【ミクロネシア:告発】現地人の協力を得てヤップの魚を狙う中国人

これは、ミクロネシア連邦のヤップの、本島からさらに離れた島で、中国人がどのようにして魚の乱獲をしているかという、赤裸々なドキュメンタリーです。環境や次世代への資源の継承などを一切考えない中国人業者と、母国の伝統や慣習を無視した一部の現地人が、それぞれ自分たちの利益だけを追求した結果起こっていることが、この具体的な個人名が続出する詳細なレポートに書いてあります。
聞くところによると、地元メディアは報復を恐れてこうした事実には一切触れない中、グアム在住の米国人記者がこのような記事を発表し続けているのは現場を知る上で貴重なことであるといえます。
こちらは、パシフィック・ノートの記事を翻訳しました。

Post 2018/03/04   7:20 update 8:25

Pacific Island Times  by Joyce McClure  2018/03/01】

途切れ途切れの衛星電話から助けを求める声が聞こえる。ヤップのウルシー環礁内の4つの有人島のひとつ、フェドライ島周辺で、二隻の商業船が釣り針と釣り糸を使って底引き網漁をし、網一杯に魚を捕まえていた。1月3日に現れたそれらの船の中国人の乗組員たちが魚を捕り過ぎていると、電話の主は伝えた。この辺鄙な環礁の誰も、そのような操業の話は聞いていなかった。漁業を許可するという契約書のコピーを彼は持っているというが、どうもその契約書は怪しい。彼は、その契約書と数名の本島住民が裏書きした陳述書を送るという。「どうかそれらを正しい人たちの手に渡してください。ここで何が行われているのかを人々に知ってもらいたい」と、彼は頼み込んだ。

紙一枚の契約書だ。『これは、トップサイド・エンタープライズ(以下、カンパニー)と、ウルシー環礁のフェドライ島の住人との間で交わされた簡易な契約書である』とある。それによると、『カンパニー』はフェドライ島の住人に『財貨とサービス』を供給し、その対価として住人は釣った魚を『1ポンド(約450グラム)あたり1.2ドル』でカンパニーに売る。財貨とサービスには、『ヤップ島‐フェドライ島間の無料送迎』および、漁業に従事する住人への『食料と燃料』が含まれ、可能であればフェドライ島にヤマハの15馬力(の船用エンジン)も供給する。『現地の漁師は、魚を釣り、その収獲を、積み卸しと加工を受け持つカンパニーの漁船まで運ぶ責任を擁する』。

2017年12月29日付の契約書には、フェドライ島長フェルナンド・モグリス(Fernando Moglith)、マングヤン島長ヘンリー・マイルビー(Henry Mailbe)、トップサイド社(会社のウェブサイトによれば、ヤップ島の日本車輸入業者)社長フィリップ・T・ランガンベイ(Philip T. Ranganbay)、そしてヤップ漁業組合の役員会議メンバーのサインがある。ランガンベイのヤップ漁業組合との関係は利益相反とみなされる。それを受けて彼は、役員会議のメンバーが充足した際には自分は降りると言ったが、今も引き続き彼はメンバーのひとりだ。ヤップでは、すべての新しい事業にはライセンスが必要となる。何故トップサイドのような自動車販売業者が漁業契約書にサインができるのかは謎だ。

契約書に付帯した書類を見ると、その契約書がヤップ島で締結された際に、マイルビーは不在だったようだ。実際には、治療のためにヤップ島を訪れていた『この契約書の如何なる部分においても過去に関与していなかった』フェドライ島の住人が、公文書偽造罪に疎いマイルビーに代わってサインさせられていた。マイルビーは契約からは手を引いた。

契約書が交わされるまで、人々が何を要求したいのかという話し合いは一切持たれず、またモグモグ島の最高権威者もこの漁の運営については知らされていなかった。陳述書の一枚には、「モグリスは、フェドライ島の住人が何を要求したかったかを全く考慮せず、単に自らの権力を使って契約を締結した」とある。モグリスは「無線会議と自分への直接コンタクトを避けようと必死なように見える」。住人のマーティン・ヨルブウェイ(Martin Yolbuwei)はモグリスには権限がないと言われた。だが、単なる住人に過ぎないヨルブウェイではなく、モグリスこそが「島長」だ。

ウルシーからのフライトが到着後すぐさま、その書類はタモル評議会(Council of Tamol – COT)に手渡された。ヤップの二つの評議会は、州法により「伝統と習慣に関連する行事」を執り行う任務を課されている。ウルシーにおけるすべての契約や活動はCOTに提示のうえ承認を受ける必要があるが、「伝統と習慣」が政府の規制と法律にどうつながるのかは不明だ。


全ての漁を中止

数日後に行われた評議会の会議はモグリスの契約書を無効にし、トップサイド社に無期限ですべての漁の運営を中止するよう命じた。二隻の漁船はヤップ港に並べて係留され、次の指示を待った。

完全に、もしくは部分的にでも、ミクロネシア連邦の住民が所有しているわけでも運営しているわけでもないそれらの漁船は「外国船」なのか? そうだとすれば、それらの漁船による漁の運営は海外投資の許可が必要となる。1月初旬に行われたヤップ漁業組合に関する公聴会において、ランガンベイはフェドライ島で漁を始めた二隻の漁船について質問を受けた。それらの漁船はトップサイド社所有のものだと彼は主張したが、自分がその事業主だとは言わなかった。彼はまた、数度にわたって誰が会社を管理しているかを尋ねられたが、その質問には直接答えず、トップサイド社は現地企業だと繰り返すのみだった。漁船が最初にウルシーに到着してから入り続けている住人からの度重なる苦情に基づいて、司法長官事務所がその漁の運営に関する調査を開始したと、公聴会に参加した議員は述べた。その調査は今も続いている。

別の機会に、何故乗組員が中国人なのかを尋ねられ、ランガンベイは、現地人は「釣った魚を殺す」やり方は知っているが生きたまま保存する方法を知らず、中国人は彼らを教える時間がない、と答えたという。中国人は獲物を生きたまま保存して香港に輸送する方法を知っている。そのことが、更なる疑問を呼ぶ。50ポンド(約23キロ)以上は州外に出すことを法で禁じられている魚を、どうやって香港に輸送しているのか? その問いに対する答えはなかった。

COTでの会議の後、モグモグ島長でCOTメンバーのヒラリー・タチェリオル(Hilary Tacheliol)は、住人と漁の延期命令以前に注文された品を運搬するために漁船をフェドライ島に戻す許可を出した。また、契約書に記載された唯一の島だという理由で、フェドライ島での操業を続けることも許可された。漁船は到着し、錨を下した。漁船が戻り、そのエリアに2月25日まで停泊する予定だと、島からの携帯メッセージが驚きを伝えてきた。2月9日には漁船は漁を再開し、はるか南のピーグ島近辺にも出没した。これは明らかな契約違反であり、フェドライ島周辺に留まっていてもらいたいという現地人の希望にも背くものだ。

一方、モグモグ島の伝統的な首長たちは、「ナマコやキジハタのような絶滅危惧種や環境上重要な種の不法な収獲と中国人への販売」について疑問を呈した。

「フェドライ島の島長が私たちの文化的規範と評議会の方針を破ったことは事実です」と、タチェリオルはそれに答えた。

COTはトップサイド社に、収獲の用途を明確にするよう要求した。繁殖目的なのか、水産養殖、もしくは活け魚の取引に使うのか。収獲された魚は保存タンクに入れられているので、香港が目的地とみられている。そこでは、価格が1ポンドあたり50から60ドル以上にも跳ね上がり、それが中国本土に再輸出されることで1トンあたり数千ドルにもなる。フェドライ島の漁民に支払われる1ポンドあたり1.2ドルと比較すると、利益配分はトップサイド社に相当有利な仕組みになっている。

契約書には、現地人が漁をするとある。だが陳述書によると、実際に漁をしているのは中国人の乗組員だ。「魚の流通や現地の漁業税のような現地の慣習を無視して」圧力をかけ、金を払っている。ヤップの法律で承認され、州法に記載された習慣や伝統は、現地社会に属する天然資源が搾取・収獲された場合、その返礼として毎回現地社会に何かを与えることを要求している。この場合、少量の魚、おもにハタを、現地で消費する程度与えられた。ハタは年に一度だけ卵を産み、通常はウルシーでは食用とされない。陸揚げされたハタのほとんどが「人間の食用には適さない」とされ、豚のエサにされていた。ウルシーの議員の報告によると、その後、現地社会には1万ドルが寄贈された。

その一方、中国人はハタの最大の消費者で、これが中国での数百万ドルの取引をもたらしており、取引量の6割が香港から中国本土に再輸出されている。ADM資本財団(ADM Capital Foundation)が活け魚取引について2017年にまとめた『The Trade in Live Reef Food Fish – Going, Going, Gone(珊瑚礁の生きた食用魚の取引– Going, Going, Goneは「ありませんか、ありませんか、はい売れた」という競市での掛け声)』という報告書によると、「乱獲、不法取引、脱税、いくつかの種の保護に対する危機、環境破壊的な漁獲方法、そして贈収賄の不穏な行動パターンが急増している」という。報告書によれば、魚の末端価格は年間10億ドルを優に超えるとされ、特にある種の魚は小売価格が1キロあたり600ドルを超えるという。

「アジア市場向けに集中的に養殖した生きたハタ」の水産養殖業者であるアクアニューが最近発行した記事は、「過剰な搾取の限度は、珊瑚礁の生きた食用漁の継続的な枯渇で明らかに証明されている。かつてはある地域で漁業と輸出を行うのに簡単に大漁を記録していたのが、漁獲高が減るにしたがって新しい漁場に移動し、ときには深刻なまでに漁場を荒らし、地域社会を混乱させることによって、こうした取引は利益を得ている」と伝えている。

別の言い方をすれば、中国の漁業は、世界中で魚の備蓄の枯渇に対する競争が強まる中、新しい水産資源を求めて世界中を探し回るという段階に来ている。

なぜ誰も監視せず、なぜCOTが漁を禁じたにもかかわらず漁船がいまだに操業しているのか、ウルシーの住民は疑問を抱き続けている。不法な漁法が使われていないか、環境破壊がないかどうかを確認するために、二人の現地人「監視者」がいることになっている。彼らは、漁船が決められた海域だけで操業しているかどうかを確認し、獲った魚の量と毎日の現地人への売上額を記録するためにいる。監視者はトップサイド社に雇われているわけではないが、誰が彼らに賃金を支払っているのか、そして彼らはその任務に就けるだけの訓練を受け、その資格があるのか、誰も知らない。彼らが「日中、漁業が行われている間、漁船の上でそれほどの時間を過ごしているわけではない」という目撃情報もあり、また、経験を積んだ公認監視者によると、その二名の監視者のどちらも訓練を受けているところを見たことがないという。

COTは3月に再度会議を執り行う。その前に、2月21日にコロニアで公開会議が行われた。モグリスは出席要請を受け、それを承諾したが、前日の夜に突然「治療を理由に」島を離れた。ランガンベイも出席を承諾したが、会議には現れなかった。ウルシーの議員だけが約束を守って出席し、彼が知っていることや、なぜ彼がモグリスとランガンベイと共に会議に出たのかを述べ、どのような質問にも、自分が知っているだけの事実を告げて答えた。モグリスは3月4日にヤップに戻ってくるはずだと彼は言った。別の会議がまた予定されており、彼とランガンベイが、他の首長たちと一緒に出席することを求められることになる。

「我々は単に、我々ウルシー住民のために、すべての人にとってよりよい決断を下すために、透明性と責任を明確にしたいだけです」と、ウルシー住民を代表して会議を計画したアンソニー・タレグ・ジュニア(Anthony Tareg, Jr.)は言った。その一方で、フェドライ島での操業を中止するよう、嘆願書が作成された。「ひとつの人々にひとつの珊瑚礁を」というのが、何千年にもわたって先祖代々守り続けてきた、この豊かで辺鄙な海洋環境に生きる素朴な人々の共通した願いだ。だが彼らは今、個人の利益に固執し、将来の世代に直接影響を及ぼす重大な決定に彼らを巻き込まなかった一部の人間に対して、懸念と怒りを抱いている。「(会議に)現れないということは、ある意味罪を認めたということだ」とつぶやく声が、会議が散開するときに聞こえた。

(海外ニュース翻訳情報局  加茂 史康)

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