【元米軍海兵隊士官提言・必読】憲法改正のための多大な労力は何のためか?

安倍首相が自民党総裁三選を決め、彼が引き続き取り組む様々な課題の中でも、とりわけ憲法改正が今後の焦点となります。当サイトではおなじみの元アメリカ海兵隊士官グラント・ニューシャム氏はこの点に触れ、いささかシニカルな論文を発表しました。

ただ、ここで彼が伝えたかったことは、憲法改正というのは達成すべきゴールなどではなく、それを起点に日本が本当に変えなければいけないことがある、ということではないでしょうか。その「日本が変えなければいけない」ポイントが、記事のあちこちにヒントのように隠れているように思えます。

こちらは、Asia Timesに掲載された記事の翻訳です。

Post by Yasushi Asaoka 2018/09/21 17:02

Asia Times by By GRANT NEWSHAM 2018/09/20】

安倍晋三首相には“アメリカに押し付けられた”現行憲法は日本社会にとって不公平だという長年の信念がある。

政治は、ときには個人的なものだ。そして、三選が決定した日本の安倍晋三首相にとっては、憲法改正がまさにそれに当たる。実際、“アメリカに押し付けられた”憲法が日本にとって不公平で、日本社会にそぐわないという安倍の長年にわたる信念は、もはや彼の執念だという人もいる。

では、安倍が成功する確率はどの程度だろう? 彼は自らやり抜くつもりだが、成功は保証されてはいない。まず彼は、衆参両院議員の三分の二から支持を得る必要がある。そのうえで、彼は国民投票の過半数からの承認を勝ち取らねばならない。

自由民主党が議会の過半数を占めているため、安倍は名目上両院の支持を得てはいるが、彼はまだ連立政権のパートナーである公明党と、いくつかの小政党からの協力を必要とする。

ある日本の元防衛幹部は、自民党内での安倍のライバルである石破茂と彼の党派は抵抗するだろうと見ている。石破は安倍版の改正案には批判的で(改憲に批判的というわけではない)、この二人はそりが合わない。そして、自民党の連立パートナーである「平和主義者の」公明党もおそらく異を唱えるだろう。たとえ彼らが、節操はあるが無力な野党になるよりも、連立与党の一端を担うという魅力に惹かれていたとしても、だ。

だが、安倍にとって有利なのは、野党の混乱だ。しかし彼らはそれでも安倍を止めようとするだろう ― 憲法改正が第三次世界大戦を引き起こすと叫びながら。それはちょっとした見ものになるだろう。ここのところ野党がどれほど安倍(と彼の妻)を、日本基準では取るに足らない贈賄と贔屓の罪で猛攻撃したかを考えてみればいい。安倍が改憲への動きを見せた途端、トランプ混乱症候群の日本版が表面化することだろう。

安倍の案が議会を通過したとしても、国民はさらに手強いと彼は知ることになるだろう。

ほとんどの国民は、安倍ほどにはその案に興味がない。彼らには、年金、雇用、老人介護といった、より差し迫った問題がある。多くの日本人は、憲法改正の国民投票に大金を使うのは馬鹿げていると思っている。なんといっても、現行憲法で日本はなんとかうまくやってきたのだから。

安倍は自分の立場を国民に主張しなければならない ― それも、明確に。何が変更点で、何故それらが必要なのかを、彼は説明する必要がある。これを正しく行えば、彼は成功確率を上げることができるだろう。こと国防に関しては、日本の政治家よりも日本国民は(彼らの多くはいまだに新聞を読んでいる)、きちんと説明を受ければ、思慮深く的確な判断を示す。

そして、元防衛幹部は、改憲案を通しやすくするために安倍は2019年の新天皇の即位と2020年のオリンピックによって喚起される愛国心を利用するだろう、と示唆する。


安倍は具体的には何を変えたいのか?

安倍は特に憲法第九条に、自衛隊と彼らの国防の役目を認める(つまり、合法化する)段落を含ませたいと望んでいる。現行憲法の「…陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という平易な文言は、自衛隊が違憲だという議論を生む。なぜなら彼らはまさに“軍隊”のようだからだ。このことが長年にわたる政治的混乱を引き起こし、実力を発揮することのできない自衛隊の力を削いできた。

とりわけ、いささかややこしいことに、安倍案は、国権の発動たる戦争と、国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇又は武力の行使、という現行第九条の文言をそのまま残している。

どうやら首相案は、政治家と国民からの最大限の支援を得るために、“最大公約数的な共通点”のようなものに落ち着いたようだ。以前流布していた、天皇の役目を日本の長という風に“政治的に扱い”、国家に対する国民の義務に関する点が含まれていた案と比較すると、相当な後退だといえる。それは、第二次世界大戦以前の日本の考えにちょっと近すぎるようだった。安倍自身がそう思わなくても、何名かの自民党の政治家たちにとっては。


憲法改正は自衛隊をどのように変え、何が起きるのか?

ほとんど何も。

憲法の防衛関連条項はすでに長い間、元々の文言からかけ離れた解釈をされてきた。日本政府はこれまで頻繁に、第九条と“平和憲法”を理由に、日本がやりたくないことを回避してきた。

だが、“アメリカに押し付けられた”憲法にもかかわらず、日本は常に、必要とされること(もしくは、やりたいこと)は何でもすることができ、数年前に安倍が押し通した“集団的自衛権”の新解釈は、物事をより簡単にした。

現行憲法の下でも、安倍はそれまで十年にわたって減少傾向にあった防衛費を徐々に増やし、自衛隊は以前にも増してアジア地域と世界各地に出動するようになった ― たとえそれが厳密に言えば控えめな努力だとしても。そして直近では、自衛隊がシナイ半島で多国籍軍監視団に参加するという話もある。

第九条を変えても、自衛隊を展開するにあたって、日本はこれまで同様に注意深く行動するだろう。日本の防衛費が目覚ましく増えることはないだろうし、自衛隊は共同作戦に必要とされる十分な能力にまだ欠けるだろう。軍事アナリストの北村淳は、「自衛隊の各部門は、引き続きそれぞれの利益を確保しようとするでしょう」と言う。

人口減少に伴い、自衛隊員を募集することはますます難しくなる。そして軍備調達は、日本の国防に何が必要かという包括的な評価に基づいたものではなく、引き続き派手な特効薬系に集中するだろう。

憲法が変更されると惨事が起こると野党は警告するが、自衛隊は暴れ回るようなことはしない。彼らにはそんなことをする人員も兵器も装備もないし、日本政府の誰も(ましてや自衛隊の誰も)そんなことには興味がない。

興味深いことに、中国と北朝鮮の脅威をもってしても、いまだに日本政府は気持ちを集中させてはいない。

軍事アナリスト北村の見立てでは、憲法が改正されても日本の政治家や官僚は引き続き“無邪気に”アメリカを日本の国防の保証人とみなすため、たとえ“自衛隊が真の戦闘力を持たなくても”、大した違いはないということだ(訳注:原文では「it does matter much to them 大きな違いがある」となっているが、おそらく脱字だと思われる)。

だが、安倍案が違いを見せるのはここだ。それは、自衛隊を尊敬される職業にしようというものだ。日本の軍隊は長い間、日本の役人や政治家たちから過小評価され続けてきた。基地の外で制服を着た隊員たちを見ることは稀なことだし、また、自衛隊員に要求される任務の量を考えると、任務時間は事実上農奴のそれに等しい。

憲法に自衛隊を明記することを手始めにこの状況を変えれば、自衛隊とその能力に、徐々に有益な影響が表れてくるだろう。


もし安倍がこれをやってのけた場合、アジア地域(とさらに遠い地域)にどのような影響があるか?

アメリカは、日本が改憲前と同じ程度に協力的だと見るだろう。

中国は、彼らの習慣として、政治的なポイントを稼ごうとして今と同じように吠えるだろうし、その一方で中華人民共和国の東アジア支配にあたっての唯一の障害となる日本に対して優位に立てるように、人民解放軍をさらに優れた部隊にして日本に圧力をかけ続けるだろう。

韓国は? 日本は韓国の一番悪い部分を引き出す。だから、なんであろうと、彼らもまた文句を言うだろう。

アジアの他の国々は誰も気にしない、というか、気付きすらしないだろう。

実際、もし安倍が憲法を変えることができたとしても、1年もすれば人々は(日本の中でも外でも)一体彼らが何について文句を言っていたのか、ほとんど忘れてしまうだろう。

だから、安倍には彼に向いた仕事がある。それが憲法を改正するほどの努力に値するかどうかには議論の余地があるが、彼は挑戦するだろう。アメリカの俳優ジョン・ウェインはこう言ったと伝えられている(たとえ実話ではなかったとしても) ― 「男は、やるべきことをやらないといけないものだ」

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 浅岡 寧)

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