが、ハマス非難の決議が不採択となって3日目に当たる9日夜には、イスラエルの西岸地区オフラで、走行中のパレスチナ車両からバス停に立っていたイスラエル人を狙った発砲事件が起き、妊娠30週の女性(21歳)を含む7人が負傷、帝王切開で誕生した赤ちゃんは必死の救命活動も虚しく死亡するという惨事が起きています。(ynetnews)

今年3月から続くガザ国境での衝突でも、国連やメディアは、自国民を守るために集団的自決権を行使せざるを得ないイスラエルばかりに批難を集中させていますが、このまま、その路線を踏襲させたらどうなるのでしょうか。筆者のバッサム・タウィル記者はイスラム教徒であり、アラビア語も自在に操る中東情勢の専門家です。米欧の民主主義の論理や価値観だけでは語れない中東のアラビア語圏の諸事情に精通した同氏の鋭い分析と厳しく責任追及する記事は一読の価値ありです。

Post by Eshet Chayil 2018/12/16  0:00

Gatestone by Basaam Tawil 2018/12/10】

・ガザ地区を実効支配する国際テロ組織ハマスと、パレスチナ自治区内を拠点とする他のテロリスト集団は、国連総会において、米主導のハマス非難決議案の採択を失敗したことは、国際社会によるテロ容認、つまりユダヤ人殺戮を続けるためのライセンスであると解釈しています。

・ハマスが国連や全世界に対し、発信する内容はこうなのです。「今日、あなた方は我々の組織をテロリスト集団として認定することを拒否した。つまり、我々には、様々なテロの攻撃手段を総動員して、可能な限り多くのユダヤ人を殺戮する権利があるという訳だ」。ハマスとイスラミック・ジハード(イスラム聖戦)の指導者らは実に、テロ攻撃の継続だけではなく、イスラエルに対して猛攻にでると脅しているのです。

・こうしてハマスとその支持者が祝うとき、穏健派やプラグマティストと称される現実主義者、さらに暴力やテロリズムに反対する少数派のパレスチナ人は、身を潜めねばなりません。

・ハマスやイスラム聖戦、そしてファタハも、国連での決議案否決は「米国とイスラエルの顔に平手打ちした」と歓迎しています。国連での一連の出来事は、穏健派パレスチナ人にとって実に深刻な打撃であるのと同時に、イスラエル・パレスチナ紛争の平和的解決の可能性を一段と弱めてしまいました。国連がパレスチナ人のテロ行為にお墨付きを与えてしまった今や、パレスチナ側の指導者は誰一人として、イスラエルとの和平交渉のテーブルに戻ることはできないでしょう。従って、国連は和平交渉に向けた微塵の可能性さえも巧みに撃沈してしまったのです。


パレスチナ人のテロ組織ハマスにとって、国連総会による先週6日の採決結果は、想像を遥かに超えた極上の誕生日プレゼントとなりました。

数日後には実効支配するガザ地区で、結成31周年を記念する大規模な祝賀式典が開催されます。そこでハマス指導者らは、国連から受け取ったばかりのこの素敵な贈り物を、支持者に贈呈すると予想されます。贈り物とは、つまり、イスラエルに対するロケット砲撃の継続を可能にし、イスラエル国家の殲滅に向け、可能な限りの多数のユダヤ人を殺戮し、イスラム国家の樹立を図るという計画のことです。

国連総会では、(本来であれば可決に十分な)加盟国の過半数が、米主導のハマス非難決議案に賛成票を投じたものの、(可決には賛成票3分の2を要するとした手続き操作が採決の直前になって行われたため)採択には至りませんでした。ハマス非難の決議案では、ハマスが「繰り返しイスラエルに対してロケット砲を打ち込んでいる上、暴力を扇動している。それによって一般市民を危険にさらしている」と非難。また、イスラエル国内に潜入するためのテロ用地下トンネルや、イスラエルの民間地域へのロケット砲撃するための設備などを含む軍事目的のインフラ建設に資源を流用していることも厳しく糾弾しています。

ハマス非難の決議案に賛成票を投じたのは、日本を含む87カ国。反対は58カ国。棄権は32カ国でした。にもかかわらず、米主導の決議案が採択されなかったのは、投票直前になって、(ボリビアやアラブ諸国が)採択には3分の2の賛成が必要とする手続きに関わる別な決議案を提出。(正当性に欠ける二重基準を採用することに、日本のほか、主にアラブ諸国や発展国など75カ国が賛同=米英欧、豪州やカナダなど基本的人権を堅持する、有力国など72カ国は反対。26カ国が棄権=したため)阻止されてしまったのです。

国連が米主導によるハマス非難に失敗したことは、ハマスにとって、31周年を飾る最高の賜物の1つとなるだけではありません。最も懸念されるのは、ハマスや他のパレスチナ人のテロ集団が、これを、ユダヤ人を殺戮し続けるための国際的なお墨付きと解釈しているということです。

パレスチナ問題の専門家にこの認識を尋ねたり、調査や世論調査を行う必要はありません。必要なのはただ1つ。アラビア語で、ハマスとイスラム聖戦が何を言っているかに耳を傾けるだけで分かるのです。

ハマスとイスラム聖戦の指導者がこぞって声明しているように、米主導の決議失敗は「パレスチナ人の抵抗にとって、大きな勝利」と映る。「パレスチナ人の抵抗に対する大きな後押しである」(ハマスの高官ハリール・アルハヤ)のです。

ここ数日間にテロ集団らが表明している歓喜のほかにもあります。彼らは今、特に米主導の決議案に反対した国々が、パレスチナ人にイスラエルとの戦いを続けるために青信号を送ったとして、感謝の意を評するとともに賞賛しています。言い換えると、ハマスは、自らが扇動する自爆攻撃やロケット砲撃を卑劣なテロ行為と見なさない国々に対して謝意を述べているのです。

パレスチナ人の言葉の使い方に慣れていない方々のために説明しますと、「抵抗」とは、イスラエル人兵士や民間人を狙った、ありとあらゆる形態のテロ攻撃のことを指します。「レジスタンス」には、自爆攻撃、銃撃、刃物による殺傷、車両の衝突攻撃、ロケットやミサイル攻撃、投石、火炎瓶や火炎だこの投げつけなどが含まれ、西岸地区の国道を走行するユダヤ人の家族の車両は格好の標的となっています。

米国が主導したハマス非難決議の採択に失敗したことにより、国連は以下のような声援をパレスチナのテロリストに送ったことになる。「あなた達は何も心配することはありません。国連は、あなた達がユダヤ人を攻撃しようとも、殺害しようとも、テロリストというレッテルを貼ることはないのです」。かくして、国連の熱い声援はガザ地区のテロリストに、しっかりと習得され、彼らは今や国連での「勝利」に喜び勇んでいる。

ハマスの指導者は、国連による採択失敗を受け、実にその数時間後に早々と、イスラエルに対する「武力闘争」を継続すると声明しています。「ロック(投石)インティファーダ」とも呼ばれる第1次蜂起の勃発から、ちょうど31周年の節目と重なったこともあり、ハマスは「『抵抗』は、すべての国際法と条約によって保証される正当な権利である」は宣言。「これには、パレスチナの大義を保護し、パレスチナの権利を回復するためには、戦略的な選択肢として武力闘争をも含む」とも言ってます

ハマスの発表のタイミングは偶然などではありません。イスラエル国内の民間地域に対して、無差別にロケット砲を打ち込む卑劣なテロ攻撃に対する非難案を、国連が拒否したことをパレスチナのテロリスト達はちゃんと見て聞いて知っています。声明はその上で、不採決が決まった数時間後に出されたのです。声明の中でハマスが「武力闘争」という言葉を強調することを選んだのも決して偶然ではありません。「抵抗」という言葉と同様、「武装闘争」とは、「川から海へ」の掛け声のもと、東端はヨルダン川から西端は地中海まで、つまりイスラエル全域の掌握を目指したテロ攻撃のことを指します。

ハマスは今、国連や全世界の国々に対して、こう訴えかけている。「今日、あなた方は我々の組織をテロリスト集団として認定することを拒否した。つまり、我々には、様々な形態のテロ攻撃手段を総動員して、可能な限り多くのユダヤ人を殺戮する権利があるという訳だ」。ハマスとイスラム聖戦の指導者らは実に、テロ攻撃の継続だけではなく、イスラエルに対して猛攻にでると脅しをかけているのです。

ハマスやイスラム聖戦以外はどうでしょう。パレスチナ自治政府内のその他の政党も、先週の国連総会での出来事を、ユダヤ人殺しとイスラエル殲滅のための大量虐殺計画を加速させる青信号である、と捉えています。パレスチナ解放機構(PLO)のパレスチナ解放人民戦線 (PFLP)や、パレスチナ解放民主戦線(DFLP) はともに、パレスチナのテロ集団の大合唱に追随、米国の決議案の凋落を祝っています。不採択が、イスラエルに対するテロ攻撃を継続するための許可証と、彼らもまた受け取っているのです。武装組織であるPFLPとDFLPもハマスなどと同様に、今回の不採決を、暴力行為やテロリズムの正当化であると解釈しているのです。

国連での採決に先立って、パレスチナのテロリストは、もし米主導のハマス非難決議が採択されれば、イスラエルとのパレスチナの戦いが「犯罪扱い」される恐れを懸念していました。ハマスの政敵で、ハマスに比べれば穏健派と言える世俗的な政党ファタハでさえ、同様の懸念を表明しています。

ファタハは、決議案がパレスチナ人のすべての政党や派閥を一絡げに1色に塗り上げてしまい、ファタハとハマスを区別することが不可能になると心配していたのです。穏健派とはいえ、ファタハにしても反イスラエルのテロ行為には加わってきたので、イスラエルに対し、無差別にロケット砲を発射するハマスを国際社会がテロリスト組織として認定した暁には、前例に習って、次にファタハもテロ組織として国際社会のリストに記載されてしまうと恐れていたのです。

ハマスやその支持者が祝うとき、穏健派や現実主義者とされる、暴力やテロリズムに反対を唱える少数のパレスチナ人たちは、身を潜めねばなりません。

ハマスやイスラム聖戦、そしてファタハも、国連での決議案否決は「米国とイスラエルの顔に平手打ちした」と歓迎しています。国連での一連の出来事は、穏健派パレスチナ人にとっても、深刻な打撃であるのと同時に、イスラエル・パレスチナ紛争の平和的解決の可能性を一段と弱めてしまいました。国連がパレスチナ人のテロ行為にお墨付きを与えてしまった今や、パレスチナ側の指導者は誰一人として、イスラエルとの和平交渉のテーブルに戻ることはできないでしょう。

従って、国連は和平交渉に向けた微塵の可能性さえも巧みに撃沈してしまったのです。「平和を愛する国連」のおかげで、2018年12月は歴史に残る日となるやもしれません。国連が、パレスチナのテロリストに対して、イスラエルとユダヤ人への暴力を続けるために青信号を与えたおぞましい日として‐。次のユダヤ人の犠牲者の血は、国連と、その国々、つまりテロ行為を非難するという、明快で健全な決議案を脱線させるために動いた者の手の上にある。
執筆者について:Bassam Tawilは、中東に拠点を置くイスラム教徒のアラブ人です。

(海外ニュース翻訳情報局 えせとかいる 編集 樺島万里子 )

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