【元米軍海兵隊士官・提言】米国の安全保障は、冷戦時代よりも1930年代に近い

 

近年の南シナ海での中国の動きについての元米軍海兵隊士官グラント・ニューシャム氏の分析です。この分析は、改めて私たちに考えさせられる視点です。本記事は、アジア・タイムスから紹介します。
Post 2018/01/03 11:40 UPDATE 17:40

AsiaTimes  by GRANT NEWSHAM  2018/01/01 】

冷戦時代の思考を持っている米国の主張を忘れ、スカボロー礁*を奪う近年の中国の行動と脅威は、1930年代のように見える。

スカボロー礁*とは・・南シナ海にある環礁。2012年から中華人民共和国が実効支配しており[、中国以外にフィリピン・中華民国(台湾)が主権 (領有)を主張している。中国ではスカボロー礁を含む島礁群を「中沙諸島」と呼んでいる。

トランプ政権の新しい国家安全保障戦略(NSS)は、中国を敵国と表現している。そして、現在、中国は、米国に対し、冷戦時代の考え方を持っていると非難している。

そのことだけなら、冷戦はわずかな流血で解決され、真っ先に民主主義と人類の自由という概念で終わった。

しかし、現在は、冷戦時代より寧ろ1930年代に近い。

2012年に、中国が、フィリピンの領海(排他的経済水域)であるスカボロー礁を占領した。その時、米国はそのことを黙認した。

当時、フィリピンのアキノ大統領は、中国を、1938年当時のナチス・ドイツに例えた。

ナチス・ドイツが、チェコスロバキアのズデーテン地方を占領し、6カ月後に国の残りの地域を制圧することを(ミュンヘン協定で)認められた**。

**補足説明・・ズデーテン危機のこと。ナチス・ドイツが、チェコスロバキアのズデーテン地方を占領し、独仏英伊の首脳会談が行われ、会談の結果、ヒトラーの要求はほぼ完全に通り、ミュンヘン協定によって承認された。(ウイキペディア)

西側の評論家達は、アキノ氏のこの例えを却下した。両者の1つの大きな違いは、スカボロー礁とは違い、ズデーテン地方には、かなりの地元住民がいたということだ。

歴史に関する類推は、決して正解ではないかもしれないが、おそらくアキノ大統領は、中国の何らかのこの陰謀をよく知っていたのだろう。

ナチス・ドイツも中国のどちらの国も、歴史の中の憤りに煽られ、暴力の脅威を利用し、他国の領土を要求している攻撃的な超国家主義的な独裁政権である。

彼らは失われた領土を取り戻すとし、ナチス・ドイツは「ベルサイユ条約」を、中国は「恥の100年」を覆すと主張している。

どちらの国も、体制への反対勢力は無慈悲に弾圧される。ナチス・ドイツでは、アーリア人種至上主義という神話が確立され、中国では、西洋思想、キリスト教、サンタクロースが、不倶戴天の敵として、その文化の外国人嫌悪的な主張を確立している。

さらに、ヒトラーがズデーテン地方の領土を要求した時、そのことを止めることが出来た国々は引き下がってしまった。同じように、2012年に、スカボロー礁事件が発生した時、米国は同じように中国の要求に引き下がった。

 
中国のスカボロー礁の占領は、決定的な事件である

他国が、侵略者に譲歩する理由は常にある。
例えば、こういうことだ。戦争をするよりもましである。小さな領土はそれほど重要ではない。 我々は、彼らを刺激していけない。 彼らが望むものを与えれば、彼らは満足するであろう。
 当たり前のことだが、彼らは、議論をし、 自殺行為になるかもしれないと、これ以上敢えて何もしない。 さらに、相互的な経済関係は、物事をどうにもならないものにする。

ニクソンとキッシンジャーは中国との関係を確立して以来、米国の戦略は、一貫して中国を常に受け​​入れた。

そして、スカボロー礁事件は、米国が深刻な問題に取り組まないことを中国に示したという決定的な事件になった。しかし、もし、米国が取り組まないとして、他の国でも恐らく同様にしただろう。

その後、中国は人口島を作り、南シナ海での軍事化が活発になった。中国は現在、歴史的に「公海」であり「他国の海域」である海域を事実上支配している。それは、地中海よりも大きい。

 

同盟国に対する米国の誓約に関する疑念

また、スカボロー礁事件は、長年の同盟国を混乱させ、同盟国への米国の誓約についてさらに大きな疑念を提起した。つまり中国に立ち向かうアメリカの意欲と立ち向かう能力についてだ。
ズデーデン危機でも詳細が違うだけで、 同じような結果をもたらした。

フィリピンは恒久仲裁裁判所で訴訟を起こし、裁判所判決は中国の見解を完全に却下した。 しかし、中国は、判決を無視し、悪い影響は受けなかった。中国との問題提起さえ、オバマ政権は丁重に断った。  同じように、ネヴィル・チェンバレンのミュヘン協定でも敬意が払われている。

ドイツのズデーテン地方でのナチス・ドイツと同様に、スカボロー礁は、(中国にとって)一つの前菜である。

 

中国にとって次は何か?

1つは、国家や国民が、当然な成り行きにおいて必要であると考えている領土、つまり「生活圏」を追い求めるという印象がある。中国は、中国人が目をつけたところはどこでも領土だと主張するか、中国共産党は、5000年の歴史の中で領土だったという。    

具体的には、中国は、東シナ海での日本の尖閣諸島、琉球列島全体を領土だと主張している。 近年、この地域での中国軍、沿岸警備、海兵隊の活動が急速に拡大し、日本の防衛力を凌駕している。

台湾は、ズデーデン危機での「チェコスロバキアの残りの部分」と同等かもしれない。  中国は、台湾を何らかの形で脅かす恐れがある。  最近、中国は、台湾に中国空軍に慣れるようにと指示した。

米国、日本、インド、オーストラリアなどの責任ある国々は、軍事的にも経済的にも強い。西側の同盟国はズデーテン危機の背後にいた国々と酷似している。 しかし彼らは総体的行動をまとめるのに苦労している。 中国市場に目がくらんだ国内の企業は役に立たない。

1930年代のドイツと同様に、米国とその他の国の多くの企業は、体制がどれだけ嫌なものであっても事を荒立てないよう各国政府に促している。 最近の中国への訪問で、トランプ氏がゴールドマン・サックスや他の企業を連れてきているのをみるとがっかりする。国家安全保障戦略の比較的現実的な本質を示し、中国への精神分裂症的なアプローチを示唆している。

類似点は続く。 ドイツはドイツ人の海外移住者を利用し、ズデーテン地方に対する領土の要求をでっち上げた。 中国も台湾と同様の議論をしている。 その上に、在外中国人は、既知に富み、詭弁を活用することができる。 中国共産党は何年もの間、彼らを買収してきた。中国は、新興の海外拠点や遠征隊を利用し、地元の中国人の住民や企業を「保護する」ためにいつの日か移動してくるという考えは、なにもこじつけではない。

ワシントン(米政府)に望むことは、アキノ大統領に着目し、 1930年代の教訓をスカボロー礁に関してもっと尊重することである。

今日の政策立案者のための助言も提供している。 西ドイツの民主主義者が1938年にズデーテン危機とその余波をどのように処理したかを見てほしい。

執筆者 : グラント・ニューシャム
日本戦略研究フォーラムの上席研究員であり、元米国海兵隊士官。米外交官、ビジネスエグゼクティブ、米国海兵隊員として日本とアジアで20年以上の経験をもつ。

(海外ニュース翻訳情報局 MK)

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