【元米軍海兵隊士官・提言】金利引き上げと貿易戦争が中国でパニックを引き起こす

北朝鮮との最初の会談が終わるや否や、トランプ大統領は中国に対する経済的な締め付けを強化し始めました。その結果として中国に何が起こるか、そしてアメリカは今後どう振る舞うべきかを、元アメリカ海兵隊大佐のグラント・ニューシャム氏が解説しています。
この記事は、AND Magazineに掲載された論文の翻訳です。
2018/07/06  21:06

AND Magazine By Grant Newsham 2018/07/06】

中国人民には頭を痛めることが山ほどある

中国の株式市場はこの数週間のうちに数兆ドル相当の下落を見た。それはおそらく、激化するであろうアメリカとの貿易戦争に怯えてのことだ。数兆ドル、それは膨大な金額だ。たとえ中華人民共和国にとっても。

だが、そんなことは起こるはずがない。なんといっても、中国共産党で経済と市場を運営しているのは東洋の知恵を携えた素晴らしい名門大学出身者たちで、彼らは「長期的視点で」物事を考えることができる。だから、そこかしこをほんのちょっといじれば、経済も市場もうまくいくはずだ。西洋経済の一時的な乱高下とは違って。

中国共産党は、それが真実でないことを知っている。だが、現在の中国の統治者たちは過去のいかなる時代の人々よりも経済を上手く回す方法を知っていると思っている西洋人の中には、それを信じ、そして経済原理(というよりも、数千年の経験則と人間性)が、中華人民共和国にはあてはまらないと信じる人たちがいる。

明白なのは、そのような西洋人の中で実際に自らの金を中国に投資している者は稀だということだ。

もちろん、株式市場は経済の総計というわけではない。だが、各国政府はそれを自らの能力を反映させたものとみなしている。そして、中国共産党が主張する揺るぎない統治は暗黙のうちに経済指標の上に成り立っているため、混乱した市場は彼らにとっては大問題だ。

中国経済は、他のどの国の経済と同様に、少なくとも半分は心理的な一面がある。人々が彼らの現在と将来における展望をどう捉えるかが、通貨供給量や利率、利回り格差(ボンドスプレッド)といったものと同等に経済に影響する。そして、人々が十分に疑いの目を持ったが最後、物事はあっという間に破綻する。

3年前、上海株式市場が急落した際にそれは起こった。中国政府はそのとき、4兆ドルの外貨準備金のうち1兆ドルをつぎ込むことで一時的に事態を収拾する一方、株式の売買を中止したうえで、証券会社に対して、株を買うか「さもなくば」と脅した。空売り筋は逮捕すると脅され、あまりにも悲観的な予測を出したアナリストや高官は実際に逮捕された。

中国のシンクタンクである国家金融発展実験室が最近、財政的なパニックが金融恐慌を引き起こす可能性があると警告した。彼らは、今年立て続けに起こった債権貸し倒れや資金繰りの悪化、株式の下落や人民元安を指摘している。そのレポートは、アメリカの金利上昇と迫りくる貿易戦争から「中国人民は間もなく金融パニックを経験することになるだろう」と付け加えている。

パニックが実際にいつ起きるかを予測することは難しい。だが、独裁国家においても、心理学というものは自由主義社会と同様に影響する。いや、法や個人の権利という考えに基づかず、不公平に与えられた「コネ」と「地位」が肝心だという、根本的に腐敗したシステムに深く根付いた暗黙の性悪説のもとでは、むしろそれは自由主義社会以上に影響するだろう。実際、キューバ、ベネズエラ、イラン、ロシア、そして中華人民共和国が実証しているとおり、国民を投獄したり射殺したりできるからといって、経済をうまく運営できるということはない。

そして中国人民には、冷笑的になり、頭を悩ませることが山ほどもある。

不動産所有権の欠如に始まり、共産党やその幹部の気分ひとつで全てを失うかもしれないという恐怖。北京市民は昨冬、未登記の住民がみすぼらしい住処から寒空の中を故郷に追い返されたときに、それを思い知らされた。

中国では、大金を持つことも安全を保障するわけではない。なぜなら、大実業家たちですらしばしば国家との間に、投獄されずにいる、もしくは殺されずにすむといった難題を含んだ問題を抱えている。もし彼らですら安全でないとすれば、いったい他に誰が?

習主席の反汚職の動きにもかかわらず(もっとも、その動きは彼の家族、友達、味方を除外しているようだが)、あらゆる階級における汚職の数々がこの不安に輪をかける。

偉大なる中国を再建するために手を取り合う人民という政府のプロパガンダにも関わらず、中華人民共和国のすべてが穏やかというわけではない。中国国内の保安予算は通常の防衛予算を上回り、政府はもはや人民のデモについて発表しない――ときには噂が広まることもあるが。深刻な経済の失速といったきっかけひとつで、昨今抗議の声を上げたトラック運転手や退役兵士たちのような怒れる人民たちは、中南海(共産党本部)や共産党幹部に容易く矛先を向けるだろう。

何年にもわたり、共産党の手を逃れて、自分たちの財産と家族をアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアといった、安全で、正当な法体系があり、人権や不動産の権利が守られている国に移動することができる中国人たち(共産党幹部をも含む)は、誰もがそうしてきた。

中国で最も成功した人々は、先物取引のように、中華人民共和国の将来の展望とは逆張りをしているようだ。

だから、もし経済がひどく停滞し、中国共産党がかつて一人っ子政策で人口増加を抑制していたようには経済をコントロールできないという見方が蔓延したが最後、難問が党を待ち構えている。中国人がいかに国を愛していようと(実際、彼らは愛している)、それは問題ではない。彼らは貯蓄と財産を、そして平等に扱われ、能力を持って統治されることを、少なくとも国と同様に愛している。

トランプ氏は中国を脅かした。これは、アメリカ大統領としては稀なことで、通常は逆だ。トランプ政権はウォルマートに並ぶ安物商品にはあまり気を留めず、それよりも長期にわたってアメリカ企業に不利益を与え、やがて倒産させようとしている不正な中国市場をより気に掛けている。

貿易制裁やその他の経済的な圧力による大統領からの脅威は、中国共産党を悩ませる。外国からの直接投資、外国為替獲得高、そして中国経済がよりどころとしている技術への脅威を考えれば、悩んで然るべきだ。そしてそれはトランプ氏だけのことではない。今やより多くのアメリカやその他の国々の企業が、長年中国市場で成功しようとしながら「虐待された妻」症候群(バタード・ワイフ・シンドローム。訳注:日常的に夫から暴力を振るわれている妻が「自分に非がある」と思い込む心理倒錯のこと)の様相を呈していたことに、おずおずと気づき始めている。

だが、トランプ氏は戦略を注意深く遂行する必要がある。中国にとって関税は問題だ。特に、広範囲に、長期にわたって強硬に施行された場合には。だがそれは、アメリカの一部の産業界やコメンテーターにヒステリーを呼び起こし、しっぺ返しをくらう恐れもある。

中国の通信業者ZTEを追い回し、「死刑囚監房」に追いやったときは、大統領はうまくやった。それは中華人民共和国の幹部たちを震え上がらせた。それは、中国経済の海外の技術への依存度と、さらに中華人民共和国の生命線である輸出による外国為替獲得高という重要な要素を露呈させた。中国には、アメリカがいつでも標的にできる「次なるZTE」が列をなしている。

つまるところそれは、中華人民共和国のメディアや官僚が描く、立派な「実力者たち」が中国の経済発展をますます強力にし、世界的に優勢な不動の地位に導くといった華々しい光景では必ずしもない。

トランプ氏は圧力をかけ続けるべきで、ZTEに「逃げ道」を用意すべきではない。おそらく彼は、中華人民共和国が彼の好意に感謝し、その恩に報いるだろうと考えて、そうすることを決めたように見えるが。だが、中国はそんなことは決してしない。

そしてもし彼が、中国共産党が経済を運営するための魔法の杖を持っているわけではないことを証明したいのなら、相互的なやり方に固執した方がよい。そうすれば、アメリカに進出した中国企業も、中国に進出したアメリカ企業と同じ扱いを受けることになる。そしてそれは、力ずくの技術移転や、国を挙げて技術を盗むようなこともない、という意味だ。もし中国共産党がその悪い習慣を止められないならば、アメリカがその手助けをできる。

だから、この貿易戦争がどうなるか見てみよう。だが、もし中華人民共和国の経済が音を立てて崩壊したり、または悪化した挙句に人民が中国共産党を非難し始めたりしたら、いくら深センに地球上最多の高層ビル群があろうが、あるいは上海の浦東地区が田んぼだったのはほんのわずかな昔のことだったとしても、もはやそれらは大した意味を持たない。

それよりも、中南海は困ったことになる。そして、バンクーバーに新たな不動産ブームが巻き起こる。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 加茂史康 )

♥主流メディアが報じない海外情報をもっと知りたいと思った方はこちらにぽちっとお願いします。 ⇒ 
海外ランキング

 

この記事が気に入ったらシェアをお願いします。