トランプのエネルギー政策とマクロンの空虚な計画

アメリカがパリ協定を離脱すると発表してから約7か月が経過しました。一方先月、パリではワン・プラネット・サミットと呼ばれる世界の気候変動に関する会議が行われました。ナショナル・レビューに掲載されたこの記事は、エネルギー政策に対するアメリカとフランス、それに加えていくつかの途上国の最新の状況についてレポートしています。

Post 2018/01/10 23:36

National Review  by RUPERT DARWALL  2018/01/09】

トランプはどのように世界の天候を変化させているか

 共和党員は、ふたつの大きな経済的成果を手に2018年を迎える。ひとつは1.5兆ドルの減税案。もうひとつは、パリ協定からの離脱とオバマ政権が決定したクリーン・パワー・プランの撤回で、これによりオバマ大統領がアメリカ国民に課したはずの8年間で1.3兆ドルに相当する増税を無効にすることになる。

成功した共和党員は減税に取り組む。1980年以降、再選を果たしたすべての共和党出身大統領は、第1期目に減税を行っている。対照的に、トランプ大統領の成長志向のエネルギー政策は彼独自の案だ。おそらく2016年の予備選挙候補の17名の中には、彼と同様の案を持っていた候補(たとえばテッド・クルーズ)もいたかもしれないし、そのような考えを持たなかった候補(たとえばジェブ・ブッシュ)もいたかもしれない。だが、いまやトランプ政権のスターのひとりとなったスコット・プルーイットをEPA(環境保護庁)のトップに据えようなどとは、誰も思わなかったはずだ。

これから見込まれる経済効果は途方もない可能性を秘めている。ヘリテージ財団のケヴィン・ダヤラトナによれば、化石燃料エネルギーを敵視することを止めた場合、今後8年間で90万人分の職と1.9兆ドルの経済効果をもたらし、電気代と家庭の光熱費を削減することができ、しかも気候と海面水位上昇にはほとんど影響を及ぼさないとしている。フラッキング(水圧破砕法:天然ガス・シェールガスなどの採取方法)とアメリカの膨大な化石燃料の埋蔵量のおかげで、アメリカのGDPは2035年までに3.7兆ドル増加するとみられる。それは現在のアメリカにテキサス州を2.25個分追加するほどの規模で、平均的な4人家族にそれぞれ4万ドルずつ多くの富をもたらす。これらすべてが、0.0003℃以下の気温上昇と0.01インチ以下の海面水位上昇という微々たる環境への影響で達成できるのだ。これまですべての最良の政策同様、トランプのエネルギー政策も、のちに振り返ってみれば、明らかな常識となっていることだろう。

トランプがアメリカ経済を活性化させるためにガソリンのアクセルを全開している一方、ブレーキをかけている、彼と対極に属する人がパリにいる。マクロン大統領の要請でこの12月、2040年以降フランスと海外のフランス領において石油とガソリンの生産を禁止する法律がフランス議会を通過した。その1週間前、マクロンは自分自身を地球の救世主と見立てたかのように、うわべはパリ協定2周年を記念して、ワン・プラネット・サミットを開催した。

主催者におべっかをつかうようなそのイベントのプロモーションビデオは、地球のヒーロー(マクロン)がサミットの昼食メニューを考える傍らでエリゼ宮殿の使用人が銀の盆からコーヒーを準備し、現れた来客はマクロンから抱擁の歓迎を受けるというものだ。パリを訪れた多くの観光客のように、彼らはバトー・ムッシュ(観光船)に乗ってセーヌ川を下り、パリの景色を楽しむ。マクロンのスピーチの間、誰もが退屈そうだ。このヒーローの妻ブリジットと、彼の応援団を除いては(「とてもよかった、非常に素晴らしい、おめでとう」とアーノルド・シュワルツネッガーは彼に伝える)。

どうにも陳腐なビデオだ。ジョン・ケリー前アメリカ国務長官との円卓会議がある。マイケル・ブルームバーグ、ビル・ゲイツ、そしてリチャード・ブランソンが最前列に陣取る。「我々はこの戦いに敗れ去ろうとしている」とマクロンは彼らに告げる。ここに参列した政府首脳が属する国々の5、10、いや15か国が、50年から70年のうちに無くなってしまうと彼は言う。ちょっとそれは、人を鼓舞し奮起させるようなスローガンとは言えない。

ワン・プラネット会議のハイライトは、世界銀行総裁ジム・ヨン・キムによるスピーチとなった。アメリカは世界銀行の最大のシェアホルダーだが、この組織はこれまで欧州と彼らの急進的な脱カーボンの議題に完全に支配されてきた。キム博士が2019年以降、時流に逆行するような石油やガソリンにまつわる計画への援助を止めると発表し、驚きと喝采を呼び起こした。

聴衆の喝采を受けつつも、キムの発表はある重大な失敗を隠していた。2年前のパリ気候会議において、気候変動を食い止めるために2020年まで毎年1000億ドルの財源(気候変動ファイナンス)を確保するはっきりとしたロードマップを策定することに合意していた。その金額は、失敗した2009年のコペンハーゲン気候会議でヒラリー・クリントンが最初に提案したものだ。新興国にとっては、巨額な気候変動ファイナンスの約束はパリ協定に合意するための必須条件だった。だが今、そんな金はどこにもない。サミットは、以前湯水のごとく約束された気前のいい金額ではなく、しずくのような少額の気候変動基金を生み出したにすぎなかった。マクロンのサミットに参加した億万長者たちは、自分たちのお金をブラックホールに投げ込んだことで億万長者になったわけではなかった。約束された何千億ドルもの気候変動基金の代わりに彼らが得たのは、世界銀行による化石燃料への援助の停止だった。

実際、マクロンの気候変動に関するスタンドプレーは、画期的な気候協定によって定期的に中断される年次気候会議の国連気候変動サイクルの腐敗を象徴している。瀬戸際戦術の交渉によるドラマと多数の世界的リーダーの存在はニュースとなり、とてつもない数のメディアに取り上げられた。それらすべてが今や、途中で徐々に尽きてしまっている。そのひとつの理由として、パリ協定の枠組みは新たな協定を必要としなかったからだ。

このことはアメリカに、現実的なエネルギー政策に基づいたもうひとつの極を作り、目に見える将来において経済を発展・成長させるためには安価な化石燃料エネルギーが引き続き必要だと気付く国々を惹きつける好機を生み出す。アメリカだけがそれを可能にする。なぜなら、パリ協定から離脱した唯一の国だからだ。同時に、アメリカの膨大な石炭、ガス、石油の埋蔵量と、他の国には太刀打ちできない技術者とビジネスマンの専門的技能が、アメリカを化石燃料の超大国とする。

マクロンの銀の盆のような経済発展に対するダボス会議スタイルのアプローチは、西側諸国の「化石燃料帝国主義」と呼ばれていたものの象徴だ。昨年8月のスピーチで、インド首相ナレンドラ・モディの筆頭経済アドバイザー、アルヴィンド・スブラマニアンは、地球環境に優しい石炭連合(Green and Clean Coal Coalition)を結成する時が来たと宣言した。トランプ政権はそのような好機に敏感なようだ。2か月後に南アフリカで開催されたエネルギー・サミットで、エネルギー長官リック・ペリーは、アメリカ、インド、オーストラリア、南アフリカを含むグローバル・クリーン・コール・アライアンスの結成を支援すると語った

これは、史上初めて、これまで高コストで頼りにならない再生可能エネルギーを促進するばかりだった世界のエネルギー議論の方向を、アメリカが変える立場に立ったということだ。彼のとりとめのないスピーチが暗示していたように、世界の貧困国に負担をかけながら地球を救おうというようなマクロンのアプローチは、はなから失敗することが明らかだ。インドやASEAN圏(8月に清潔な石炭技術の積極的な促進と広範な採用を求めた)、それにサハラ以南のアフリカ諸国のような巨大な途上国は、マクロンの貧困の誓いに服従したりはしない。トランプ大統領はホワイトハウスにおける初年度の最後に、自身のエネルギー政策の成果を披露し、マクロン大統領の失敗した気候変動との闘いと援助の停止に替わる、実用的な代替案を世界に提示することができる。

(海外ニュース翻訳情報局 浅岡 寧)

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