【米国:必読論説】トランプの貿易赤字への取り組みは、世界を変え得る

トランプが自動車に対する高い関税をちらつかせ、日本の株価も影響を受けています。

安全保障はただの方便という見方もあるようですが、米国第一を掘り下げれば、安全保障、国内経済、選挙支持基盤の全てが絡み合っているようにも思えます。

ザ・ヒルに寄稿された、豪州ディーキン大学教授の論説ですが、ホワイトハウスのメルマガで紹介されていましたのでピックアップしてみました。

Post 2018/05/24  22:51

The Hill

ドナルド・トランプ大統領が、米国の巨額の貿易赤字(2017年で3,752億ドル:日本円で約41兆2千億円)削減のために中国と一騎打ちすることで、世界規模の貿易が根本的に変わる可能性がある。その場合、ヨーロッパとアジアにとっては損失が出るだろう。ほとんどの観測筋は2国間だけの関係に焦点を当て、世界の他の国々に迫り来る激震を見逃している。

トランプは先週こう断言した。「我々は中国に食い物にされてきた。これまでどんな国でもなかったほどに財産が退避され、別の国に与えられた。その国は米国から取得した多額の資金を基礎にして再建を果たしている。今後それが起こることはない」
トランプは中国が「非常に甘やかされてしまった。欧州連合は非常に甘やかされてしまった」と述べた。

中国の劉鶴副首相は先週、貿易戦争を回避することを目的としてワシントンを訪れた。中国は、2,000億ドル(日本円で約22兆円)の赤字を削減する計画であると報道された。だが、交渉は確固とした目標なしに完了した。共同声明で、米国政府と中国政府は、貿易赤字を大幅に削減するために効果的な措置を講じることで合意した。声明には、米国の農産物とエネルギーの輸出を含め、「中国は米国の商品とサービスの購入を大いに増加させる」とされていた。

トランプは、味気ない声明に揺さぶられることはなさそうであり、圧力を働かせるだろう。集団思考に反して、中国が赤字を大きく減らし、トランプと習近平国家主席との関係に基づいて両国の利益になるよう図ることもあり得る。経済的な利益に加えて、方策を持って協調して貿易赤字を削減すれば、両者にとって重要な外交政策を進展させることができるだろう。つまり以下のようなことだ。

1つ目に、中国は2017年にイランから119億ドル(日本円で約1兆3千億円)相当の原油を輸入した。米国が包括的作業計画(JCPOA:いわゆるイラン核合意)から離脱することで、中国が代わりに米国からこれを購入することができるようになれば、両国にとってメリットがある。

2つ目に、中国はいくつかの輸入品を、他の貿易相手国から米国の供給元へと切り替えなければならない。輸入のパイを増やすことでは赤字は削減できない。ゆえに、単に別のやり方でスライスしなければならない。また、米国が中国への輸出の大きなスライスを得るということは、他の国は小さなスライスを受け取らなければならないということだ。

これは、中国の最大の輸入パートナーである欧州連合(EU)にとって、重大な影響を及ぼす可能性がある。EUとトランプがイランや他の問題で分裂し、EU側がJCPOAの支持を継続するという戦略を取っていることを考慮すると、トランプには、中国を説得してヨーロッパの商品から米国の商品に切り替えるようにさせることに、インセンティブがある。敵意は別として、そのような転換は、中国が極めて即時に貿易赤字を削減する方法を提供することにもなる。米国企業は中国市場で、ヨーロッパの最も直接的な競合だ。

2017年においては、機械、製造品、化学薬品がEUから中国への輸入の85パーセントを構成していた。このうち、機械と車は全輸入の54パーセントを占めていた。それは、自動車、自動車部品、電気器具、電子管、その他の機械を含むカテゴリーだ。もうひとつの大きなカテゴリーは、航空機とそれに関連する装備だ。

中国は、このような輸入品を米国から調達して、貿易赤字において特筆すべき削減を行うことができる。つまり、EUにとっては大幅な損失となるわけではあるのだが。航空機の購入は、エアバス社よりもボーイング社が有利になるように大幅にゆがめられる可能性があり、米国の自動車の中国への輸入は増加する可能性がある。ヨーロッパの通信機器の輸出(中国はその最大の市場の1つである)は、もし中国が米国の機器を選ぶことになれば、深刻な影響を受ける可能性がある。同時に、これらの商品における大規模な転換は、1,000億ドルを超える可能性があり、2,000億ドルという目標に近づくことになる。

確かに、これを達成することは容易ではないだろう。米国企業は、現時点で中国の購入を支えるだけの生産能力を持っていない可能性がある。だが、トランプは能力不足を政治的なチャンスと捉えるだろう。中国が米国から航空機、産業機械、そして自動車を購入すると約束するなら、ラストベルトの製造設備に大規模な投資が行われるだろう。そこは大統領の支持基盤にとっての本拠地だ。もし、トランプの中国への攻撃的な先手が国際貿易を変えるなら、雇用、コミュニティの活性化、また関連する利益という形で支持者に思いがけない収入をもたらすだろう。またそれによって、トランプの2020年の勝利が確実となり得る。

中国が、自国の戦略的な利益に妥協することなく、貿易赤字を削減する手段を持っていることは明らかだ。明らかに否定的な側面はある。つまり、EUとイランのような古くからの同盟国との関係を脅かすということだ。それでも中国は、トランプに気に入られ続けることで得る物の方が、おそらく大きいと判断するだろう。そして米国は自分の役割を果たさなければならない。それは、販売を禁止するのではなく、安全保障の懸念とハイテク製品に関する知的財産権についての懸念を、調整することによってである。

トランプの中国に対する強硬姿勢は、貿易において、過去30年間で最も意義深いものとなる可能性がある。米国をトップの座に復帰させ、現在我々が知っているような貿易の世界を、整理し直す可能性が秘められているのだ。

執筆者 :サンディープ・ゴパランは、オーストラリア、メルボルンのディーキン大学の法学教授でありアカデミック・イノベーション担当副学長代理。これまでに、アメリカ法曹協会(ABA)の航空宇宙・防衛および国際取引に関する委員会の共同委員長または副委員長、ABAの移民委員会メンバー、そしてアイルランドとオーストラリアの3つの法律学校の学部長を歴任した。4カ国で法律を教え、フランスとドイツで客員研究員を務めた。

(海外ニュース翻訳情報局 泉水啓志)

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