【米国大統領選 :トロール工作員激白】選挙干渉の暴露に協力したロシア人記者はモラーの起訴に当惑

モラー特別顧問が先日発表したロシア人に対する起訴内容は、実はほとんどが昨年10月にロシアのRBCが報道していたものでした。
そのRBCの記者に、ワシントン・ポストのニュースブログWorldViewsがインタビューしていますが、起訴内容に当惑している様子。
モラー捜査チームは記事を参考に調査を進めたのでしょうか。またロシアの保守派は起訴された「トロール工場」が、わずか90名と200万ドルで米国を怯えさせたことを誇りにしていたようです。
*こちらは、ワシントン・ポストの記事を紹介します。

Post  2018/02/19 21:19

The Washington Post By Adam Taylor  2018/02/18】

特別顧問、ロバート・S・モラー三世の捜査チームが16日、37ページに渡る起訴内容を発表したことで、2016年の大統領選でロシアが干渉したとされる中で最も奇妙な要素の1つが、新たに米国人の注目を集めている。サンクトペテルブルクにある、国の支援を受けた「トロール(ネット上の荒らし・釣り)工場」、インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)のことだ。

しかし、その会社が選挙に影響を与えようとして活動した内容について、モラー氏が16日に発表した情報の多くは、すでに昨年の10月に公表されていたものだったのだ。伝えたのはロシアのビジネス雑誌、RBCの記事である。

『トロール工場』は米大統領選にいかにして影響を与えたか」と題した4,500語の記事の中で、記者のポリナ・ルスヤエワ氏とアンドレイ・ザカロフ氏は、IRAがフェイスブックとツイッター、そして他の戦術を用いて、いかにして2016年の選挙前の緊張を煽ったのかについての実態を、それまでで最大限に明らかにした。記事では組織構造にも注目し、予算と給与についても詳細を明らかにしていた。

ザカロフ氏は、モラー氏の起訴内容で説明しているIRAについての情報をどう捉えたかについて、WorldViews(ワシントン・ポスト海外ニュースブログ)の質問に答えることを承諾した(ルスヤエワ氏は記事が出た後記者を辞めたが、記事に対する反響が理由で辞めたのではないと主張している)。ザカロフ氏は、自らが非常に詳細に調査した事が、自国で報道した際には「衝撃的」なものと受け取られなかったのに、米国で大きな問題となったことをとても奇妙に感じていると説明した。


以下の書き起こしは長さの問題と内容の明確化のため編集済みのものである。


WorldViews(以降WV):あなたはモラー氏の文書を読んだ。それをどのように受け止めたか?

アンドレイ・ザカロフ(以降AZ):あそこに書かれている人たちの中で、トロール工場の本当のトップの管理者はわずかしかいなかった。
例えば(ミハイル)ビストロフだが、長い期間法人のトップだった。彼は元警察官だ。もう一人は(ミハイル)バーチックだ。彼について記事に書いた。長い間トロール工場の役員を務めていた。最後の人物がジェイフン・アスラノフだ。彼は今も米国部門のトップだと思う。

アスラノフとバーチックはどちらも工場について共通点を持っていることをいつも否定していた。ビストロフは決してそのことにコメントしなかった。

挙げられている他のスタッフは非常に付随的な人たちだ。つまり入手できる限りの名前を書き込んだように思える。2014年にそこで働いていた者もいる。だがトロール工場で長く働いていない者がほとんどだ。選挙期間中も働いていなかった。例えばクリオワだが彼女はその時働いていなかった。(アレクサンドラ・クリオワは、起訴内容で2014年に米国に渡ったとされているインターネット・リサーチ・エージェンシー従業員2名のうちの1人。)

どうやら米国部門の従業員の中で名前が入手できた者を入れただけのようだ。だが米国部門には90名ぐらいいた。だから私にとってはまるで、フォーブスのリストとロシアの政権全体から作った、ロシア新興財閥とロシア政府当局者の奇妙なリストのようなものだった。とても奇妙なものだ。

また私が非常に驚いたのは、ある女性(イリーナ・カベルジナ)の個人的なメールについて個人的な内容を書いていたことだ。彼女は、FBIが自分たちを追っているというようなことを親族に書いていた。彼女のメールを読んだのだと思う。それにはとても驚いた。だが一般的に、注意深くない人物を把握していたようだ。つまり自分自身のメールアカウントや、ロシアの電話番号が登録されたツイッターアカウントを使っていた人たちだ。


WV:ソーシャルメディアで、モラー氏のチームはあなたの記事を読んだに違いないと示唆する人がいた。それは本当だと思うか?


AZ
:彼らが読んだかって?おそらく読んだだろう。君の同僚の米国人で私に接触してきた人もいた。もしかしたら、その中に政府のために働いている人物がいたのかもしれない。私は知らないが。モラーのチームの者だと言って接触してきた人はいなかった。いずれにしても記事に書いた以上のことは誰にも話していない。


WV:トロール工場の米国部門に対して、大掛かりな調査をやるべき時だと思ったのはどうしてか?

AZ:我々は3月にトロール工場の調査を行っていたが、その時は別の部分に焦点を絞っていた。つまり公式のメディア業者を立ち上げるという取り組みだ。最終的にトロール工場が米国の選挙前と後に活動していたことを我々は記事に書いた。また、1週間に1,500万もの「いいね」とシェアを稼いだというような統計データと、シェアしていた記事の詳細を取り上げていた。それから記事のことは忘れていた。

しかしフェイスブックとツイッターが9月の初めにアカウントを大量に凍結したとき、君の同僚が我々に、この活動についてもっと知っていることがあるかと質問してくるようになった。誰もがこの記事に非常に関心を持っていたので、我々は2度目の調査を行うことを決めた。3月に判明したことを再検証し、追加の情報を入手してそれを記事にした。


WV:報道を続けることは難しいか?

AZ:我々にとっては比較的容易だった。私は以前サンクトペテルブルクに住んでいて、そこで記者をしていた。ロシアのマスコミはトロール工場の記事を2013年から報道している。それはニューヨーク・タイムズ・マガジンが大規模な調査を行うずっと前のことだ。ところでそのほとんどの情報は、自分の同僚から得たものだった。

それで私はトロール工場について記事を書いていた。そこですでに情報源がいた。友人の中には記者としてそこで働いたことのある者もいた。ポリナにも情報源がいた。だがやはり、怖がる場合もあった。海外の同僚たちから、直接情報源から話を聞けないかと求められたこともあったが、怖がって他の人間と話すことはなかった。


WV:記事が出たときロシア当局からの反応はどうだったか?

AZ:とても興味深いことで、というのも公式には何の反応もなかったからだ。それに当時国民はみんな、君の国からの「ロシアがそれをやった」というニュースにすでにうんざりしていた。あれが驚くべきニュースだったとは言えない。

我々が焦点を絞ったのは起きた事だけだ。選挙に本当に影響があったかどうかを理解しようとはしなかった。それに誰もそれを適切に評価することはできないと今でも思っている。確かに非常に活動的だったが、影響が大きかったか小さかったか?誰にも分からないことだ。我々は、彼らがどのように活動したのかを示したかっただけだ。


WV:するとあなたは米国人がトロール工場を誤解していると思うのか?

AZ:私には分からない。この調査に着手したとき、たぶんフェイスブック上の正規のグループや活動をすべて調べて、それからトロール工場が投稿したフェイクグループのものと比べるだけで良いだろうと思っていた。正規のグループにもしかしたらもっと多くのメンバーがいるかもしれない?我々はそれはやらなかった。だが影響が大きかったのかどうかを本当に評価しようとした人は誰もいなかった。

君のメディアがそのグループを調べ始めたのはとても奇妙だった。まるで競争みたいだったよ。「このグループをロシア人が運営していたことを突き止めた!」だがそのグループを調べてみるとメンバーが100人しかいなかった。ある場合には、君の同僚は事実を追求するだけでちゃんと分析していないこともあった。マケドニア人のやったことについて大規模な調査があったが覚えているか?彼らは偽のトランプ支持グループを作って、大規模なグループになっていた。だがこのマケドニア人は米国人に影響を与えたと言われていたのに、みんな忘れてしまっている。

それに誰もが焦点を当てていたのはトランプ支持グループだった。我々が目撃したのは、黒人、イスラム、といったことで人々が抱える問題を話題にして、社会の中で緊張を広めようとしていたということだ。彼らは反トランプ集会も組織した。ヒラリー(クリントン)に反対の活動をしていたが、必ずしもトランプ支持者ではなかった。選挙が終わってからも活動していた。ブラック・フィスト運動についての話があって — 黒人のための自己防衛に関する偽の運動だが — この話を始めたのは2017年のことでトランプが選挙に勝利した後のことだった。


WV:工場がやっていることに今も目を光らせているのか?

AZ:フェイスブックとツイッターが彼らのグループをブロックしてからも、彼らはたくさんのフォロアーのいるグループやアカウントをまだ持っている。だがそれが見つけられなかった。昨年の終わりまで、米国のグループがまだ活動していたことを知っているが、以前と同じ規模ではない。

彼らは自分の仕事を誇りにしている。彼らにとっては本当に楽しいことだったのだ。サンクトペテルブルクにいる90人が組織するグループが、ものすごい数の「いいね」をもらっていた。非常に成功したソーシャルメディアのマーケティング活動だった。


WV:トロール工場について残された大きな疑問は何か?

AZ:この工場を運営しているらしいのが誰かと言うのはみんな知っている。「らしい」といった言葉を使わずには証明できないというだけだ。もっと捜査が進むべきだと考えている。また、その人たち(アレクサンドラ・クリオワ、アンナ・ボガチェワ、そしてもう一人の名前の不明なスタッフ)が2014年に米国で一体何をしていたのだろうかと疑問に思う。情報機関の人間ではなさそうだが、よく分からない。

そして君の同僚にとって最大の疑問はやはり、影響が大きかったか否かだろう。

 


WV:それについて個人的な意見はあるか?

AZ:分からない。難しいことだ。その質問の答えに誰も興味はない。今この話についてはみんな意見が分かれている。トランプ支持者が調べるなら誰も信じないだろう。反トランプ派が調べても誰も信じないだろう。

ロシアの保守派には誇りに思っている人が多かった。彼らはこう言っていた。「ロシア人にできることを見てみろ!わずか90人が200万ドルで米国を怯えさせた!俺たちは強い!」それでこちらの保守派の人々にとっては、米国人にはCNN、ラジオ・フリー・ヨーロッパなどがあってロシアで放送していると見なしている訳だ。彼らは「なぜ我々が米国でグループを作って自分たちの影響力を持てないのだ?」と言う。こちらの保守派はそういう風に考えているのだ。これは普通のことだったと考えている。


(海外ニュース翻訳情報局  泉水 啓志)

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