【EU・格差問題】消えゆくラトビア、EU加盟以来人口の5分の1を失う

旧ソ連国であり、バルト三国の1つとして独立した北欧のラトビア共和国は2004年にEUに加盟しました。それ以降、英国やドイツなど豊かなEU国への人口流出が止まらない状況にあり、かつての人口の5分の1近くが消失しました。EU内の経済格差は、大国のみならず小国にも影響を与えているようです。本記事は、米国を本拠地とし、ブリュッセルにも拠点を置くニュースメディアであるPOLITICO欧州版からの紹介です。

Post 2018/01/06  15:51

Politico by Gordon F. Sander 2018/01/05

リガ(ラトビア首都)—アティス・シャニツ(Atis Sjanits)氏には、大使としては変わった権限がある。このラトビア人外交官は、他国との関係ではなく、自身の国の離散を担っているのだ。

シャニツ氏の任務は、ラトビアのEU加盟で引き起こされた大量の集団移住に応えることである。EU圏への参入以降、国家の5分の1近くがより豊かなEU国家である英国、アイルランド、ドイツへ働きに出た。

2000年に、ラトビアの人口は238万人であった。今年始めの人口は195万人である。国連の統計によると、ラトビアの人口は18.2パーセント減少しているが、人口がこれほど急激に落ちた国は他にない。同様に急速に縮小しつつある、ラトビア隣国のリトアニアが17.5パーセントの減少、グルジアが17.2パーセントの低下となっており、唯一ラトビアに近い状況にある。

「現実に、我々は国民を急速に失いつつあります」とシャニツ氏は、首都内の印象的な外務省の建物にある、空き事務所でのインタビューで語った。

確かに、国の人口が減少している理由は、経済的な移住だけではない。この小さなバルト共和国は、比較的出生率が低く、死亡率が高いことも要因である。

その結末は、ラトビア国家の生存が脅かされることに他ならないと、シャニツ氏は語った。言い換えれば、将来の兵士または納税者が十分に生まれていないということだ。

「ラトビアは、すでに人口密度が低い国です」と著名なジャーナリストであり、テレビコメンテーターでもある、オットー・オゾルス(Otto Ozols)氏は言った。「このままでは50年程度で、ラトビアは国家ではなくなるかもしれません」

「我々は、午前零時まであと5分のところにいるのです」と彼は語った。

ラトビアの人口危機の影響は、ロシア国境沿いの南東角にある最貧地域のラトガレで最も深刻であり、歴然としている。ラトビアの平均月給は670ユーロである。ラトガレでは、一般的にその約半分だ。「ここの賃金はお笑い種です」と、地元紙ラトガレ・ライクス(Latgales Laiks)のジャーナリストであるアレクサンドル・ルーブ(Aleksandr Rube)氏は語った。「出て行きたいと思うことに不思議はないでしょう」

若者の中には、長い人口減少の後に微増し64万人の人口を擁する首都のリガに移る者もいる。しかし、大多数はただ国を出て行くのだ。地域の中心的な都市、ダウガフピルス中心部付近にある街中の空きビルが、都市に半ば見捨てられた印象を与えている。

 

「(国外へ出るのが)簡単すぎるだけです」と、ルーブ氏は言った。「国境が開放され、他のEU諸国の生活に関する情報が手に入るので皆がそうしています。だから、若者たちは英国、アイルランド、ドイツへと離れていくのです」

一般的に、彼らは帰省を除いては戻ってこない。

「私は帰りたくありません」と、数年前に英国に発ち、姉を訪ねて(故郷の)街にいたイリーナ・シワコバ(Irina Sivakova)氏(22)は言った。「ここの状況はあまりにも悪いのです」しかし、ブレグジットの影響で、彼女がどのように英国で扱われているかを尋ねると、「多くのイギリス人は、私たちのことが好きではないのです」と認めた。

シワコバ氏のような人たちは、頑強に楽観的なラトガレ経済発展部門長の、ウラディスラフス・スタンケビクス(Vladislavs Stankevics)氏に失望している。「ここには仕事があります」と、中心部にある旧ソ連時代のエレベーターのない事務所で、彼は断言した。「基本的に、働きたいと思う人は皆、ここにとどまって働く本物の機会があります」

賃金は上がるであろうと断言する一方、彼は現在の賃金が低いことを認めた。「また、」と彼は続け、NATOとロシア双方が昨年1年間に行った軍事演習に言及し、「戦争に関するこの議論はどれも、それが本当であろうとなかろうと、人々がここにとどまる特段に魅力的な状況にはしていません」と述べた。軍事演習が、外国投資も冷え込ませていると彼は付け加えた。

この流れは変わらないかもしれない一方、ラトビアは強さを失いつつあるという兆候がいくつかある。ラトビア共和国中央統計局によると、2016年に故郷に戻った移民者の数は、出て行った者の約40パーセントであった。これは、過去3年間の26~37パーセントという数値に匹敵する。

「このあたりの若者たちは、外国でたくさんお金を稼ぐのは簡単だと考えています」と、成功したズンバのフィットネスジムを経営するために数年前に帰国した、スベトラーナ・ロンスカ(Svetlana Lonska)氏は語った。「別の国で人生を築くのは考えているよりもはるかに難しいと、若者たちには説明しようとしています」

彼女は移民希望者にも、お金よりも人生には大切なことがあると伝えようとしている。「私は、自分が生まれた母国で自分自身の人生を築くことができたことを誇りに思います。これは意味のあることです」

それでも、「人は出て行き続けます。」と、彼女は認めた。

執筆者 ゴードン・サンダー(Gordon F. Sander):
リガを拠点とするジャーナリスト、歴史家。バルト史について多くの著作も執筆しており、最新作は「冬の百日戦争(The Hundred Day Winter War)」である。

(海外ニュース翻訳情報局 渡辺 つぐみ)

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