【スウェーデン:オピニオン】「我々も!」スウェーデンでも中産階級ポピュリズムが台頭

今年9月のスウェーデン総選挙で、ロベーン首相率いる中道左派の与党・社会民主労働党が第1党を維持をしました。
しかし、「反移民」を掲げ、一時は第1党をうかがう勢いを見せた極右・スウェーデン民主党。改選前に引き続き第3党であったものの、42議席から62議席へ勢力を伸ばしました。
このスウェーデンの動きを分析した論文が今年の3月に発表されていましたので紹介します。
この記事のオリジナルはもともとスウェーデン語で書かれておりそれを基に英語へ、そして当情報局が2人の原著者(Bo Rothstein氏、Sven Steinmo氏)に了解を得たうえで日本語に翻訳しました。
ぜひご覧ください。
Post by  Mairko Kabashima  2018/10/19  18:22

Social Eurpoe by Bo Rothstein and Sven Steinmo on 03/10/2018】

先日のスウェーデン議会選挙に世界中のオブザーバーが驚いた。
これまでスウェーデンは、比較的国境が開放的で、福祉が行き届いた国であり、経済水準が高く、そして高水準な男女平等へのコミットメントにより、道徳的に優位な立場を維持していると考えられてきた。

しかし、明らかに反移民的な政党であるスウェーデン民主党(SD)の得票率が17.5%に達した今、この国は「全く別の国である」と非難されている。

SDの成長ぶりは本当に驚きだ。2006年には16万票、2010年には35万票だったのに対し、今回は1.1万票を超えた。

すべての既成政党が彼らを非難し、あらゆる主流メディアが揃って拒絶し、政界の重鎮たちや文化人までもが軽くあしらっていたにもかかわらず、今では国内第3位政党となった。

では、スウェーデンの政治状況が根本的に変化した背景には何があるのだろうか。

スウェーデン民主党(SD)の台頭には2つの一般的な説明がある。 第一は、スウェーデン文化の根底にある人種差別を指摘している。第2は、グローバル化が格差拡大と雇用市場の不安定化をもたらしたという主張だ。確かに、スウェーデンの民主党の中核に人種差別主義的なものがある。しかし、スウェーデンの人種差別がこれほど短期間で劇的に増加したとは考えにくい。実際、スウェーデンの有権者を対象とした最近の調査では、外国人嫌悪や人種差別が増加していることは示されていない。

人種差別的な人がアンケートに答えない可能性は常にあるとはいえ、調査結果では、逆にほとんどの人の外国人嫌いの水準はここ数年一定で、変化していないことを示している。
る。
平たく言えば、「一定」では「変化」を説明できないということだ。
る。
グローバル化、すなわち不安定な雇用や労働市場外での労働の増加がSD躍進の理由を説明できるかどうかも疑問である。

1950年代後半に「レーン=メイドナー・モデル(同一労働同一賃金)*」が設定されて以来、集中的に福祉国家へと舵を切ったスウェーデンにおいて、労働者は国際情勢の変化に適応してきましたし、事実、戦後スウェーデンの経済的躍進の要因は、市場がほぼ完全に国際市場に開放されていた点にあります。

実際、過去10年間ではなく、1950年から1980年後半にかけて、最大かつ最も劇的な構造変化が起きた。

その間、造船から鉄鋼、中小農家、衣服産業の大部分は抜本的に再編され、中には廃止されたものもある。
それでも廃業者を代表する党は設立されなかった。

さらに最近のスウェーデンの労働市場統計によれば、失業率は低下傾向で、労働市場における不安定な労働者の割合はここ15年間でさほど増加していない。
繰り返しになるが、やはり変化の説明はできない。

*訳者注:レーン=メイドナー・モデルとは、同一労働同一賃金を核とする、労働移動促進のための社会横断的なしくみ。性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策のこと。


■移民

もちろん、変化したのは、ごく最近になってスウェーデンに入国した移民や難民の数が急増したことである。
人口1000万人に満たない比較的小さなこの国では、2014年以来、累計で30万人超の難民を受け入れている。

近隣のノルウェーとデンマークではそれぞれ49,000人と45,000人。 対人口比でイギリスが同等の難民を受け入れた場合、180万人にあたる。 人口32倍のアメリカならば、なんと900万人にも達する! しかしこういったデータにしても、それだけではSDの急成長を完全に説明することはできない。
そうではなく我々が提言するのは、SD支持者の急増はスウェーデンの近代民主政治における、より根源的な問題の兆候だということである。
「人種主義」や「グローバリズム」といったよくある説明もそうだが、SD台頭の原因を移民の唐突な増加に求めるありがちな単純議論では、今日のスウェーデン及び諸外国が直面している、より基本的なジレンマ–すなわち民主主義の”ツケ”を見逃してしまう。

より根本的な問題とは、既成政党が市民の声に耳を貸してこなかったことである。
世論調査で大きな不満が示されていたのにもかかわらず、7つのすべての政党が、いわゆる「門戸開放」政策を支持した。
実際、スウェーデンの政治的・文化的エリートたちは、フレドリック・ラインフェルト前保守党党首の有名な「オープン・ハート」政策を事実上、全会一致で支持した。

この政策に疑問を感じた人は、既成政党やメディア、学界から即座に非難や人種差別のレッテルを貼られ即座に干された。

スウェーデンの有権者は、もう少し穏健な難民政策(ノルウェーやデンマークのような)を望んでいたが、スウェーデン民主党(SD)を除いて、頼るべき政党はなかった。


■アイデンティティ政治*

我々は、有権者の後退的な姿勢を責めるのではなく、現在、スウェーデンや他の国々で見られる反発は、「アイデンティティ政治」の新しいバージョンと見做し、より深い問題に結びついているのではないかと提言する。

ここ数年間、スウェーデンの政治学を学んだ人なら誰でも、平等の原則に基づく普遍的かつ広範な政策を支持することから、宗教的、性的マイノリティをはじめとするさまざまなマイノリティ・グループの権利を尊重することへと政治論の焦点が変わったことに気付かないはずはない。
現実には、伝統的、中流、労働者階級の市民にとって、この議論とそこから生まれる政策は、異論を唱える特定の集団に対して不当なひいきをしていると考えられている。

彼らがそれを認識するかどうかにかかわらず、この主張は古典的な社会民主主義の集産主義者の理想論を疑っている。

我々の見解では、スウェーデンで目の当たりにした選挙結果(他の国々でも同様の傾向が見られる)は、アイデンティティ政治への一種の反発と見なされるべきだと考えている。
さまざまなマイノリティ・グループが、自分たちのアイデンティティが認められ、尊重し保護したいと望んでいるように、「平均的な」民族のスウェーデン人やノルウェー人なども、自分たちのアイデンティティを尊重し、保護したいと考えていることが示唆される。

問題なのは、スウェーデンの(や他の国の)エリートたちがこれを見なかったのは、彼らが多くの労働者や中流階級の市民が持っている伝統的なアイデンティティを共有していなかったからだということだ。

その代わりに、今日の政治的、社会的、経済的エリートは国際化され、母国を離れ、生活したり勉強したりし、しばしば数カ国語を話すようになった。彼らは多文化的な環境に置かれている。

しかし、「平均的な」市民は、自分たちの社会で進行している多くの変化をあまりよく知らないか、慣れていない。

必ずしも人種差別的だからではない(ある者は確かにそうであったが)。また、自分の仕事が外国人に奪われたと感じているからでもない(多くの人がこのように感じているが)。

さらに重要なことに、これらの市民は、伝統的なスウェーデン人のイメージに合わない人々が、自分自身の感覚に対する挑戦として、桁外れの大量流入であると見ている。

この事実は、政治的・文化的エリートたちが、公然と軽蔑するような態度をあまりにも頻繁に見せるため悪化している。

*訳注  アイデンティティ政治とは、主に社会的不公正の犠牲になっているジェンダー、人種、民族、性的指向、障害などの特定のアイデンティティに基づく集団の利益を代弁して行う政治活動。


■自己と他者

今日、多くの 「平均的な」 市民は、伝統的なスウェーデン人やノルウェー人などといった自分たちのアイデンティティは、その国の知識人や政治家というエリートたちからは認識もされず評価もされていないと考えている。

彼らは、この国際人であるエリートたちが、オラ・ノールドマン(Ola Nordmann)(訳注:典型的なノルウェー人という意味)やエルザ・スヴェンソン(Elsa Svensson)(訳注:典型的なスウェーデン人という意味)の伝統的なビジョンを本当に尊重していないと感じるかもしれない。

確かに、SDの成功は、人種差別やグローバル化が労働市場に与える影響によって部分的に説明できる。

無論、難民申請者が大幅に増加したことは、SDの投票率が急増したことの説明となる。

しかし、これらの説明の下には、既成政党のやり方の欠点と戦略的な誤りがあるというのが我々の主張である。

我々二人は個人的に進歩的な社会政策と移民政策を支持し、これらの政策は道徳的に正しいものであり、長期的には国のためになると信じている。

しかし、SDに投票した多数派を「不安定な」、あるいは道徳的に欠陥のある(または、ヒラリー・クリントンの言葉でいうと嘆かわしい)人と決めつけるのは、一般市民の自尊心を否定する重大な政治的誤りであることは明らかである。

皮肉なことに、スウェーデンなどのエリート層に支持されてきたアイデンティティ政治そのものが、国民の大多数のアイデンティティ感を高めているのかもしれない。その結果、彼らはそのアイデンティティを尊重すると主張する政党に頼ることになっているのだ。

この記事は、Dagens Nyheter氏によってスウェーデン語で最初に発表されました。

Bo Rothstein ヨーテボリ大学 政治学教授

Sven Steinmo コロラド大学政治経済学教授。 公共政策、進化論、比較政治の専門家

(海外ニュース翻訳情報局:樺島万里子、翻訳一部:匿名記事提供協力者)

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