【イラク・パレスチナ問題】アラブのアパルトヘイト(隔離政策)でパレスチナ人が標的に

今回は、イスラム・中東問題を主に研究するシンクタンクである、Gatestone Instituteの論文を紹介します。イラクに居住するパレスチナ人の権利を剥奪するイラクの新法が可決されましたが、世界のメディアの関心は薄いようです。パレスチナ人が長年アラブの同胞たちに追い詰められ、世界の無関心がその状態に拍車をかけていることを痛烈に批判しています。なお、執筆者のハーリド・アブ・トアミー(Khaled Abu Toameh)氏は、優れた報道に贈られる米国のダニエル・パール賞を2014年に受賞しました。
Post 2017/12/28 20;56  update 2017/12/29 18:12

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GATESTONE by Khaled Abu Toameh 2017/12/27】

・パレスチナ人は、イラクで彼らが直面しているのは「民族浄化」だと語る。イラクの新法は、イラクに居住するパレスチナ人から無償教育、保健医療、および渡航文書を受ける権利を奪い、国家機関で働くことを拒むものである。

・どのアラブの国にも、パレスチナ人の苦難に目を向ける者はいないであろう。世界中の主要メディア放送局は物議を醸しているイラクの法律や、イラクにいる数千のパレスチナ人家族が立ち退きを迫られているニュースをめったに報道することはない。ジャーナリストらは、ラマラ付近で一握りしかいない、投石を行うパレスチナ人を追うのに忙しい。イスラエル兵の顔を殴りつけたパレスチナ人の少女の方が、パレスチナ人に対するアラブのアパルトヘイトよりもメディアの関心を引いている。

・他方、パレスチナ人指導者は、アラブ諸国にいる人民の苦境を気にかけてはいない。パレスチナ人を反イスラエルや反トランプに煽り立てるのに忙しく、そのような取るに足らない件に注意を払う余裕は微塵もないのだ。

パレスチナ人に対するアパルトヘイトを臆面もなく実践するアラブ諸国の長いリストに、イラクも加わった。パレスチナの大義を支援しているように装う一方、パレスチナ人に対する差別的な措置を適用するアラブ諸国の数の多さにはあきれるほどだ。アラブの偽善がまたもやあらわになっているが、誰が見ているというのだろうか。

国際メディアやパレスチナ人でさえ、ドナルド・トランプ米国大統領のエルサレム発表にかなり気をとられ、アラブ諸国にいるパレスチナ人の苦境は忘れ去られたニュースとなっている。この無関心が、アラブ諸国の政府に反パレスチナ政策を続けさせている。彼らは、国際社会で気にするものがいないことが分かっているからだ。国連は、イスラエルを非難するのに忙しく、他の多くを行うことはできない。

では、イラクでのパレスチナ問題とは何だろうか。今週のはじめにイラク政府が、居住するパレスチナ人に与えられた権利を、事実上廃止する新法を承認したことが明らかになった。新法はパレスチナ人の地位を国民から外国人に変えるものである。

イラクの独裁者であったサダム・フセインの下で、パレスチナ人は多くの特権を享受した。2003年まで、約4万人のパレスチナ人がイラクに居住していた。サダム体制が崩壊して以降、パレスチナ人の人口は7千人にまで減少した。

サダム・フセインを支持しているという理由で、国内で好戦的な民兵たちの標的にされるようになってから、何千人ものパレスチナ人がイラクを逃れた。パレスチナ人は、イラクで彼らが直面しているのは「民族浄化」だと語る。

イラクにいるパレスチナ人の状況は、悪化の一途をたどっている。イラクのフアード・マアスーム(Fuad Masum)大統領が承認した新法は、イラクで暮らすパレスチナ人から無償教育、保健医療、および渡航文書を受ける権利を奪い、国家機関で働くことを拒むものである。2017年No.76と呼ばれる新法は、サダム・フセインの下でパレスチナ人に与えられていた権利および特権を取り消す。この法律は、イラク官報No.4466が発行された後、最近施行された。

「パレスチナ人難民を日常の暴力から守り、生活や人道的な状況を改善する代わりに、イラク政府は、このような難民たちの生活に壊滅的な影響を与える決定を行っています」と、(国際人権団体)欧州地中海人権監視団(Euro-Mediterranean Human Rights Monitor)は述べた。

「近年、パレスチナ人難民に対するハラスメントや制限が再発しており、大多数がカナダ、チリ、ブラジル、またはその他欧州の国といった他の国に再び頼らざるを得なくなっています。このような侵害行為のために、現在は4万人のうちわずか約7千人のパレスチナ人難民しかイラクに居住していません。これは恥ずべきことであり、止めなければなりません」

この法律が端的に意味することは、パレスチナ人はアラブの国に住むよりは、カナダ、ブラジル、またはどこか欧州の国に住むだろうということである。非アラブ諸国の方がアラブ諸国よりも多くの権利が彼らにはある。前者では、パレスチナ人は少なくとも土地を買うことができ、保健医療や社会給付を享受することができる。パレスチナ人は、非アラブ諸国では市民権に応募し、取得することもできる。しかし、イラク、エジプト、レバノン、チュニジア、サウジアラビア、およびクウェートといった国ではできない。パレスチナ人にとって、カナダや米国の市民権を取得することは、大部分のアラブ諸国の市民権を取得するよりも容易なのである。

極めて皮肉な注釈をつけると、パレスチナ人に市民権を与えないよう加盟国に勧告したのはアラブ連盟である。彼らの言い分はこうだ。パレスチナ人にアラブ諸国で市民権を与えることで、イスラエル内のかつての母国に「帰国する権利」を否定することになる。だから、いつか、イスラエル内のかつての村や町に(その多くはもはや存在すらしていないが)帰ることができると彼らに嘘をつき言い含めることで、アラブ諸国はパレスチナ人に永遠に難民のままでいてもらうことを望んでいるのである。

1976年に家族とともにイラクに移住したパレスチナ人女性である、アマル・サケル(Amal Saker)氏の件を例に挙げる。彼女はイラク国民と結婚しており、彼女の子どもたちはイラク市民権を与えられていたが、彼女自身はイラク市民権が与えられなかった。彼女は、渡航文書を手に入れイラク国外の親戚を訪ねることも、これから新法で禁じられると語る。新法のタイミングはトランプ氏のエルサレム発表と関係があり、偶然ではないと彼女や多くのパレスチナ人は確信している。イラク新法は、トランプ氏が主張するイスラエル対アラブの衝突に対する「究極的な解決法」の一部であると彼らは考えているのである。すなわち、パレスチナの大義を「清算」することをねらい、パレスチナ人の「帰国する権利」を奪うものであると確信しているのである。

パレスチナ人は、言い換えれば、イラク、サウジアラビアやエジプトといったアラブ諸国がトランプ政権と共謀し、パレスチナ人にはまったく受け入れがたく、有害ですらある解決法を押し付けているという陰謀説を推している。

パレスチナ人はイラク新法に「震え上がり」、イラク政府に撤回するよう圧力をかける運動を始めた者もいる。しかし、パレスチナ人はこの運動に勝てないことも分かっている。彼らは、国際社会の同情を勝ち取ることはないであろうからである。なぜだろうか。このアパルトヘイト法を通過させた国の名前は、イラクであってイスラエルではないからである。

パレスチナ人弁護士組合(Palestinian Lawyers’ Syndicate)の議長であるジャワッド・オベイダト(Jawad Obeidat)氏は、イラク新法は、イラクに居住するパレスチナ人の状況と将来に「重大な影響」を与えると説明した。「これからパレスチナ人は、基本的な権利をほとんど奪われるのです」と、オベイダト氏は語った。

パレスチナ人の弁護士らはイラク人の同僚らとともに、イラク政府に新法を廃止するよう圧力をかけるべく働きかけると、彼は付け加えた。オベイダト氏は、イラク当局に介入し、法律を廃止させ、イラクにいるパレスチナ人に対する「不正義」を止めさせるようアラブ連盟に訴えた。

「イラク新法は受け入れがたく、非人道的です」とPLO高官のタイシール・ハリド(Tayseer Khaled)氏は述べた。イラク当局は、イラクに居住するパレスチナ人への保護を提供できておらず、そのために過去15年間、パレスチナ人は様々な民兵らの格好の餌食となり、多くが国を逃れていると彼は指摘した。ハリド氏は、多くのパレスチナ人家族は、家を追われた後にシリアとヨルダンとの国境沿いにある、間に合わせの一時難民キャンプで生活することを余儀なくされていると言及した。「イラク当局に、パレスチナ人を人道的に扱うよう要求します」と、彼は言った。

しかし、イラクの指導者はパレスチナ人の訴えや非難を目前に傍観し、くつろぐゆとりがある。どのアラブの国にも、パレスチナ人の苦難に目を向ける者はいないであろう。世界中の主要メディア放送局は物議を醸しているイラクの法律や、イラクにいる数千のパレスチナ人家族が立ち退きを迫られているニュースをめったに報道することはない。ジャーナリストらは、ラマラ付近で一握りしかいない、投石を行うパレスチナ人を追うのに忙しい。イスラエル兵の顔を殴りつけたパレスチナ人の少女の方が、パレスチナ人に対するアラブのアパルトヘイトよりもメディアの関心を引いている。古都エルサレムでの、トランプ氏とイスラエルに対するパレスチナ人35名の抗議の方が、まん延するアラブのアパルトヘイトやパレスチナ人に対する差別問題よりも、多くの写真家と記者たちを呼び込んでいる。

アラブ諸国の偽善は最高潮だ。パレスチナ人の兄弟との結束を見せるよう装う一方で、アラブ諸国政府は彼らを浄化すべく、粘り強く取り組むのである。他方、パレスチナ人指導者は、アラブ諸国にいる人民の苦境を気にかけてはいない。パレスチナ人を反イスラエルや反トランプに煽り立てるのに忙しく、そのような取るに足らない件に注意を払う余裕は微塵もないのだ。

執筆者
ハーリド・アブ・トアミー(Khaled Abu Toameh)
 イスラエルのアラブの ジャーナリスト、講師、ドキュメンタリーの映画監督。
The Jerusalem Post とNew Yorkに拠点を置くGatestone Institutenにシニア・スペシャル・フェローとして執筆。1989年からNBC Newsのプロデューサー、コンサルタントを務めている。 その他世界中の数多くの新聞にも掲載。
受賞歴:2014年ダニエル・パール賞    2011年 ジャーナリズムにおける勇気のためのハドソン研究所賞を受賞 他多数2013年には、Algemeinerジャーナルにユダヤ人の生活に影響を与えるトップ100人に選ばれた。

(海外ニュース翻訳情報局 渡辺 つぐみ )

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