【 米中関係 :必見分析】南シナ海での衝突を厭わない中国

この論文は、2001年に『The Coming Collapse of China(来たる中国の崩壊:未訳)』を書いたゴードン・チャン氏による、近隣の海域で強引に領海を拡大しようとしている中国についてと、それに対してアメリカの以前の政権はどう対応してきたか、そしてトランプ政権はそれをどう変えようとしているのか、というナショナル・インタレスト誌への寄稿です。中国が今のように覇権主義国になった責任の一端はこれまでのアメリカ政府にあるというのが彼の主張です。文中に尖閣諸島も語られているように、この問題はもちろん日本にとっても他人事ではありません。日本はこれまでこの問題にどう対応してきて、そしてこれからはどうすべきでしょうか。

Post 2018/01/27 21:26

The National Interest by Gordon G. Chang 2018/01/24】

先週水曜、米軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ホッパーが、南シナ海北部にあるスカボロー礁の12海里内を航行した。

ペンタゴン(アメリカ国防総省)はあえてこの航行について世間に公開することはなかっただろう。北京政府がこれを公にし、警告を発したのだ。中国は衝突を望んでいるとしか思えない。

つまり、フィリピンの本島であるルソン島からわずか124海里(230キロ)しか離れておらず、首都マニラとスービック湾(訳注:かつて米海軍基地があり、現在はフィリピンが軍事基地として再開の方針)を防御する戦略的な位置にあるこのスカボロー礁が、アメリカと中国との関係を揺り動かす要所となり得るということだ。

スカボロー礁は現代におけるズデーテン(訳注:両次世界大戦においてドイツと周辺国の領土争いの対象となった地域。現在はチェコ領)のようなものだ。2012年の春、中国とフィリピンの船が、両国が領有権を主張していたスカボロー礁近海を航行中に接近した。そのときアメリカ政府が中国・フィリピン両政府の間に入り、お互いの船を退却させるように勧告した。フィリピンだけがその勧告に従い、その結果、中国がその重要拠点を実効支配することとなった。悪名高い中国の「九段線」の内側にあるとはいえ、長年にわたってフィリピンの一部だと考えられていたその環礁を。

残念なことに、アメリカ政府は自らが取り持ったその勧告を、明らかに中国との対立を避けるためとしか思えない理由で、中国に対しては強制しなかった。だが、この時のホワイトハウスの無策は、単に問題を大きくしたにすぎない。中国のこのふるまいに対して何も行動を取らないことで、二枚舌(そして他国領土への侵略)をオバマ政権は見逃すということを全世界に見せつけることにより、中国政府内の好戦的な集団を勢いづけた。

勢いに乗った中国は次に、スカボロー礁で行ったように大量の船をセカンド・トーマス礁の海域へ送り込むことによって圧力を強化、さらに東シナ海では日本の管理下にある八つの小さな島、尖閣諸島でも同様の戦術を取った。

簡単に言うと、アメリカ政府の臆病さが、中国がより挑戦的な行動に出ることを後押ししてきたということだ。

そしてまた、同盟国がアメリカのリーダーシップに対して疑問を抱くことも後押ししてきた。今、アメリカの政策担当者たちはフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が中国に取り入っていると非難している。たしかにこのフィリピンの首長は一貫して反アメリカ的態度を取ってきたとはいえ、彼の言い分には一理ある。つまり、アメリカとの相互防衛条約にもかかわらず、自らの島を守るにあたってアメリカ政府は全くあてにならなかった、ということだ。優柔不断なアメリカの政策の結果として、フィリピン諸島の安全を守ることを約束した唯一の国であるアメリカ合衆国よりも、フィリピンを分断しようとしている中国の方に、フィリピン政府に対してより影響力を持たせてしまった。

フィリピンの軍用機の窓から撮影された空中写真。2015年5月11日、フィリピン、パラワンの西部、南シナ海のスプラトリー諸島のミスチーフ・リーフで、中国が継続的に埋め立てていたことを示している。 (REUTERS/Ritchie B. Tongo/Pool/File Photo​)

 

増大する中国の自信と主張を考えれば、ホッパーの航海に対する中国の激しい反応は驚くべきことではない。“疑う余地のない”自国の領海を守るという使い古された主張を繰り返し、国営・党営メディアは、アメリカに対して侮蔑的な言葉を使った挑戦的な文章で、過熱状態に入った。「この向こう見ずな挑戦はアメリカ海軍の恥辱となった」と、カーティス・ストーンは共産党が発行する中国でもっとも権威のある刊行物、人民日報に書いた

人民日報傘下のタブロイド紙である環球時報は、もしアメリカが進路を変えなければ、その船は「海賊行為」をしているとみなし、「大きな屈辱を味わう」ことになるだろうと予告した。

それに対するアメリカ政府の反応は、前例に従い、控えめなものだった。「すべての作戦は国際法に準拠しており、アメリカ軍は国際法の許す限りにおいて飛行し、航行し、作戦を執り行う」と、国防総省の広報官クリストファー・ローガン中佐は、特にホッパーの巡視には触れることなく述べた。

アメリカ政府の政策担当者たちがホッパーに触れる際には、彼らは常に匿名で、中国を刺激しないように話した。ある“アメリカ政府高官”は、この航行が「無害通航」であり、航行の自由作戦とは無関係だと語った。

これを受けて、フィリピン防衛長官デルフィン・ロレンザーナは日曜、アメリカ海軍の航行はフィリピンの主権を侵害しないと援護した。

だが、もしその環礁が完全にフィリピンの管理下にあったならば、そもそもホッパーはその海域を航行することはなかったはずだ。それをさせたのは、もちろん中国だ。「中国の南シナ海における目標は、海域における自国の領海を、インドに匹敵する範囲にまで徐々に拡大することだ」と、新著『Great Powers, Grand Strategies: The New Game in the South China Sea』を刊行したばかりのアンダース・コアーは、ナショナル・インタレスト誌に語った。

そのような拡大目標を考えたとき、「無害通航」などと言い張るのは全くの逆効果だ。

「ニューポート(訳注:アメリカ海軍大学の所在地)の我々の部署では、リーダーにいつも“自滅的なふるまい”への責任を取らせている」と、海軍大学のジェイムズ・ホルムズが、アメリカ政府を代表してではなく、彼自身のコメントとして、月曜に私にメールをくれた。「匿名の高官が、ホッパーの航行が“無害通航”だなどというのは、それ自体が罪だ、とメディアに話した」

「無害通航とは、ある国の領土から12海里以内を船が通過することだ」と、『Red Star Over the Pacific: China’s Rise and the Challenge to U.S. Maritime Strategy』の共著者であるホルムズは指摘する。「だから、もしホッパーのスカボロー礁での航行を無害通航だと言い張るならば、それはまさしく航行の自由作戦が問いかけていた中国の主張を認めてしまうということだ。つまり、スカボロー礁の法的な主権は中国にあり、その周辺12海里の領海は中国に属するという主張を、だ」

スカボロー礁は完全にフィリピンの排他的経済水域の内側にあり、中国の言い分は本質的には不法占拠者の主張だ。さらに付け加えると、フィリピン対中国に関しては、国連海洋法条約を反映した2016年7月のハーグ裁判所の決定は、環礁は12海里の領海を有さないとしている。「我々のスカボロー礁の通航は、法的には“無害ではない”と主張されるべきだ」とホルムズは言う。

「我々は、自分たちの言葉をはっきりと、明確なメッセージを持って伝えなければならない。そして、2016年にハーグ裁判所が他国への利益侵害を伴う中国の不当な主張を完全に却下したということを、全世界に思い出させなければならない。それが、我々が自滅することを防ぐやり方だ」

アメリカの高官は長年にわたって、中国近海の要所における航行の自由作戦を、中国政府を逆なでしないように「無害通航」だと位置づけてきた。だが残念なことに、その戦略は完全に裏目に出た。

しかし、トランプ政権は、40年にわたるアメリカの中国に対する生ぬるい対応を変えようとしている。その要点は、12月に明らかになった国家安全保障戦略(NSS)と、去る金曜日に要約が発表された国家防衛戦略(NDS)に明白だ。それらの画期的な政策方針において、中国ははっきりと敵だとみなされている。

だが、政策における歴史的転換の実行には時間がかかる。「融和政策が引き起こしてきた致命的な影響をなくすまでには、まだまだ時間がかかると思う」と、元太平洋艦隊所属アメリカ海軍情報将校ジェームズ・ファネルはナショナル・インタレスト誌に、強く、それでいて明確な口調で語った。「我々の政府の役人たちは何世代にもわたって、中国の領土拡大行動を非難するよりも、彼らを“刺激しない”よう、“怒らせない”ように訓練されてきた。NSSとNDSという、中国の法外な領土拡大主義に明白に対抗する二つの新しい政策文書が出たにもかかわらず、だ」

アメリカの政策担当者たちは、中国のアメリカに対する大っぴらな敵意と折り合いをつけるのに苦心している。明らかに、中国高官はホッパーの航海を見逃すこともできたはずだ。だが、彼らがあえてそれを問題視したということは、中国は戦いを厭わないと決めたという証拠だ。

(H/T Real Clear Politics)

(海外ニュース翻訳情報局 浅岡 寧)

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