【先端技術・人工知能】MITの研究チーム、まるで脳細胞の様に作動するチップを開発

米国のマサチューセッツ工科大学で、脳細胞のような動きをするコンピューター用のチップができているようです。まだ研究途上ではあるものの、実現したらどこまで人間の脳に近づくのでしょうか。本記事は、最新の科学技術を取り上げる、サイエンス・アラートからの紹介です。

Post 2018/01/26  9:01

Science alert  by MICHELLE STARR  2018/01/24】

今までの最も有望な人工シナプス

先進的な人工知能分野に取り組む者にとって、コンピューターに脳の活動をシミュレートさせるというのは壮大な課題である。しかし、そもそもハードウェアが脳のハードウェアのように設計されていれば、なんとかできる可能性がある。

この新興分野は、ニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングと呼ばれる。そして現在、MIT(マサチューセッツ工科大学)の技術者が、人工シナプスを搭載したチップの設計という大きなハードルを超えた可能性がある。

今のところ、人間の脳はどのコンピューターにも勝る。脳にはおよそ800億個のニューロンがあり、100兆個を超えるシナプスがニューロン同士をつなぎ、信号の通り道を制御している。

コンピューターのチップは現在、バイナリー(2進法)と呼ばれる言語で信号を送ることで作動している。どの情報も1と0に変換され、それがすなわちオン・オフ信号となる。

コンピューターと脳とを比較するには、次のことを考えてみるとよく分かる。2013年に、世界最強であったスーパーコンピューターが脳の活動をシミュレーションしたが、ごくわずかな結果しか得られなかった。

理研のコンピューター「京」は、82,944台のプロセッサーと(データ量が)ペタバイト(訳注:テラバイトの1,000倍)におよぶ主記憶装置を使った。これは、デスクトップ・コンピューター25万台を同時に使うのに匹敵する。

京は、10兆4000億個のシナプスが173億個のニューロンをつなぐという1秒間の活動をシミュレーションするのに40分かかった。この数は多いように思うかもしれないが、これはなんと、人間の脳のわずか1パーセント分に過ぎないのだ。

しかし、(コンピューター)チップがシナプスのような接続を行うことができれば、コンピューターはより多様な信号を使えるようになり、シナプスのような学習が可能となる可能性がある。シナプスは、脳を通じて送られる信号を仲介し、ニューロンはシナプスを通って流れてくるイオンの数と型に従って活性化する。このようにすることで、脳がパターンを認識し、事実を記憶し、タスクを実行するのに役立つのである。

今まで、このような脳の機能を再現するのは難しいと言われていたが、MITの研究者は、現在シリコンゲルマニウム製の人工シナプスを搭載したチップを設計した。これにより、ニューロン間を流れるイオンのように、チップの間を流れる電流の強さを精密に制御できるようになる。

シミュレーションでは、このチップが手書きのサンプル認識で使われ、精度は95パーセントであった。

以前の神経形態学的チップの設計では、シナプスのように作動させるために、伝導性の2つの層を不定形の「スイチング媒体」で分離していた。これをスイッチを作動させると、イオンが媒体を流れ、シナプスの重量や2つのニューロン間の信号における強弱を再現した伝導性の繊維を作る。

このアプローチの問題点は、イオンが移動する構造を定義しないと信号が無数の経路を持つことになり、チップのパフォーマンスに一貫性がなく、予測不可能なものになってしまうことであった。

「人工ニューロンのデータで、あるデータを表そうと電圧を加えると、そのデータを消去し、かつまったく同じように書き直さなければならないのです」と、研究リーダーのジーワン・キム(Jeehwan Kim)氏は語った。

「しかし、不定形な個体の中で書き直すと多くの欠陥があるため、イオンが違う方向に行ってしまいます。このイオンの流れは刻々と変化し、制御が困難です。この人工シナプスの不均一性が最大の問題です。」

このことに留意しつつ、研究チームはイオンが通過できる1次元の伝送路とともに、シリコンゲルマニウムを格子状にしたものを作った。こうすることでイオンが確実に毎回同じ経路をたどれるようになるのである。

この格子は、神経形態学的チップを作り上げるときに使われた。電圧をかけるとチップ上のあらゆるシナプスが同じ流れをたどり、変動したのは4パーセントのみであった。

単一のシナプスに、700回電圧をかける試験も行われた。流れが変動したのはわずか1パーセントのみであり、考えられる限り均一な装置であると言える。

研究チームは、チップを実際のタスクで試験を行った。試験では、チップの特性をシミュレーションし、その特性を手書きサンプルの入ったMNISTデータベースで使った。MNISTデータベースは、通常画像処理のトレーニング用ソフトウェアとして使われる。

彼らがシミュレーションした人工神経ネットワークは、3枚の神経系シートからできており、シートは2層の人工シナプスが分離している。このネットワークは、何万もの手書きの数字を95パーセントの精度で認識した。ちなみに、既存のソフトウェアの精度は97パーセントである。

次のステップは、手書きを認識するタスクを実行することが可能なチップを実際に作り上げることであり、持ち運び可能な神経ネットワーク装置を作ることが最終目標である。

「最終的に、我々はチップを指の爪ほどの大きさにして、巨大なスーパーコンピューターを一掃したいと思っています」とキム氏は語った。「この[研究]は、本物の人工[知能]ハードウェアを生み出す第一歩を踏み出しています。」

この研究は『ネイチャー・マテリアルズ(Nature Materials』誌に発表された。

(海外ニュース翻訳情報局 渡辺 つぐみ)

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