【元米軍海兵隊士官提言・必読】東京からの視点? 控えめな反応

ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでの安倍首相とプーチン大統領との会談が日本でも複数のメディアに取り上げられていますが、それと同時に行われているロシアの大規模な軍事演習に中国の人民解放軍が参加したことについては、どれだけの日本人が興味を持っているでしょうか。

グラント・ニューシャム氏によるこの論文は、日本にほど近い極東地域において現在進行形で行われている軍事行動準備とそれが意味するものに関して、あまりにもナイーヴな日本に警告を発しています。

こちらの記事は、Asia Timesに掲載された記事の翻訳です。

Post by  Yasushi Asaoka 2018/08/144   1:00

ASIA TIMES by By GRANT NEWSHAM 2018/09/11】

国内政治の駆け引きに注目し、中国と北朝鮮を警戒している日本は、そのすぐ裏庭でロシアが展開する大規模な軍事演習には関心がない。

ロシアの大規模な軍事演習、ヴォストーク2018が始まる火曜日(9月11日)、東方に雷鳴が鳴り響く。広大なロシア全土から集結した兵士たちに加え、中国から3千名の兵隊と30機の航空機が、さらにモンゴル軍もそれに参加する。

中国人民解放軍の参加は前代未聞だ。演習が行われる場所(訳注:モンゴル国境に近いトランス・バイカル地方のチュゴル軍事演習場)と、日本政府が中国政府に対して抱いている苛立たしい関係をかんがみ、日本の当局は演習を監視している。

だが、それ以外においては、北朝鮮が日本の方角にミサイルを試射したり、中国の潜水艦が日本の管理下にある尖閣諸島(中国はその島々を釣魚諸島と呼び、自国の領土だと主張している)に接近したりといった近隣諸国からの挑発と比較すると、日本の反応はずいぶんと控えめなものだ。

事実、ヴォストーク2018の準備期間中、30万人以上の兵隊が参加するとされるその演習が行われること自体が、ほとんど認識されていなかった。今現在、日本の政治的関心事は国内にある。

「日本の政治家と官僚の大多数は、ヴォストーク2018という名前すら知りません」と、日本の軍事アナリストである北村淳は言う。「彼らは、安倍晋三首相と彼の長年のライバルである石破茂との間の自民党総裁選にしか興味がありません」

さらに、ヴォストーク2018は、海軍も参加してはいるものの、主に陸上での演習であるため、防衛関係者もメディアも軽視しがちだと、彼は付け加える。人民解放軍からの派遣団の存在にもかかわらずだ。

大手新聞社に防衛関連の記事を寄稿している、とある日本の記者もこの意見に同意する。つまり、報道の少なさは一般大衆のヴォストーク2018に対する関心の薄さを示しているということだ。安倍もそれを望んでいるのだろうというのが、彼の意見だ。

「安倍政権は、対中国と対ロシアに関して、明らかに安全保障政策を区別している」と彼は言う。たとえば、中国に対するよりもはるかに少ない注目度と、より慎重に選ばれた言葉遣いをロシアに向けている、先日発行されたばかりの日本の防衛白書を彼は引き合いに出す。

安倍は、日本とロシアの間の安全保障問題を扱うにあたって、就任以来すでに20回以上も会っているロシア大統領ウラジミール・プーチンとの個人的な関係を頼りにしているとされる。その関係は、水曜日にウラジオストクで開催されるプーチンの肝入りプロジェクトである東方経済フォーラムに安倍が再び参加する際に、人々の目に触れることになる。

重要な案件として、安倍はこの個人的関係が、第二次世界大戦末期にロシアが日本から強奪し、いまだに占領し続けている島々に関する「北方領土」問題を解決するのに役立つと期待している。だが、それは儚い期待のように思える。安倍の北方領土に対する(そしてプーチンに対する)固執は、憲法改正に対する彼の頑なな意欲と同様に、時に第三者の目からは危険なまでに執着し過ぎているように見える。

しかし、国際基督教大学のスティーヴン・ナギ教授によると、現在三選を狙う安倍は、実際には日本の利益を長期的視点から見ているという。「島々を奪回することは、様々な理由から不可能だと思われますが、現実主義者である安倍首相は、島々への日本人のアクセスを確保しようとしているようです。日本にとっての長期戦は、将来において中国と天秤にかけるためのパートナーとしてだけでなく、日本経済のためのエネルギー資源の供給地としてのロシアとの絆を強めるために、極東地域を開発することです」

日本の防衛省のアナリストもまた、中国軍とロシア軍の相互運用能力の重大な制限と、両国間の信頼の根本的な欠如を理由に、ヴォストーク2018への人民解放軍の関与については無関心なようだ。この演習がまさに他でもない、それらの問題を改善するために計画されているという事実は見落とされてしまっているようだ。

軍事アナリスト北村は、防衛当局と安倍政権はロシアの日本に対する軍事的脅威を意図的に(たとえそれが間違っていたとしても)過小評価している、という意見に賛成する。また、安倍政権が中国の関与について過小評価することに特別な関心を持っているということも、彼は示唆する。同じく東方経済フォーラムに出席するためウラジオストクを訪問する習近平国家主席をこの秋東京に招待しようと企んでいるため、安倍はいかなる混乱をも避けたがっていると、彼は指摘する(訳注:原文では「does want any disruptions どんな混乱でも求めている」となっているが、おそらく脱字だと思われる)。


ロシアと仲直りする中国

しかし、政治的手腕を発揮する人もいれば、近視眼的な人もいる。「日本の官僚が戦略的思考に欠けることは、特に珍しいことではありません」と北村は言う。

彼の視点では、ヴォストーク2018は、中国が自らの主権を主張する南シナ海、東シナ海、西太平洋に集中するために、ロシアとの国境での諍いを減らす方策のひとつだ。中国はまた、ロシアからSU-35戦闘機、S-400ミサイルやその他の兵器を購入している。だから、中国がヴォストーク2018に参加することは「驚きではない」ということだ。

北村によると、つまるところ、ヴォストーク2018は日本の防衛政策に実際の影響を与えはしない。米軍への過度な依存は、日本の防衛の基礎であり続けるだろう、と彼は言う。

安倍を「現実主義者」だと呼ぶ元航空自衛隊幹部の見方はそれほど悲観的ではない。彼はヴォストーク2018が「政治的な示威行動、または実務的な同盟」なのかどうかは不透明だと言う。いずれにせよ彼は、自衛隊、特に航空自衛隊がロシアを十分に警戒しており、たとえ日本の防衛の主目的が中国から南方の島々を守ることだとしても、今後もその警戒を継続すると断言する。


太平洋の対岸からの警告

だが、日本人が自己満足に陥っている一方で、一人の米海軍専門家が警鐘を鳴らす。

元米海軍太平洋艦隊情報長官、ジム・ファネル大佐は、日本、アメリカ、欧州各国それぞれの政府が人民解放軍の参加をより真剣に受け止める必要があると警告する。ひとつ確かなことは、これが「中国とロシアの関係を示す重要な新事実」であり、人民解放軍がどれほど進化したかを示すものだ、と彼は言う。

「ロシア最大の国家的戦略演習に人民解放軍が参加することは単に前代未聞なだけでなく、いかにロシア軍と中国軍が接近したかと、両軍の相互運用性の傾向線を示すものです」とファネルは語る。「これは、安倍政権にとって重大な懸念となるべきものです」

「2005年に行われた最初の共同海上軍事演習の後、ロシア軍は人民解放軍の実力をよく言ってアマチュア並みだと評価していたというのが共通認識でした」と彼は付け加える。「それから13年にわたる日本海や地中海での中ロ両軍による共同演習と、10年半におよぶ米軍との絶え間ないやり取りを経た今、人民解放軍はロシア軍の尊敬を勝ち取るまでに成長しました」

さらに、アメリカとその北東アジア、ヨーロッパそれぞれの同盟国が頭を悩ませることがある。

「なぜならこの演習は、北朝鮮の核問題に端を発するいかなる国際問題においても、ロシア極東軍には味方がいるという信号を送っており、そしてヨーロッパの国々にとっては、ロシア西部軍が「二正面」作戦の応援に囚われるという懸念から解放され、対NATOに注力できるということが次第に明らかになってきたからです」とファネルは言う。


果たしてモスクワは北京を助けるか?

同様にプーチンは、もし台湾や北朝鮮、さらには日本を巻き込んだ問題が起こった際には、プロフェッショナルな好意の証として、軍事的にも政治的にも、中国に報いて援護するだろう。

別のアメリカ情報将校は、ロシアと中国の関係を短期的、長期的それぞれの視点から見た場合、ヴォストーク2018の重要性は異なると指摘する。

根本的には、中国とロシアはお互いをそれほど気にかけているわけではないが、お互いの利益が一致する場合には短期的に協力することにやぶさかではない。利益とは、主にアメリカの影響と軍事力を削ぐということだ。だが、長期的にはまた別の話だ。

プーチンと習近平の蜜月を超えたところに、朝鮮戦争で毛沢東に多大な犠牲者を出させるに至ったスターリンの策略に始まり、後の世界的な(特に東アジアでの)共産主義運動の覇権争いに至る、本能的な警戒心が両国にはある。

今日では、表面上はロシアの極東地域に投資を求めているプーチンでさえ、ある朝目覚めるとロシア領内の過疎地に5つの新たな深センが突然誕生しているかもしれないことを恐れているだろう。

だから、クレムリンが北京政府に対してリスクヘッジをしていることは驚くべきことではない。

中国に激しく対抗しているベトナムに、キロ型潜水艦と最新式航空防衛システムを提供したことが、その主な証拠だ。ロシアの石油会社ロフネスチのベトナム支社も、中国が領有権を主張する南シナ海において、ハノイ政府の後援のもとに採掘をしている。

ロシアはまたインドネシアに戦闘機を売却し、インドに対しても主要な兵器供給元であろうとしている。その両国とも、中国との関係は苛立たしいものだ。

では、ヴォストーク2018は重要だろうか? アメリカ人は「そうだ」と言い、ロシア人と中国人は「そうだ、今のところは」と言うだろう。日本人は、それについて考えたくないようだ。

トップ画像:TAS News Agency
※無断転載禁止

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 翻訳 浅岡 寧 )

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