【中豪関係 : 論文】中国の「統一戦線」の内側

昨年、中国の影響力工作(相手国の政治家、軍人、官僚、ジャーナリストなどに働きかけて、自国に有利な方向へと政策などを誘導する活動)について論文を発表したニュージーランドの大学教授の事務所と自宅に何者かが押し入ったという事件があったことをご存知の方はいらっしゃるでしょうか。その件と直接関係する訳ではありませんが、今年の2月に『Silent Invasion: China’s Influence in Australia(静かなる侵略:オーストラリアへの中国の影響、未訳)』という本が発売され、一部で大きな話題を呼んでいます。その題名が示すように、オーストラリアにおける中国の影響力工作についての衝撃的な内容のようです。この長い記事を訳しながら思ったのは、おそらくその本に書かれていること、そしてそれに対する国内の(否定的な)反応は、決してオーストラリア特有のものではないだろうということです。はたして日本は、静かに侵略を受けてはいないでしょうか。

*これは、オーストラリアのサタデー・ペーパーからの記事です。

Post 2018/03/10  21:09

The Saturday Paper bMartin McKenzie-Murray    2018/03/03】

 研究者の自宅への中国の侵入が咎められる一方、同国のオーストラリアへの政治的影響の度合いが取りざたされている。

昨年9月、ニュージーランドの大学教授アン・マリー・ブレイディ女史が、ワシントンDCのウィルソン・センターに論文を提出した。『魔法の兵器:習近平政権における中国の政治的影響力工作』と題されたその論文は、海外の新聞や学術誌に取り上げられ、中国の影響力についての学問への重要な寄与だとして西洋の中国学者たちに歓迎されるなど、ある種の試金石となった。

その論文の題名は、習近平が2014年に「統一戦線工作」(実際には、世界的な政治的影響力のことだ)を祝う際に使用したフレーズを引用している。習自身も、かつて軍事行動、政党の構築、そして統一戦線工作を中国の三つの「魔法の兵器」とした毛沢東の言葉を借用している。毛沢東が熱意をもって実践した統一戦線の理論は、元はレーニンがまとめたものだ。

ブレイディの論文は主にニュージーランドについて書かれており、特に「習近平の(中略)加速する政治的影響力工作の世界的な広がり」の、現地での影響について詳述されている。この論文は、ニュージーランド下院議員ジェン・ヤン(楊健)氏に注目を集めた。彼は、中国軍のスパイ養成学校で諜報活動を教えていた経歴を隠蔽していた人物だ。ヤンは「自身のニュージーランドに対する忠誠心を疑うようないかなる主張も」否定した。

その二か月後、カンタベリー大学のブレイディのオフィスに何者かが侵入した。そして先月、匿名の脅迫状に続いて、彼女の自宅に強盗が侵入し、複数のパソコンが盗まれた。ブレイディはそれを中国政府の仕業だと信じており、ジャシンダ・アーダーン首相は情報機関に調査を命じた。ブレイディは、この事件が現在調査中だとの理由で、サタデー・ペーパーへのコメントを控えた。

アデレード大学の中国学講師、ジェリー・グルーㇳは1990年に初めてブレイディと出会った。この二人こそが私たちの地域(オセアニア)における統一戦線工作についての第一人者と言えるだろう。グルーㇳに私が、賊の侵入がブレイディの論文に関係していると思うかどうかを尋ねたところ、「近年香港と台湾で見られるように、統一戦線工作は、愛国心を表明し、自らが働いている悪事への注意を逸らすことに喜んで協力する三合会(訳注:香港を拠点とする犯罪組織の総称)と関わりがあります。関係がないどころではありませんよ」と彼は答えた。


先月ブレイディは、オーストラリア保安情報機構からの質問に答えた。この保安情報機構こそが、クライヴ・ハミルトン教授とアレックス・ジョスキが、グルーㇳとブレイディの研究につながる48ページの提案書を今年初めに提出した先だった。その提案書は、保安情報機構への提案が普段受けるよりもはるかに多くの注目を浴びた。なぜならそれは、今週出版されたハミルトンの物議をかもす著書『静かなる侵略:オーストラリアへの中国の影響』の内容を先取りしていたからだ。

ハミルトンが委託した原稿は、発行元であるアレン&アンウィンに拒否された。リークされたメールが、出版社の懸念を明らかにしている。それは『静かなる侵略』が「北京政府から本と出版社に対する何らかの動きを引き起こす恐れがあり(中略)、もっとも深刻な脅威は、高い確率で、アレン&アンウィンと、そして君自身へのひどく煩わしい中傷」を招きかねないということだった。

出版社のその決断は国際的なニュースとなり、また続いて別の出版社も原稿を拒否したこと、そして中国政府がハミルトンを「黙らせよう」としているという彼の確信が、そのニュースに拍車をかけた。2月初旬、保安情報機構が原稿の出版への中傷に対する擁護を、ハミルトンとジョスキの提案書の付録とすることを、それが著者に与えられた特権だと考えていると、フェアファクス・メディアが報道した。フェアファクスはまた、首相官邸は本の出版に何ら問題はないと考えているとも報じた。

それはあっという間に議論の的になった。今週、出版社ハーディー・グラントが本を出版するや否や、その本の出版事情にまつわる議論は、本の内容に関する議論に取って代わられた。

ハミルトンの本の上梓は、中国共産党が主席の任期制限撤廃を発表したのと同じ週だった。それは、永遠に続く習近平の権力の地固めであり、毛沢東の死後穏やかになってきた改革を否定するものだ。

「トランプは数年以内にいなくなります」アレックス・ジョスキは私にそう言った。「でも、習近平は死ぬまで今の地位に留まります。これは、中国の民主化を期待している者すべてに対する警鐘です。私たちは、これと似たような光景を見てきています。トルコのエルドアンしかり、ロシアのプーチンしかり」

習近平の動機を理解し、彼の増大する権力を中国史の文脈に置いて見ることが重要だと、グルーㇳは私に語った。「習近平が正当に評価されていないことのひとつは、彼が共産主義のイデオロギー、共産党の役割、そして毛沢東の考えを非常に真剣に捉えているということです」と彼は言った。「習近平は、自分が中国を救い、そして再び偉大な国にできると信じているようです。ソ連からの教訓は、イデオロギーについてのソビエト共産党の考えに真剣さが足りなかったからだと、彼は考えています。彼が共産党の構築や軍事力の拡大についてもまた、とりわけ真剣に考えているとしても、まったく驚きではありません。ですから私たちは今、毛沢東が秘密兵器と呼んだことで有名になった、イデオロギー研究と統一戦線工作の増強を目の当たりにしているのです」

「第三者の目から見ると、彼がソ連から学ぶべきだった教訓はそれほどないと思われます。文化大革命からの教訓もしかり。しかしそれらが、彼が学び、実践していることなのです。文化大革命と毛沢東の専制政治の犠牲になった人がこんなことを考えるとは思わないでしょう。毛沢東の死後、鄧小平は党と政府を分離し始めました。しかし習近平は、自分が権力に着くや否や、それらを再び一緒にしたのです。情報統制も強化されています。毛沢東の時代、彼らは思想の代わりに行動を取り締まろうとすることしかできませんでした。今や彼らは、特に新疆(中国北西部)で人工知能を使って、それに近いことをしようとしています。その地域では、警察は人工知能を使い、人々の行動を推定し、その予知された行動に基づいて人々を検挙しています」

習近平の不明瞭なリーダーシップの動きは自暴自棄によるものであり、冷徹な自信によるものではないと、何名かの中国の解説者が今週語った。それでも、中国はポピュリズムに傾倒する西側諸国の流れに抵抗していると、グルーㇳは私に言う。「(西側諸国で)私たちが今日目にしている右傾化とポピュリズム‐多くの人たちが、過去30年間のイデオロギーに騙され、自分たちの収入も将来も行き詰ってしまったと決めつけています。しかし、中国ではまったく逆です。より多くの人々が以前よりも早い速度で豊かになっており、彼らは自分たちを責めたりしていません。何百万人もの中国人にとって、今が過去のどの時代よりもいいのです」


2016年9月、オーストラリア国立大学の学生で、大学新聞の記者でもあったアレックス・ジョスキは、中国学生学者連合会(Chinese Students and Scholars Association)は中国共産党とつながっており、大学における反中国的な資料等を検閲しているとレポートした。後に彼は連合会主催の行事に参加した際に脅しを受け、建物から出るにあたって護衛が必要だったという。北京育ちの中国系オーストラリア人であるジョスキは、オーストラリアのほとんどの大学に支部を持つその連合会が中国共産党の統一戦線工作の一部に過ぎないと私に語る。レポートが発行されて以来、彼の個人情報を掲載したウェブサイトができ、サイバー攻撃を促すような不穏な書き込みも見られると、ジョスキは言う。

オーストラリアの大学で中国人学生への監視や影響を懸念しているのはジョスキだけではない。昨年末、オーストラリアでも最古参の外交官、外務貿易省のフランシス・アダムソン事務官が、アデレード大学の孔子学院で外国人学生に対して、稀に見る辛辣な演説をした。「私たちの社会のいかなる人たち‐生徒であれ、講師であれ、政治家であれ‐を沈黙させることは、私たちの価値に対する侮辱です」と彼女は述べた。「あなた方にとって、尋常でなく、心をかき乱し、または単に間違っていると思えるような事柄に遭遇することがあることに、疑いの余地はありません。そんな場合でも、黙って引き下がったり、盲目的にできないと決めつけたりするのでなく、真摯にそれらに立ち向かってください」

名声を傷つけられた大学のうち、『静かなる侵略』とそれに先立つ議会への提案書は、特にシドニー工科大学の豪州中国関係研究所(Australia–China Relations Institute)を強く非難している。その研究所は、元外務大臣であり、かつてのニュー・サウス・ウェールズ州首相ボブ・カーが所長を務め、中国本土からの影響力において最も有力な人物のひとり、大富豪で政治資金提供者であるファン・シャンモー(黄向墨)からの180万ドルの寄付金によって設立されたシンクタンクだ。ハミルトンによれば、ファンが個人的にカーをその地位に推薦し、大学側はその実務家を助教授に据えた。シドニー工科大学内部の教授連は仰天した。教授の任命は寄付者などに任せるべきではなく、ましてやそれが外国との結びつきが明らかな人物では尚更だからだ。

ボブ・カーは私に、ハミルトンの本は読んでいないと簡潔に答えた。しかし、過去の会話で彼は、現在の中国についての議論は重要な国家間の関係を乱す恐れがあり、そのような議論の中には人種差別主義に根差しているものがあると警告していた。

ジョスキが共著の議会への提案書に書いたとおり、統一戦線工作の統括組織は豪州中国和平統一促進会(Australian Council for the Promotion of the Peaceful Reunification of China – ACPPRC)で、それは「オーストラリアの社会・政治に対する中国共産党の干渉工作を担当する、最も活動的で目立つ拠点のひとつだ。実際そのグループは、時に海外への高圧的な影響力を拡大するなど、中国とオーストラリアの友好関係を阻害・操作することで、中国の企みを実践している」


昨年11月までは、ファン・シャンモーがACPPRCを率いていた。サム・ダスティヤリ元上院議員が中国への旅費の返還を要請したことで非難を浴び、降格されたのちに盗聴疑惑を警告していたのが、シャンモーだった。そして、オーストラリア保安情報機構からの警告にも関わらず、主要な政党が献金を募っていたのも、シャンモーだった。今週、2016年の連邦選挙前にトニー・アボットがこの実業家に対して、自由党候補者に数千ドルの献金を要求していたことを、フェアファクス・メディアが報じた。保安情報機構長で自由党下院議員アンドリュー・ヘイスティーは、その献金元が発覚した後、西オーストラリア州の自由党に1万ドルの返還を命じた。

ハミルトンの本が、広い意味での有害なヒステリーの一種にすぎないという懸念もある。マッカーシズム風の魔女狩り、かつての白豪主義に見られた「黄禍論」の偏見、そして後のジャック・ヴァン・トンゲレン(訳注:極右団体Australian National Movementの元リーダー。80年代にアジア系を狙った一連の爆弾テロを起こし、13年間投獄された)によるテロの再来、ということだ。私が今週話した何名かの注意深い観察者たちは、『静かなる侵略』の度を越えた言葉遣いや時おり見られる一般化について、発言を留保した。

オーストラリアン・ブック・レビューに載った『静かなる侵略』の書評で、デイヴィッド・ブロフィーはこの本を「マッカーシズム宣言」だと切り捨て、こう評した。「ここに書いてあるような差し迫った破滅の合理性を正当化するために、私たちは何を失い、もしくは何を失おうとしているというのでしょう? 私たちの自由のどの部分が中国の影響力によって脅かされたというのですか? 『静かなる侵略』の読者は、中国の関係者たちが中華人民共和国の全体主義システムの要素を私たちに押し付けるばかりか、私たちの不完全な民主主義の通常の働きをも損ねてしまったという、無駄な証拠を探し回ることになるでしょう。確かに、北京政府はロビイストを抱え、前線組織を持ち、プロパガンダを発しています。しかし、中国の活動をここまで重視してなにか特殊なものだと描写することは、信じやすい人々に曲解させることになります。ターンブルの新しい外国人干渉防止法が自分たちのオーストラリアでの活動を危うくすると訴えた際に、アメリカのロビイストたちも同様なことをしていると認めたではありませんか」

先週のオーストラリアン紙に載った激しい非難記事で、ケヴィン・ラッドもまたターンブルの中国に対する一貫性のない、そして救いようもなく喧嘩腰な立ち位置を攻撃しながら、マッカーシズムを訴えた。「オーストラリアが必要としているのは、計画性があり、包括的で、政府一体となった、中国のような国家戦略です」とラッドは書いた。「しかしターンブルは、一方の端から正反対の端まで、謝罪から対立まで、ふらふらしながら進んでいます」

今週、人種差別担当コミッショナー、ティム・スートポンマサーンは西シドニー大学において演説をし、ヒステリーに対する助言を行った。「中国の影響力について、私たちの公の議論は加熱し過ぎています」と彼は語った。「少し頭を冷やすべき時です。気を付けないと、私たちはこの多文化調和を乱してしまいかねません。ひとつ明らかにさせてください。私は、外国からの影響力について、政府内部で、あるいはその外側で巻き起こっている懸念の重要性を軽視するものでは一切ありません。それらは真剣に議論されるべきものです。私たちの自由な民主社会においては、完璧な民主主義や我が国の主権に影響する事柄についての議論は絶対になされるべきです。しかし、公の議論には責任が伴います。ヒステリーを招くのは危険なことです」

「私は、今や扇情主義が論壇の主流に入り込んでいることが気掛かりです。たとえば、ハミルトンの本にある「パンダ・ハガー(訳注:親中派)」や「オーストラリアを赤く染める」や「オーストラリアにいる中国の第五列(訳注:戦時に後方攪乱・スパイ行為・破壊工作などで敵国を助ける集団)」といった表現や、オーストラリアが中国の「静かな侵略」によって「属国」にされようとしている、といった記述を見てください」

グルートは私に、それは「悪意のある問題」だと言った。扱い難い矛盾をはらんだ問題だ。しかし彼は、脅威はまだ誇張されているとは言えないと主張する。「ラッドはつい最近、ターンブルのことをマッカーシズム主義者と呼びました」とグルートは言う。「馬鹿げた話です。なぜなら、政府は誇張することの危険性をわかっており、人々にレッテルを張ったり、非オーストラリア人活動組織を迫害したり、またはそれらに少しでも近いことは一切してこなかったからです。もちろん私も、ターンブル政権の中国に対する政策が支離滅裂であるという点においては、彼に同意しますが」

「統一戦線工作について議論する人々へのもうひとつの批判は、彼らが人種差別主義者だと決めつけることです。なぜなら、統一戦線工作のほとんどのターゲットや工作員は中国人だからです。うってつけの誹謗中傷ではないですか? これはかなり効きます。左翼の多くは、容易に自分以外の人のことを人種差別主義者だと考えます。確かに極右には間違いなく人種差別主義者が存在しますが。人々が一党制の影響力が増していることに注意を払うのはよいことですが、多くの人たちがすべての中国人をスパイか何らかの工作員だと思うようになるのは、私たちの社会や政治にとって非生産的で危険なことになるでしょう。もしも言葉や言いがかりを気安く使うようになってしまうと、それが魔女狩りに繋がってしまうという本当の危険があります」

アレックス・ジョスキも同様に、「マッカーシズム主義者」という決めつけには困惑しているが、この件については中国人社会をきっちりと巻き込むことが重要だと言う。「これが単なる外国人恐怖症やマッカーシズム主義者による暴力だと言う人たちには、私も不満を抱いています」と彼は語る。「しかし私は、中国人社会に声を上げる機会を与えたいと思っています。中国人社会に与えるプレッシャーのことを考えて、彼らを会話に巻き込まなければなりません。私は記事を中国語で書き始めます。なぜならこれは、とんでもなく重要な議論だからです」

「デイヴィッド・ブロフィーの書評における主な間違いは、中国の影響力を単に「ソフト・パワー」と見ていることです。それは違います。もっと不吉なものなのです。もうひとつの間違いは、中国共産党の影響力とアメリカのようなその他の国の影響力との違いを、彼が理解していないということです。私たちのアメリカへの信頼についての有益な議論はされるべきでしょう。しかし、アメリカは私たちと同じ価値を共有しています」

グルートとジョスキの双方が熱烈に指摘した、しかし一般的には見過ごされている点は、オーストラリアにおける現代の中国学の状況だ。彼らは、そこにはとんでもない相違が見られると主張する。つまり、中国の世界的な影響力が増大する一方で、オーストラリア国内の学生の興味は薄れていくばかりだというのだ。

「オーストラリアにおける中国の専門家の減少は、深刻な問題です」とグルートは言う。「多くの主要な学者が引退していく中、彼らの後継者がおらず、時が経つにつれて知識が失われていくのを、私たちは目の当たりにしています。そして、需要に基づいた予算配分は、政治学やイデオロギーといった学問に注力する課程は学生の興味を引かず、多くの場合見捨てられてしまうという問題があります。中国一般に対する興味は増していますが、学生たちが必ずしもそうだとは限らないのです」


今週の報告が証明しているように、ファン・シャンモーはどの党に対しても献金をしていた。オーストラリア保安情報機構からの警告にも関わらず、与野党双方の主要政党が彼から資金を得ようとしていた。そして与野党双方の主要政党が、政策に関して中国から利益を得ていた。それは合法ではあるが、それぞれの党員を不快な気持ちにさせた。おそらく、サム・ダスティヤリの「異常な判断ミス」にショックを受け、裏切られたと感じている労働党員たちは特にそうだろう。

冷戦期に外交政策の見識を養った労働党員たちがいる。彼らは1960年代に大学時代を過ごし、毛沢東の血生臭い文化大革命を気安く支持していた左翼学生たちのことを覚えている。そして、それより若い党員たちもいる。彼らはそのイデオロギーの傾向を引き継ぎ、今日の中国の増大する権威主義だけでなく、騙されやすい左翼がそれを黙認するのを見ている。つい最近まで、左翼がロシアの多大な干渉を、無価値で偏執狂的なマッカーシズムの再来だと決めつけ、見過ごしてきたことが指摘されている。

私が話した別の人たちは、「冷戦期のタカ派たち」は馬鹿げていると言った。洞察よりも感情に重きを置き、怠惰にも中国脅威論を誇張するような人たちのことだ。ラッド自身も、毛沢東時代と現代の中国を同様に誇張して比較したということで、首相を批判した。ひとつ私が聞いたポイントは、特に現代のようなグローバル化した経済のもとでは、現代の外交政策を古びたマニ教的な見方で語るのは非常識だということだ。

党内には沢山の穏健派がいる。彼らは、中国の反人道的虐待と増加する影響力、そして私たちとの重要な経済的結びつきをすべて理解している。事態をややこしくしているのは、私たちの最大の戦略的防波堤といえるアメリカが、トランプ政権下では、国際的ルールに基づいた秩序のリーダーとしての地位を退こうとして、外交政策的に一貫していないということだ。

 中国に接近し過ぎた過去の首長たち(特にボブ・カー)に対して未だに激高している人たちがいる。確かにタカ派は中国の脅威を誇張し過ぎているかもしれないが、カーの楽観的な自信には何か腹黒いものが潜んでいたと、彼らは言う。

まさに、悪意のある問題だ。そして、この問題はまだまだ続く。

執筆者 :マーティン・マッケンジー・マレー (Martin McKenzie-Murray
The Saturday Paper支局長   
著書 A MURDER WITHOUT MOTIVE :the killing of Rebecca Ryle

(海外ニュース翻訳情報局 加茂 史康)

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