【尖閣諸島:必読論文】東シナ海の“指関節”

西日本を襲った豪雨災害の対応に自衛隊が追われている最中にも、中国は尖閣諸島周辺に船を送り込んできていますが、ほとんどの日本人はそのようなニュースを読んでも、苛立ちはすれども、もはやいつものことだと慣れてしまっているのではないでしょうか。サラミ・スライスと呼ばれるこのような戦略に関して、台湾在住の軍事評論家、ウェンデル・ミニック氏が日本とアメリカに警告を発しています。

トランプ大統領は、就任当初は在日米軍の存在や日本の軍事費用負担額に懸念を表明していましたが、最近ではそのような言動は鳴りを潜めています。北朝鮮問題などもあり、彼も在日米軍の重要性を再認識したのかもしれません。では、当事者である日本はどうでしょう。このまま、尖閣諸島周辺で中国に自由自在に振る舞わせ続けるのでしょうか。その行動は、これ以上エスカレートすることはないのでしょうか。ここで問われているのは、将来を見据えた日本の覚悟です。

こちらは、シェパード・メディアに掲載された論文を翻訳したものです。

Shephard by Wendell Minnick in Taipei 2018/07/16】

東シナ海に浮かぶ日本の尖閣諸島を奪取するための中国軍による軍事作戦が成功すれば、それは日本と台湾にとって“実存的な危機”につながる、と専門家は指摘する。
中国はその諸島を釣魚島と呼び、歴史的に自国の領土だと主張するが、中国の漁船、海上巡視艇、軍艦がその岩でできた小島に関して日本の管理に異議を唱え始めたのは、ほんの2012年以降のことだ。

中国は、尖閣諸島を”核心的利益“だと正式には位置付けていないものの、それらの島々が”遥かな昔から中国の一部“だったことは”まぎれもない事実“だとしている、と元アメリカ太平洋艦隊情報戦担当主任ジェームズ・ファネルは語る。
「だから、2012年9月に日本がその諸島を国有化することによって中国を挑発したという口実のもとに、中国が海警局の艦艇を送り込んだことは、驚くべきことではなかった」と、彼は言う。それ以降中国は、ゆっくりと、しかし確実に、諸島周辺での海軍の存在感を増している。
諸島上空と海域への侵入に対応して日本が戦闘機や艦艇を出動させざるを得なくすることにより、中国は“首縄を締めていく”だろう、とファネルは考えている。
日本がその諸島を放棄することは考えられないため、彼ら(中国)が速度論的方法をもって諸島を支配下に置こうとするかどうかを決定するのは時間の問題だ、と彼は警告する。

東京の日本戦略研究フォーラムの主任研究官であるグラント・ニューシャムによると、尖閣諸島は、メイソン・ディクソン線(訳注:アメリカ南北戦争以前の北部と南部の境界線。現在のメリーランド州とペンシルヴァニア州の州境)を挟んでの軍の招集命令を引用して、”指関節(ナックル・ジャンクション)“になってしまった、という。
中国は日本を挑発し、「戦いたくてうずうずしている」と彼は言う。彼らは「いつでも好きなときに尖閣諸島の支配を主張することができる」と信じている。
外交官として、またアメリカ海兵隊の日本自衛隊との連絡将校として20年以上の経験を持つニューシャムによれば、東シナ海の戦略的な位置関係は地図を見れば明白だという。

日本、韓国、中国、台湾に挟まれた位置関係から、東シナ海は間違いなく重要な海域だ、とアメリカ国防大学のバーナード・”バド“・コール名誉教授は述べる。 中国と日本のどちらにも、交渉しようという意思はない、と彼は言う。「その土地の所有権に関していかなる紛争が存在することも日本は認めておらず、皮肉なことに、それは南シナ海における土地の所有権に関しての中国の言い分と同じである」 その諸島をめぐっての戦争に巻き込まれることを、アメリカは心配している。1972年にアメリカがその地域を日本の管理下に返還した際、日米安全保障条約のもとにアメリカがその土地を防衛する責任を負った。

「これは単に尖閣諸島周辺のエネルギー資源や漁業権などについてだけではなく、その地域全体における国家間の順列に関する問題だ」とワシントンにある戦略予算評価センターのシニアフェロー、トシ・ヨシハラ(吉原恒淑)は言う。
「それは、将来において中国がアジア近海を支配することについてだ。東シナ海で中国が物事を規定できるようになることは、中国が第一列島線を越えて太平洋に進出する力を示し、それは台湾で中国軍が偶発事件を起こす可能性につながる」と彼は言う。

度重なる海軍と空軍の出撃を含む、東シナ海で増加する中国の軍事活動はまた、日本に絶え間ない圧力をかけ続けている。特に、南西諸島の南側において。「敵対するこの2か国の規模と密接な関係は、歴史的なものだ」
1894年から95年にかけての日清戦争以降、日本にとって中国が海上での脅威になることを恐れる心配がなかったことは特筆すべきだ、とヨシハラは言う。

中国政府が現状に甘んじていることはないだろう。「中国には、日本に圧力をかけ、脅しをかける手立てはいくらでもある。中国政府がアジア征服計画の次のフェーズに踏み出せると見込む転換点を、我々は予期しておく必要がある」と、『太平洋の赤い星 中国の台頭と海洋覇権への野望』という影響力のある本を著したヨシハラは語る。「これはほんの始まりにすぎない」

コールによると、日米安保条約に関するアメリカの公約を中国政府は真剣に見ているが、一方で、航行の自由作戦のようなものを実行することで、日本は実際には運営管理を行ってはいないことを示しているという。
「日本の海上自衛隊と海上保安庁は、数において中国軍にますます引き離され、侵入を防ぐことが不可能になっている」と彼は言う。アメリカ海軍に30年間務めたコールは、『ザ・グレート・ウォール・アット・シー(海上の万里の長城 未邦訳)』の著者だ。

アジアの安全と日本の防衛に関するアメリカの公約について、日本政府は心配していると、ワシントンにベースを置く空軍協会のミッチェル航空宇宙学研究所の客員シニアフェロー、ロバート・ハディックは語る。
就任直後、アメリカ大統領ドナルド・トランプは日米安保条約について”正論“を述べた。しかし日本は尖閣で起こりうるシナリオに向けて、自衛隊を援護するために、引き続き第七艦隊を必要としている、とハディックは言う。
「どうすることもできない。中国とロシアは、この地域における関与を進めるというアメリカの長期戦略をトランプ大統領に撤回させる方法を探し続けるだろうからね」。ハディックは、『ファイア・オン・ザ・ウォーター(海上の炎 中国、アメリカと太平洋の未来 未邦訳)』の著者だ。

もしも中国が一方的に尖閣諸島を支配した場合、「アメリカと日本の真剣な努力なしには、台湾の命運は尽きる」とニューシャムは警告する。「私は本気で言っている。真剣な努力だ」
「もしも台湾が”陥落“すれば、それと同時にアジアにおけるアメリカのすべての地位は崩壊する」と彼は言う。「そしてそれは、中国の人民は圧政をもってのみ統治できるという中国共産党の嘘を暴く、活気に満ちた民主主義と国民の合意に基づいた政府を擁するが故に、中国共産党への実存的な脅威として存在し続ける台湾の将来にとっても同じことだ。そうなる確率はかなり高い」

島を中国に明け渡すことは、”日本に決定的な損傷を与える、この海域における重大な戦略的シフト“となるだろう、とハディックは言う。

戦略的にその諸島は、台湾や南シナ海の島々と同様に、自らの管理下に置くことができていない最後の統治区域だと北京政府は考えている、とファネルは語る。中国の再建のためには、それらの島々を獲得しなければならないことを、北京政府は明確に表明した。「中華人民共和国は、理想的にはそれらの島々を、実際に銃弾を発射することなく獲得することを望んでいるが、彼らは実行に出ることも厭わない」

どうやら、尖閣諸島の侵略はすでに最初の準備段階にあるようだ。
情報によると、中国軍は浙江省沖にある南麂山(南ジ島)での巨大な軍事ヘリコプター基地とレーダー設備の建設を完了したという。
その施設は尖閣諸島からおよそ300キロの地点に位置し、複数種の中国の攻撃用・運搬用ヘリコプターの稼働範囲内となる。それらのヘリコプターの種類は、Z-10(霹靂火)攻撃ヘリコプター(航続距離855㎞)、Z-19(黒旋風)攻撃ヘリコプター(航続距離646㎞)、Z-8G(直昇18)貨物運搬ヘリコプター(航続距離940㎞、乗員27名または 4トン貨物搭載可能)。

ニューシャムが言うには、もし“浸透”戦略がうまくいかない場合、北京政府は日本に思い知らせるため、またはもしかすると尖閣諸島を制圧するために、短期・高強度戦法に打って出る準備をしている。「中国は、今はまだ準備ができていないかもしれないが、それも数年の問題だ」

最も気掛かりなのは、中国がその諸島を奪取するために特殊部隊を使うことだ、とファネルは言う。 北京政府首脳は特殊部隊の投入を、“互いの被害が比較的少なく済む可能性が高い、効率の良い奪取方法“と見ているかもしれない。

その他に、中国艦艇に護衛された漁船の集団でその海域を”埋め尽くす“というやり方もある。
今のままでは中国は確実に、数年のうちに効率的に海域を”埋め尽くす“ことができ、「それどころか、今日そうすることだって可能」だということぐらいは、日本の自衛隊は”計算“することができ、それを知っている、とニューシャムは語る。
「近年、中国が何百隻もの漁船を尖閣諸島や小笠原諸島に、特に尖閣の場合には人民解放軍の海警局艦艇に護衛をさせたうえで、送り込むケースが何度もあった」と彼は言う。

ニューシャムによると、中国のこの行動は自らの目的を果たし、「中国がその気になればどういうことになるかを日本に思い知らせる」ことになったという。尖閣・小笠原両方のケースで、日本の海上保安庁は完全に圧倒され、効率的に対応することはほぼ不可能だった。

この流れを変えるため、日本政府は外交的に、また軍事的にも努力を続けている、とハディックは語る。
努力とは、オーストラリア、インド、シンガポール、ベトナムとの新たな軍事協力であり、潜水艦や水陸両用戦艦の配備拡大や刷新であり、日本版水陸機動団の設立であり、特殊部隊の拡充であり、新型の長距離対艦ミサイルの配備であり、同じく新型の対潜哨戒機のことだ。
「それらの手はずは、日本が尖閣諸島を防御するための能力を格段に向上させ、攻撃の対価が高くつくことを中国に知らせる合図となるだろう」とハディックは言う。

「付近の海域においてすべての人々に気象上、海洋上の安全を提供するためという口実のもとに」民間人を諸島に駐留させることが、日本にとって最善策かもしれない、とファネルは提案する。
皮肉なことに、中国が南シナ海で懸案となっている海域の占領を正当化するために使っているのがこのロジックだ。「そのような行為の正当性はともかくとして、日本は人民解放軍の戦略と作戦計画に新たな皺を付け加えることになり、もしかすると中国共産党に自らの行為を再考させるに十分な抑止力と提供することになるかもしれない。もっとも、それは希望的観測ではあるが」

日本の自衛隊とアメリカ軍が東シナ海防衛のために完全に統合し、”常設の統合任務部隊“のもとに”日本の領海“において定期的な巡視、訓練そして統合作戦を開始することを、ニューシャムは提案する。新規の統合任務部隊は「沖縄のキャンプ・コートニーにあるアメリカ海兵隊基地で、お隣の第三海兵遠征軍とうまくやるだろう」

(海外ニュース翻訳情報局 加茂史康)

執筆者 ウェンデル・ミンニック:Wendell Minnick(顏文德) 
Shephardの上級アジア特派員。 アジアで20年間にわたって軍事と安全保障に関する問題を取材してきたライター、評論家、ジャーナリスト、講演者であり、インテリジェンスに関する1冊の本と1,200以上の記事を執筆。2006年から2016年にかけて、ワシントンに本拠を置く防衛ニュースのアジア支局長を務めた。2000-2006:英国に拠点を置くジェーン・ディフェンス・ウィークリーの台湾特派員。軍事および冷戦の話題に関する数多くの本を執筆。

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