【元米軍海兵隊士官提言・必読】中国にとっての最悪の悪夢 リムパック2020を南シナ海で開催?

去る6月27日から8月2日まで、ハワイ及びカリフォルニア沖で、世界最大の共同軍事演習リムパック(RIMPAC)が開催され、全世界から25か国、日本からも海上・陸上自衛隊が参加しました。2年毎に行われているその演習の次回開催地に関して、当サイトで定期的に論文を翻訳している元アメリカ海軍士官グラント・ニューシャム氏が、ここで大胆な提言をしています。

実際には、この論文が掲載されたのは、先日当サイトでも全文翻訳を掲載したペンス副大統領の演説に5日ほど先立つ9月29日だったのですが、論文終盤の中国に関する論旨と表現が、副大統領演説の趣旨に近いのが興味深いです。

こちらの論文は、The National Interestに掲載されたものの翻訳です。

Post by Yasushi Asaoka 2018/10/14 13:43

The National Interest  by Tuan Pham, Grant Newsham  2018/09/29 】

次回、2020年のリムパックを南シナ海で開催することは、革新的な変化を引き起こすだろう。

世界最大の多国間共同海洋軍事訓練、環太平洋合同演習(リムパック)2018は、一か月にわたるハワイ及びカリフォルニア沖での苛烈な訓練を8月2日に終えた。1971年に始まったリムパックは、今回で26回目を数える。25か国、46隻の艦船、5隻の潜水艦、200機以上の航空機、そして2万5千人以上の人員(17の海兵隊及び陸軍分遣隊を含む)が、2年毎に開催されるこの訓練に参加した。参加した軍隊は、災害救助や海上安全活動から海域統制や先進的戦闘まで、広範囲な戦備状況についての訓練を行った。

では、リムパック2020について考察してみよう。成功裏に終わったリムパック2018をベースに、また2017年2018年のシャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)で取り上げられたインド洋・太平洋の変わりつつある政治状況を考慮したうえで、新たな骨太の国家安全保障及び防衛戦略に則して、リムパック2020を南シナ海で開催することを真剣に考慮する必要がある。

そうすることによって、1)この戦略的海域での中国の一方的な拡張主義を牽制し、2)中国政府の九段線の主張を無効とする2016年の国際仲裁裁判所の裁定の法的な立場を補強し、3)国際法と国際標準に基づくコンプライアンスの普遍的重要性を強調するという、戦略的な影響についての力強い三連勝単式が、アメリカと同盟国は国家の利益と共通価値のために立ち上がる準備があるということを証明するだろう。


戦術上、実行は可能である

マラッカ海峡から台湾海峡までと広く、水深のある南シナ海は、艦船、潜水艦、航空機を擁する大軍隊に様々な戦術的環境を提供できる。そしてこの海域では、災害救助、水陸両用作戦、砲術、ミサイル、対潜・防空作戦、海賊対策、機雷除去、潜水・海難救助といった現実的かつ複雑な海事訓練方法が可能だ。

重要なのは、水陸両用作戦、実弾射撃訓練、沈没演習(SINKEX)のような高度な相互戦闘のために十分な広さの海域と空域が南シナ海と、ベトナム・フィリピン・ブルネイ・マレーシア沿岸やそれらの島々、そして訓練用の海域と射撃場がオーストラリアフィリピンにはある、ということだ。


作戦上、実用的である

作戦上、南シナ海はリムパック2020に参加すると想定される多くの国にとって負担が少ない。日本・韓国・インド・スリランカ・イスラエル・イギリス・フランス・ドイツといった(今回の演習地から)遠い国々は訓練地域への移動時間を大幅に削減できるし、同じ地域にあるベトナム・フィリピン・ブルネイ・シンガポール・マレーシア・タイは自国の港から作戦に参加できる。それら地域の国々はまた、他国軍を受け入れることにより、将来の共同防衛の地盤を固めることもできる。

アメリカ海軍はシンガポールに司令部スタッフを常駐させている。西太平洋兵站司令官(CLWP)だ。その司令部は日本をベースとするアメリカ第七艦隊(C7F)の指揮下にあり、部隊に兵站と整備を供給し、東南アジアにおける一定範囲の戦域安全保障協力活動を指揮する任務を負っている。C7Fと共に、CLWPは、リムパックのスポンサーである太平洋艦隊司令官が主導する企画立案活動を推進させることができる。


戦略上、望ましい

中国の態度を改めさせることに加え、リムパック2020を南シナ海で開催することによって、次のようなことも期待できる。

1)この戦略的な海域における中国政府の広範囲な試みを鈍らせることができる。ここでいう試みとは、スプラトリー諸島の7つの軍事拠点のさらなる拡大軍備強化を通じた運営管理の拡大や、スカボロー礁・ジェームズ礁・ヴァンガード堆・マックルズフィールド堆にも軍事拠点を建設する可能性や、スビ礁への救難艇の恒久的な配備や、海上原子力発電所の建設や商業船舶を監視(・取り締まり)するための人工衛星群の打ち上げの可能性や、南シナ海での中国版リムパックの開催などのことだ。つい最近も、ASEAN(東南アジア諸国連合)の行動綱領草案が、非ASEAN加盟国を南シナ海から締め出し、同海域での軍事活動を規制し、ASEAN加盟国と地域外諸国との軍事訓練に対して北京政府が拒否権を持てるように書き換えられたばかりだ。

2)他の国々による同海域の過大な領有権の主張に、国際的な規範に基づいた共通の関心を持たせながら対抗するため、航行の自由作戦を促進できる。南シナ海の領有権を主張している他の国々(ベトナム・フィリピン・ブルネイ・マレーシア・インドネシア・台湾)、近隣諸国(オーストラリア・ニュージーランド・日本・韓国・インド)、そして地域外の大国(イギリス・フランス・ドイツ)も、航行の自由作戦や、南シナ海におけるその他の活動(軍事的であれ経済的であれ)に、単独でも共同でも、参加したいと思うようになるだろう。もしも彼らが、アメリカが真剣で、彼らも法の支配を支持する長期的な国際共同体の一員だと信じているならば。

3)南シナ海の国際水域における、より多くの、タリスマンセイバーやマラバールといった海上演習のための条件を整え、海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)においては沿岸国が排他的経済水域(EEZ)内での経済・軍事活動の権利を持つという中国の法的立ち位置を事実上退けられる(実際、中国自身はその真逆を行っている)。

リムパック2012・2014・2016・2018に際し、中国はアメリカのEEZにスパイ船を送り込んでいるが、アメリカ政府は中国船の存在に異議を唱えなかった。中国のEEZでアメリカや他国の軍艦が同様の活動をした際の中国政府の反応とは大違いだ。侵入してきた国に対し、中国は領海の主権侵害を警告し、時には当該軍艦に対しての妨害を行うことも少なくない。

他国のEEZにスパイ船を送り込むことは、前例がない訳でもなく国際法に抵触しているという訳でもないが、このことは中国がUNCLOSの海洋上の権利の独自解釈を最大限に行使する大国になろうとしている(もしくは、既になっている)ことを、世界中に気づかせる。だがそれは、中国政府がUNCLOSの都合の良い部分だけを選び、不都合な部分については無視するか独自解釈をしているということを強調している。結局のところ、中国政府は、独自の海洋上の権利についてははっきりとした感覚を持っているが、彼らが他国の同様の権利を許容するかどうかはまた別の話だ。

4)中国がリムパックの現行規定契約や行動規範に従う(特に、スパイ船を送り込まない)という前提で、中国を再度リムパックに招待する機会を提供できる。もし中国政府が招待を受け入れれば、それは暗に2016年の国際仲裁裁判所の裁定が“紙屑”ではなかったと認めることになり、また公海上とEEZ内における軍事活動は国際慣習法において合法であり、UNCLOSの第58条で保障された活動であるという、アメリカの法的立ち位置を認めることにもなる。国際社会の大部分はアメリカ政府の見解に賛成している。わずか27か国が中国政府のUNCLOSの解釈に賛成しているが、それ以外のほとんどの国々(中国を除いたすべての国連常任理事国を含む100か国以上)がアメリカ政府の立場を支持している。

よって、もし中国政府が招待を受け入れなければ、それは中国の地域的・国際的な立場をより危うくし、中国が地域の均衡を乱そうとしているという近隣諸国の懸念を一層強めることになる。

5)台湾をリムパックに招待する機会を提供できる。なぜなら彼らもまた、南シナ海において戦略的な海域の帰属を主張しているからだ。

6)念願となっている南シナ海での領海意識の主導権を推進し、開催国に経済的恩恵をもたらし、南シナ海の一部においていまだに発生している海賊活動を抑止することができる。


課題

なによりも、各国に参加を促すことだ。その演習が中国の南シナ海における明白な主権に対する挑発であり、中国の博愛的な成長を阻止するためのものだと、中国政府は吠えるだろう。中国は参加予定国を脅し、思いとどまらせようとするだろう。中国の脅しに屈しない国は、政治的・経済的懲罰を受け、軍事的にも脅迫されることになるだろう。

よって、アメリカの真剣な外交が、地域内外の国々に参加を同意させるために必要とされることになる。演習を遂行し、運営上の安全保障の懸念点や考えうる環境への影響を軽減するための膨大な物流業務は、それに比べれば比較的小さな課題だ。

確かに、リムパック2020を南シナ海で開催することは、控えめに言っても大胆な動きだ。野球用語で言えば、“ホームラン狙い”だ。だがもし今が7回の裏で、アメリカと自由主義国が中国に数点差で負けているなら、そういったことも必要だろう。

アメリカは40年以上にわたって、中国の言うことを聞き、実際に彼らを育ててきた。それはすべて、中国政府がやがて自由主義化し、国際標準に則った振る舞いをするだろうという期待(と間違った希望)によってなされてきたものだ。そうなる代わりに、中国は周辺諸国とアメリカをも脅せるほど軍事的に強くなってしまった。そして、経済的に貪欲なだけでなく、彼らはどんどん抑圧的になり、彼ら独自の、中国のルールに則った世界基準を確立しようとしている。暗に「俺たちの言うことを聞け。さもなければ」と脅しながら。

トランプ政権は、中国政府にまともに挑戦した初めてのアメリカ政権だ。皮肉なことに、その奮闘はアメリカ議会の両党から支持されている。そして、アメリカと西側諸国の産業界でさえもが、中国からの富は幻想にすぎないかもしれないと気付き始めている。

とは言うものの、南シナ海でのリムパック2020は、それがアメリカ主導の“法の支配”と国益を主張する、経済的、外交的、情報的“戦線”を含んだ、ずっと広範囲な国際的な努力の一部としてでしか、成功しないだろう。もしリムパック2020だけで他に何もなければ、その後に激怒した中国に援護もなく立ち向かわなければならないというもっともな恐れから、ほとんどの国は参加することはないだろう。

だから問題は、果たして中国共産党率いる中国に対するアメリカの考え方と行動に、本当に長期的で目覚ましい変化が起こっているのかどうかだ。希望への土台はある。台湾に対する支援は増加しており、人民解放軍はリムパック2018には呼ばれなかったし、中国に対する真の貿易圧力がいよいよ始まった。中国のアメリカへの投資はより徹底的に調べられ、アメリカ政府は、中国の力ずくの一帯一路政策よりも経済的に有利な条件をアジアやアフリカの国々に提供するよう、官民両方に働きかけている。

だが、衰退するアメリカを必然的に中国が凌駕するという中国の戦略的な語り口に対抗しながら、政府の合意と個人の自由を代弁すべく、アメリカが政治戦と情報工作を再学習できるかどうかは、依然不透明だ。そして、中国の自己主張に対する同盟を強化するという努力に対する信憑性を増すことになる、海軍の再建をアメリカが実際に行えるかにも、引き続き注視すべきだ。

もしアメリカがこれらすべてを行い、中国に対するアメリカ人の考え方の“何かが変わった”ということを明らかにでき、それを将来の政権も継続できるならば、志を同じくする国々は南シナ海でのリムパック2020に喜んで参加するだろう。

しかし、もし中国の自己主張に対するアメリカ政府の現在の反応が一時的なもので、中国の言うことを気にしながら彼らの希望をかなえようとして、やがて現状の混乱を招いた以前の“微妙な”アプローチにアメリカが戻っていくのであれば、そもそもリムパック2020など不要だ。そして実際、アメリカはアジアから完全に手を引いて、ハワイを中心としたいわゆる第三列島線に沿って守っていればいい。だがもしアメリカが真剣なら、今が“ホームランを狙う”時だ。南シナ海でリムパック2020を開催することが、まさにそれにあたる。

もちろん、南シナ海でのリムパック2020に関しては、ある方面から咳払いが聞こえているようだ。「非現実的だ」、「考えられない」、「無理だ」等々。まあ、そうだろうね。だが、このような小論の目的は考え方を広げること、交渉における最初の提案みたいなものだ。

だから、もし2020年のすべての演習が無理でも、現在でもリムパックの一部は南カリフォルニアで開催されているように、たとえば一部を南シナ海に展開するのは? たぶん、人道支援・災害救援活動をベトナムで、または海賊対策訓練をインドネシア近海で行うことはできそうだし、または一部をグアムや北マリアナ諸島で行ってもよい。少しずつ歩を進め、後退することさえなければよい。そうすれば、2022年か2024年には、リムパック(もしくはその大部分)の南シナ海での開催も、ずっとしっくりくることだろう。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 序文&翻訳 浅岡 寧)

※ 無断転写禁止

 

 

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