【イスラエル:究極の選択】現金か強制収容か?:アフリカ移民の国外追放を開始

当サイトではよく、移民・難民問題を抱えたドイツ、フランス、スウェーデンなどのニュースを取り上げますが、ロイター配信のこちらの記事によると、イスラエルがアフリカからの移民に現金と航空券を提供して国外へ追放することを決定したということです。ヨーロッパの惨状を見る限りにおいては、これは思い切った、しかし賢明な判断かもしれません。しかし、やはりこの国にも、移民を積極的に受け入れるべきだとする人権派はいるようです。本記事は、ロイターの記事を紹介します。

Post 2018/02/06   21:37

Reuters by Maayan Lubell, Elana Ringler  2018/02/06】 

テルアビブ(ロイター)- イスラエルはアフリカからの2万人の男性移民に対して通知書を発行し、国外退去、もしくは収監までに2か月の猶予を与えた。

ベンヤミン・ネタニヤフ政権は、そのほとんどがスーダンとエリトリアからの移民に対して、現金3500ドル及びサハラ以南の安全とされる国までの航空券を提供している。

イスラエル在住のおよそ3万7千人のアフリカ人の運命は、迫害を受けたユダヤ人のために建国された安息の地と、同胞の生まれ故郷との道徳的な板挟みにあっている。イスラエルの右翼政府は、移民を追い出させようとする愛国主義者と、彼らを呼び入れようとする勢力の両方からの圧力を受けている。

政府はそれら移民たちを「潜入者」と呼び、亡命でなく職を探しに来たと言う。しかしその考えに対しては、ユダヤ教指導者や、ナチスのホロコーストからの生還者の小さな団体、それにイスラエルは移民に対してもっと同情心を持つべきだとする一般の人々からなるリベラル派からの反対が増加しつつある。

日曜日に最初の立ち退き通知が手渡され、移民局に国外追放計画を実行させる求人広告が政府のウェブサイトに掲載された。

多くの移民は迫害、戦争、排除から逃れてきたのであり、たとえアフリカの別の国であったとしても、強制的に送還された場合には、彼らはまた危険に晒されてしまうと、人権団体は移民に代わって主張する。

「どうしていいのかわかりません。ルワンダやウガンダは私の国ではありません。そんな第三国が私のことをどうやって助けてくれるというのでしょうか?」と、日曜日に立ち退き通知を受け取ったエリトリア人のベリフ・アイノムは言う。

国外追放通知には、移民たちが送還される国名は記載されていない。だが、ネタニヤフはそれらを安全な目的地だと述べた。人権団体によると、受入国の候補はウガンダとルワンダだという。

何千人ものアフリカ移民が住み着いているテルアビブ南部の貧しい地域では、店の看板はティグリニャ語などのアフリカ言語で書かれており、廃棄された倉庫が教会に改造されている。

「私は助かるためにイスラエルに来ました」と、路傍のベンチに腰掛けたエリトリア人のアフォウォルキ・キダーネは語る。

現金と航空券をもらって、9年にもわたって住み慣れたこの国を離れるぐらいなら、刑務所に入った方がましだと彼は言う。


巻き起こる反発

イスラエル、ブネイ・ブラクの人口移民局(Population and Immigration Authority)オフィスの開場を、列をなして待つアフリカからの移民たち。2018年2月4日撮影。

アリエ・デリ内相は、イスラエルの一番の義務は、移民ではなくイスラエル国民に対してなされるべきであると語る。

「彼らは単なる数ではなく、人間です。私は同情と慈悲を隠せません」と、デリは陸軍ラジオに語った。「しかし、イスラエルのような小国にはこれほど膨大な数の不法潜入者を受け入れることは不可能です」

だが、追放計画に対する反対意見も出てきており、中には追放の危機にある移民を自宅に招き入れようというイスラエル人も現れた。

木曜日に、36名のホロコースト生還者の団体がネタニヤフに、移民を追放しないようにとする請願書を送った。アメリカを母体とする名誉棄損防止同盟もまた「ユダヤ人の価値と難民遺産」を引用して、計画の再考をイスラエルに迫った。

 

ヤド・ヴァシェム・ホロコースト記念館長で、自身もホロコースト生還者である、イスラエルのユダヤ教指導者メイール・ラウは、この問題が「できる限り整理された同情、共感、慈悲を必要としています」と述べた。「長年にわたるユダヤ人の辛い経験は、そういった責任を強調します」

ユダヤ教指導者スーサン・シルヴァーマンは、ミクラット・イスラエル(イスラエルの避難所)という、イスラエル人に対して移民たちを自宅に招き入れようという運動を開始した。

「ユダヤの国にとって、非難を受けている人たちを追い払うことは、非良心的です」と、彼女は言う。

ミクラット・イスラエルのユダヤ教指導者タマラ・シャガスによると、すでに600ものイスラエル家庭が登録しており、今週にも移民の割り当てを開始するとのことだ。


道徳の羅針盤

 
最高裁は8月に、イスラエル当局は不法移民を60日まで拘留可能と裁定した。

移民局は、現在イスラエル在住中の女性、子供、家族を持った男性、そして亡命申請中の者は今のところイスラエルに留まれると語っった。

現在までに、6800名の申請のうち、イスラエルはわずか11名に難民資格を与えたにすぎない。さらに現在8000の申請書が精査中だ。

イスラエル当局は、第三国に受け入れられた移民とは連絡を取り、経過を見るとしている。ルワンダは、自由意志でイスラエルを出発した移民のみを受け入れるとしている。

にもかかわらず、国連の難民仲介者は、過去数年間にサハラ以南のアフリカ諸国に送られた移民はやはり危険に晒され、再び危険を冒してヨーロッパに出発する羽目に陥り、嫌がらせや虐待を受ける者もあり、しかも道中は凍える寒さだとして、イスラエルに再考を促している。

イスラエルの人権団体は、政府はイスラエル国内で難民とみなされるべきである人々を単に排除しているだけで、彼らの安全に関しては無頓着だと語る。

過去数年間、エジプトとの国境沿いに建設したフェンスは、不法に入国しようとするアフリカからの移民を止めている。2000年代初頭、まだ国境を簡単に越えられた頃、合計で6万4千人のアフリカ人がイスラエルに来た。その後数千人が出国したが。

エマニュエル・アスファハは2011年にエリトリアから妻と赤子と共にイスラエルに来た。彼の第二子はイスラエルで生まれた。

小麦粉の袋が積み上げられた狭い雑貨店の倉庫が、テルアビブの彼らのアパートへの入り口だ。息子のベッドの上のひび割れた壁にはキリストのポスターが貼ってある。イスラエルはいずれ、家族を持った者も追放すると、アスファハは憂慮する。

「今の状況がとても心配です」と、エリトリア料理のシロ・シチューを作りながら彼は言う。「明日は私の番かもしれない」

そこから数キロ離れたテルアビブのしゃれた高級住宅街に住む39歳の株式仲介人ベン・イェフェットは、ミクラット・イスラエルに登録済みで、自分の2ベッドルームのアパートに2-3人の移民を住まわせるつもりだと語る。

「イスラエル人として、ユダヤ人として、我々には責任があります。我々は道徳的な羅針盤を持っています。これは我々の使命です」

 

(海外ニュース翻訳情報局  加茂 史康)

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