【元米軍海兵隊士官・提言】台湾との戦争は、国際社会で中国を危険にさらす

当サイトでおなじみの元米軍海兵隊官のグラント・ニューシャム氏による論文です。
中国が台湾に対して攻撃した場合、どれほどのリスクが中国に発生するかという分析です。
現在、経済力のある中国に対し、物を言えなくなっている欧米諸国ですが、もし、台湾を攻撃したとなると、中国に追随する国はあまりないという見通しです。例えロシアであっても。
お隣の台湾の問題は、我が国も他人事は思えない問題です。
もし、台湾が攻撃されたとしたら我が国はどういう行動をするべきでしょうか。皆がシミュレーションしたほうがいいのではないかと思います。
この記事が、アジアタイムスから紹介します。
Post 2018/05/17  17:52 update 05/18 9:28 update 05/19 14:41

Asia Times 20018/05/14 】

台湾との戦争は国際社会における中国の地位を危うくする

台湾は気が気ではない。中国の人民解放軍は台湾周辺に爆撃機を飛ばし、あからさまに台湾をターゲットにした攻撃訓練を行い、いつまでも中台統一の機会をじっと待っていられないと脅している。彼らはそうなる前に台湾が恐れをなし、屈服することを期待している。

気掛かりなのは、“北京の戦士”習近平主席が自らを戦いに駆り立てているように見えることだ。そして、最新の兵器をたんまり手にした人民解放軍の上将たちも、彼を後押しするかもしれない。

しかし、台湾との戦争が起こらない、少なくとも、起こってはならない、いくつかの理由がある。

多大なリスク

ひとたび台湾海峡を挟んだ戦いが起これば、中国は確実に台湾を打ちのめし、そしておそらく島を占拠するだろう。だがそのために中国は、生命・金・信用の面において莫大な対価を支払うことになる。

戦争を始めようという国がそのような対価を無謀にも過小評価し、自分たちだけは違うと思い込みがちであることは、広く知られている。そう考えると、1914年にドイツ軍将校たちが一週間でパリを陥落させると皇帝に約束したのと同じ言葉を、習近平が人民解放軍の上将たちから聞いていないことを望む。

台湾への攻撃は木曜に始まって翌月曜に終わるようなものではない。また、終戦後数週間もすれば平常に戻り、すべてを忘れてアメリカ向けのサンタクロース人形やiPhoneの出荷が再開されるようなものでもない。

第一に、中華人民共和国側が軍事力において遥かに勝っているとはいえ、台湾は反撃できる。台湾の質素な軍隊は、十分に有能だ。非対称的に、彼らは非常にすぐれたサイバー戦争能力を擁する。さらに、台湾政府が活用できる、高揚した士気がある。それは、自由な国民が自分たちの生命のために戦っているということだ。

習近平にとってさらに悪いことには、45年にもわたる宥和政策にもかかわらず、おそらくアメリカは介入してくるだろう。アメリカは台湾の民主主義が直面する脅威にようやく目が覚めた。台湾支援の増加への呼び水となる台湾旅行法が連邦議会を通過したことでも明らかなように。その法案は、共和・民主両党から圧倒的な支援を受けて通過した。驚くべきことに、ドナルド・トランプ大統領を忌み嫌い、他のいかなる案件においても彼に反対する議員たちをも含んで、だ。

もしもアメリカ人が殺されたならば、アメリカの介入は確実だ。そして、もし台湾が攻撃されると、それは間違いなく起こる。そのこと以上にアメリカ人を団結させるものはない。人民解放軍が軍事力、特に遠征能力を強化したとしても、アメリカ軍は依然として途方もなく強力だ。中国の潜水艦・軍艦は沈没し、戦闘機は墜落することになるだろう。それらを操縦する一人っ子政策の軍人たちと共に。

中国にはさらなるリスクもある。もし台湾が日本の第一防衛線だと日本政府が認識したら? 日本の自衛隊はプロフェッショナルで、整備も整っていて、手ごわい相手だ。特に、潜水艦と対潜兵器を擁する海上自衛隊は。

米日両軍の外洋での戦闘能力は、台湾を奪還しようとする中国にとって自らの“真珠の首飾り”、つまり遠洋基地を失うことを意味する。

カンボジア、ロシア、イラン、北朝鮮のような国々は台湾への攻撃に何も言わないだろうが、それら以外の国からの抗議は来るだろう。中国からの投資のためにこれまでさほど口出しをしなかったEU諸国を含めた国々でさえも、道義、困惑、恐怖から、中国に圧力をかけ始めるかもしれない。

ひとまず戦闘が始まり、犠牲者や苦難、経済的負担がかさみ始めると、国民は政治主導者のもとに集結するというのが国内政治の常であるが、中国世論と習近平のライバルたちは“習近平思想”をそういった問題の根源だと非難し始めるかもしれない。

経済的脆弱性

戦死者名簿に名を連ねる人民の数々に加え、中国経済も大打撃を受けることになる。現在の米中間“貿易戦争”は両国間の貿易額を減らすことになるかもしれないが、ひとたび台湾を攻撃すれば、中国の国際貿易はほぼ壊滅状態に陥るだろう。中国の一帯一路政策とアジアインフラ投資銀行は長期間にわたって保留状態となるだろう。

アメリカ製の部品と技術を使えない中国製品など、誰も買わない。減少した貿易額にともない、運送保険料は跳ね上がるだろう――もし損害填補をしようとする保険会社がいればの話だが――ロンドンのロイズ保険市場はアメリカ空軍並みに、中国商船に被害を及ぼすからだ。

中国は、米ドル通貨システムから除外される。ウォルマートの安い中国製品の魅力は薄れ、ウォール街の銀行家たちでさえも、自分たちも結局はアメリカの国旗を掲げる者だったと気づくだろう。中国の研究員たちは国に返され、合弁事業は中止となり、中国への外国からの投資額は減少するだろう。

中国企業は、北朝鮮、ミャンマー、カンボジア、ロシアといった“経済強豪国”だけとビジネスを続けざるを得なくなる。ロシアですら、もし中国が窮地に陥っていると知れば、おそらく困難な交渉を吹っかけて来ることだろう。

台湾は天安門ではない

習近平は、中国の台湾に対する扱いが忘れ去られたなどと思わない方がよい。たしかに、世界は1989年の天安門広場での虐殺のことはすぐに忘れてしまった。1980年代には、中国が毛沢東時代の血塗られた狂気から離れようとしていたことに対して、世界は楽観と安堵をもって見ていた。希望的観測が、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領を含めた多くの西洋人に、天安門事件は単なる一度の過ちで、中国がより良い未来に進むにあたってのほんの小さな出来事だと思わせてしまった。

そこには、中国が世界経済の一員となれば、政治的な束縛は薄れるとの確証めいた期待があった。だが、そんなことは起こらなかった。中国は世界各国の好意を無駄にし、かつては存在しなかった敵国を作り出してしまった。

もし中国が、自由で民主的でいかなる現実的な意味においても独立している台湾を攻撃するのであれば、世界中のほとんどの国々からの反応はこれまでと違ったものになり、それは長く続くだろう。それは過去数十年の発展を帳消しにし、中国の経済と評判を台無しにするリスクを伴う。世界中に、壊滅的な波状効果が表れるだろう。

鍵を握っているのは習近平だ。台湾の政治家が独立を口にした途端にこん棒を振り回す代わりに、彼は中国を台湾が自らその一部になりたいと思うような国にすることもできる。

良い面を見てみると、戦争が予定されている国(同盟国を含む)に対して、自らの財産と、理想的には数名の家族を移そうと計画している政府上層部を含めた成功者たちがいる中国のような新しい強国は、歴史的に見ても稀だ。

この奇妙な事実だけでも、台湾を攻撃してアメリカと戦争になるというようなリスクを回避する方向に作用するはずだ。

ただ残念なことに、独裁政権はいつも合意的に判断するとは限らない。権力を維持することが常に先決だ。過去の恨みを利用して他国を非難することで人民を団結させ、国内問題から目を逸らさせる。短期決戦で他国を唖然とさせ、彼らにそれを既成事実として認めさせられると信じることはたやすい。

北京政府を刺激する可能性のあることに、多くの西洋人は頭を抱えている。しかし、北京政府は自ら決断を下す。習近平に正しい判断をさせるためには、“宥和政策を取らない”という戦略を取るべきだ。台湾が自らを守るのを助けよう。台湾が示している自由は、アメリカと自由社会の核心的利益であり、戦う価値のあるものだということを明らかにしよう。

習近平と中国共産党はカール・マルクスの200歳の誕生日を祝っている。彼らはまた別のドイツの政治家(実際にはオーストリア人だが 訳注:ヒトラー)のことを考慮に入れるかもしれない。彼は“失われた領土”を取り戻すことで、国家を再建しようとした。代わりに彼はヨーロッパの別の概念『神々の黄昏』(訳注:ワーグナーの楽劇。元は北欧神話の終末の日を指す)を、自分自身、ドイツ、そして世界中に向けて、取り入れてしまった。

習近平主席、決めるのは貴方だ。

 

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。日本自衛隊の初のUSMC連絡将校だった。日本の水陸両用の対応を発揮する役割を果たし、他の地域水陸両用発展的活動にも関わった。

(海外ニュース翻訳情報局 加茂史康 MK)

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