【米国:スクープ?】「アマゾンのためのものだと誰もが即座に分かった」:ベゾスはDCでトランプより強力になったのか?

アマゾンが米国国防省のクラウドの基盤に採用されたのは、単純に世界のクラウド市場でトップを走る同社の実績を考えれば当然と感じる人も多いかもしれません。
アマゾンに有利な入札条件の話や、ロビイストの利益相反の話が本当なら問題かもしれませんが、同時にこの記事のキーとなる情報源がほとんど匿名であることに注意すべきでしょう。
匿名のリークには様々な思惑がつきものです。
手法が正当なものであったかはこの記事だけでは何とも言えませんが、同社がまた大きく一歩リードしたのは間違いないでしょう。
Post By H.Izumi  2018/08/16  22:36

VANITYFAIR by by May Jeong 2018/08/13】

米国防省の100億ドル(約1兆1000億円)の不透明な契約が示唆するのは、ジェフ・ベゾスが沼地を丸のみにするところにまで及んでいるということだ。
しかもホワイトハウスのあの男に瞬き1つさせずに。
新たなスキャンダルがワシントンで静かに展開している。
ベン・カーソン住宅都市開発長官がオフィスの小食堂セットを31,000ドルで買ったことや、環境保護庁のスコット・プルーイット前長官が側近に、売り出し中の中古マットレスを探しに行かせていたことよりもはるかに大きな問題だ。
それには世界で最も裕福な男、トランプ大統領のお気に入りの大将、そして100億ドルの国防省の契約が関わっている。またテックジャイアント(技術系大手企業)とシリコンバレーの大物が、次世代のワシントンをいかにして支配するかを示す兆候であるかもしれない。

議論の的になっているのは、国防省の全データ(機密も非機密も)を、クラウドに移行するという計画だ。
現在情報は約400カ所のセンターに分散されているが、CIAが2013年に行ったように、国防省幹部はクラウドベースのシステムに統合することでより安全で使いやすくなると考えている。
そのため国防省は7月26日、Joint Enterprise Defense Infrastructure(共同事業防衛基盤)の略称で、JEDIと呼ばれるものに対する提案依頼を発表した。
勝者独り勝ちの契約を獲得すれば100億ドルが与えられ、たちまち米国最大の政府請負業者の1つになる。

だがJEDIが発表された時、ちょうどそれは議会が夏休みであったが、ただ1つのプロバイダー:アマゾンに有利なように取引が操作されていたようだった。
1,375ページに及ぶ提案依頼の事情に詳しい内部関係者によると、アマゾンしか満たすことのできない技術規定が数多く存在しており、他の主要なクラウド・サービス・プロバイダーが契約を勝ち取るのが(あるいは志願することすら)困難になっているという。
例えばある規定では、入札者のクラウド・サービスによる年間の売り上げが20億ドル以上でなければならないことが要求されている。
つまり「大きければ大きいほど良い」という前提条件によって、アマゾンの競合の数社以外全てが排除されている。

さらに、JEDIを作り上げる過程には、トランプが「さらう」と約束した「沼地」の持つあらゆる特質がある。
国防省がクラウドに加わるということについては長い間議論があったが、現在の入札要請がまとめ上げられたのは、以前アマゾンの顧問を務めていたワシントンのロビイストをジェームズ・マティス国防長官が採用してからのことだった。
ロビイストのサリー・ドネリー(Sally Donnelly)は、JEDIの詳細が打ち出される中でマティスの上級顧問を務めていた。
彼女の在任中、マティスはシアトルに飛びアマゾン本社を見学しジェフ・ベゾスと会った。
その後クラウド・コンピューティング契約がまとまると、ドネリーが以前勤めていたロビー会社、SBDアドバイザー(SBD Advisors)はアマゾンのクラウド・コンピューティング部門とつながりのある投資ファンドによって買収された。

その過程を検証していた議会の内部関係者は、政府機関の職員が個人の利益に影響のある政府の決定に加わることを禁じる連邦法に、ドネリーが違反していなかったかどうか疑問視している。
ある議会幹部スタッフは匿名を条件にこう話した。「我々は最近国防省とアマゾンのクラウド契約の過程に関連して、重大な犯罪行為があった可能性に気づいた。
我々は、アマゾンと緊密なつながりを持つ国防省職員が、何十億ドルにもなるクラウド契約に影響を与えた可能性に関連して、利益相反と不適切な行為があった可能性が示唆されることについて懸念を持っている」

ドネリーは弁護士を通じていかなる不正も否定している。
弁護士はこう語った。
「ドネリー氏は国防省に足を踏み入れる前に、SBDアドバイザーの株を全て売却しました。その時点からずっと、彼女はSBDアドバイザーやその顧客における金銭上の、またそれ以外の利益を全く持っていません」

だがどんな法的または倫理的境界線が引かれたとしても、そうでなくても、アマゾン幹部の国防省とのつながりは、ジェフ・ベゾスがワシントンでいかに影響力を振るい続けているかを明確に示している。
大統領自身がインターネット業界の巨人を厳しく非難しているにしても、だ。
またもっと大きな疑問も提起される。ワニたちがこれまで以上に巨大になっているのにどうやって沼地をさらうのだろうか?
多くの主要IT企業が参加する業界団体を運営する、業界通のジョン・ワイラー(John Weiler)は次のように話した。「100億ドルを調達するあいだにそのような接近手段を持っているとすれば、その調達の正当性は損なわれている。アマゾンは基本的にその筋書きを描くことができたのだ」

JEDI契約の詳細によって、アマゾンのような新参者が国防契約の悪名高くも閉鎖的な世界で、どのようにやっていくのかという手段が見えてくる。
この問題の中心のロビイストであるドネリーは、タイムの元記者であり2012年にホワイトハウスから半マイルのところに自身のロビー活動事務所を開いた。
SBDアドバイザーは、NSAと国防省から多くの元高官を集め、顧客が「国家安全保障の分野で政治とメディアの環境をかじ取り」し、「チャンスを最大限に生かす」のを手助けすると豪語していた。
ドネリーの顧客の中にいたのがアマゾン・ウェブ・サービスというインターネット業界の巨人のクラウド・コンピューティング部門だった。

ドネリーはSBD時代にマティス大将と緊密な関係になった。
マティスがトランプ大統領によって国防長官に指名されると、彼女は上院での承認手続きを進めるために駆り出された。
就任宣誓が終わった翌日、ドネリーは特別補佐官としてマティスのところで働くようになった。

ドネリーはマティスに直接近づくことができるようになったが、クラウド業界はそれを知っていた。
ドネリーの近くで働いたことのある消息筋はこう話した。
「必要なことがあればサリーに伝える。するとサリーが国防長官に伝えるというのは周知のことだった」
ドネリーは長官の上級顧問の1人として、彼のスケジュールを吟味し会議の手配をした。彼女の見守る中で行われた最も重要な会議の中には、2017年8月10日に行われたシアトルのアマゾン本社の訪問があった。
アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、マティス国防長官(#SecDef Mattis)を迎えた自身の写真を自らツイートした。

アマゾンは、ベゾスとマティスはその訪問でクラウド入札についての話はしていないと主張している。
だが報道によると国防長官は、訪問から帰ると国防省はデータを民間のクラウド事業者に移す必要があると確信したとされている。
マティスがベゾスに会ってから1カ月後の2017年9月13日、国防省は国防長官のシアトル訪問を引き合いに出したメモを公開し、「革新の震源地」として称賛した。
それからメモでは230万人の職員と軍人のために国防省の全データをカバーするクラウド入札を求めた。
アマゾンは突然100億ドルの国防契約を勝ち取る主要な立場に立ったようであった。

事実、JEDIに書かれている内容のほとんどがジェフ・ベゾスのために特別に調整されているように思える。
匿名希望のある競合入札者はこう言っている。
「それがアマゾンのためのものだと誰もが即座に分かった」入札に参加するのにさえ、業者は各データセンター間が少なくとも150マイル(約241キロメートル)離れるようにしなければならないが、これは現在アマゾンしか満たすことのできない条件だ。
またJEDIでは「32GBのRAM」が要求されているが、それはアマゾンのサービス仕様そのものだ。(一方マイクロソフトは28GBしか提供しておらず、グーグルは30GB。)
JEDIにはアマゾン独自の用語が散見する。例えば「高耐久(ruggedized)」ストレージ・システムを要求するとしているが、アマゾンは自社のSnowball Edge製品の宣伝に同じ言葉を使っている。

国防省はマティスもドネリーもJEDI構想には関与していないと言っている。
だが議会関係者は、ドネリーがロビー会社の売り上げからいつどのように利益を得ていたかをさらに吟味する予定だ。
ドネリーの資産公開報告書によると、彼女はマティスのところで働くようになる2日前にSBDアドバイザーの株を117万ドル(約1億3000万円)で売却した。
だが、国防省で働いている間も継続して給与を受け取っており、その時点でアマゾンは引き続きその会社の顧客だった。それからドネリーが国防省を辞めて2週間後の3月、SBDはC5 Capitalというアマゾンと直接のつながりを持つ未公開株式投資会社に買収された。

C5はウェブサイトで、「AWSの地理的拡張によって造成されつつある成長の機会を満たす」ために、アマゾン・ウェブ・サービスと協力していると吹聴している。
2016年にC5とAWSは、アフリカと中東のクラウド新規事業を支援するための、バーレーンに拠点を置くファンドで提携を結んだ。
2017年5月にワシントンで行われた共同イベンドで、アマゾンの世界公共部門の副社長、テレサ・カールソンは、「我々は長い間世界中でC5と提携してきた」と話した。

グーグル、マイクロソフト、IBMといったアマゾンの主要な競合は、JEDIがアマゾンに有利になるように作り上げられたことに憤慨している。
匿名希望のある競合入札者は、「業界の誰もが全く驚いた」と話している。
8月7日にオラクルは政府説明責任局に正式に抗議し、JEDIが連邦調達法に違反していると主張した。
さらにサイバー・セキュリティの専門家の中には、国防省のデータをただ1つの会社に管理させればサイバー攻撃に対して脆弱になり、革新を損なうと警告する声もある。

アマゾンとその他は、データを分散させないのは理に適っていると言っている。
カールソンはワシントン・ポストにこう述べている。
「十分な経験とクラウドを理解している従業員がいなければ、複数のクラウドを吸収して複数のアーキテクチャを作り出そうとするのは非常に困難になるだろう」
 またJEDIのプロセスにおいて広く認識された同社の強みは、国防省の契約については依然として大きければ大きいほど良いとみなされていることを浮き彫りにしている。
アマゾン・ウェブ・サービスは昨年175億ドル(約1兆9400億円)を生み出しており、オンラインの巨人である同社の全売り上げの10パーセントに近い数字だ。
ハドソン研究所の防衛アナリストであるウィリアム・シュナイダーは次のように話している。
「アマゾンはこの市場で早期に成功した。支配的な立場でありインテリジェンス・コミュニティに初めてクラウド・サービスを提供した業者だ」

もっと広い意味では、JEDIの契約はテクノロジー企業がワシントンでますます強い影響力を及ぼしていることを――そして彼らがいかにして自己の利益のためにますます沼地に根を下ろしているかを表している。
アマゾンは2000年以来6700万ドル(約74億2千万円)をロビー活動に費やしてきた。
それには今年のシティグループ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴを合わせたより多額の費用も含まれる。ワシントン支社には100名以上のロビイストを擁し、そのうち68名はいわゆる「リボルバー」と呼ばれる政府職員から民間に移った人々だ。
同社はまた内部とのつながりを持つ元官僚も多く採用している。
それには行政予算管理局のクラウド・コンピューティング部門で働いていたスコット・レンダや、政府の最高取得責任者を務めたアン・ラングがいる。

JEDIの契約が大きなものだと思うのであれば、このことを考えてみて欲しい。
昨年ラングは、ベゾスに協力していわゆるアマゾン修正条項の可決を手助けした。
国防権限法案の陰で忘れ去られた規定であり、アマゾンを政府がオンラインで購買するための主力ポータルとして定めるものだ。
購買金額は毎年530億ドル(約5兆8800億円)に上る。
トランプ大統領はアマゾンを非難する扇動的なツイートを放つのを楽しんでいるかもしれない。
だがベゾスは静かに政府の莫大な税金で自身の帝国を強化する新しい道を見出している。
そして国防省もそれを手助けしているようだ。

(海外ニュース翻訳情報局 泉水啓志)

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