【米国・北朝鮮問題】トランプの北朝鮮政策、飢饉への引き金の可能性を専門家が警告

米国主導で、北朝鮮のミサイル発射に対する制裁決議がなされていますが、その実効性についてはかねてより疑問視されていました。原油禁輸措置は、金正恩体制への影響よりも、貧しい国民への影響が最も大きく、飢饉を引き起こす恐れがあるとのことです。本記事は、米国NBCニュースからの紹介です。
Post 2017/12/11  23:43

NBC News Alexander Smith 2017/12/09】

専門家によると、トランプ政権の当初の北朝鮮戦略は、核計画抑制に効果がほとんどなく、飢饉を引き起こす可能性がある。

数回にわたる制裁協議の先陣を切ったホワイトハウスは今、中国に金正恩体制と金正恩が支配する2,500万人への原油供給を止めるよう、しきりに促している。

ドナルド・トランプ大統領の安全保障担当補佐官であるH・R・マクマスター陸軍中将は、米国政府の考えを日曜に総括して次のように述べた。「ミサイルを燃料なしに打つことはできまい。」

中国の国境地帯である丹東から原油を運ぶ貨物列車。

 

アナリストの多くが、そのような行動は、北朝鮮の核およびミサイル計画にわずかな影響しかなく、代わりに国の農業部門に打撃を与え、潜在的に大飢餓を引き起こしうると言う。

カリフォルニアを拠点としたシンクタンクである、ノーチラス研究所(Nautilus Institute for Security and Sustainability)の上級研究員であるデビッド・フォン・ヒッペル氏によると、「これを行えば、完全に原油を遮断することで、確実に一般市民の人々に行き渡る国内農産物の量が劇的に減るでしょう」。

フォン・ヒッペル氏は、自身がほぼ実行不可能であると認めた原油輸出禁止の結果、人道的観点から悲劇的な影響を与えうると警告した。

「中国または世界の他の国が、(原油輸出禁止の)埋め合わせに朝鮮民主主義人民共和国に食料を輸出するか、贈与しない限り飢饉を引き起こす可能性があります」と、北を公式名称である朝鮮民主主義人民共和国と言及しつつ、彼は付け加えた。

北朝鮮の人々は、ほとんどの国よりも原油不足を痛切に感じるであろう。

国の多くを占める46,000平方マイル(約119,139平方キロメートル)は、ペンシルベニア州と大体同じくらいの大きさであり、山でおおわれている。CIAワールドファクトブックによると、米国の44パーセントと比較すると、北朝鮮はわずか(国土の)約22パーセントでしか農業が営まれていない。

耕作に適した土地があれば、北朝鮮人は集中的に農業を行う。トラクター、灌漑ポンプ、冷蔵庫や輸送トラックに収穫や腐る前の食糧分配を頼るようにもなっている。

 

フォン・ヒッペル氏は、追加制裁がなくとも、金正恩のミサイルおよび核実験の結果として9月に課された措置で、北朝鮮の食糧事情は貧弱なものとなる可能性が高くなるだろうと語った。

「一般市民の人々は、核兵器またはミサイル計画のずっと前に、もしくは朝鮮民主主義人民共和国のエリートらが感じるよりずっと前に、制裁による負担を確実に感じるでしょう。一般市民でないエリートが、何か負担を感じることがあればですが」と彼は語った。「しかし、いつか農業部門は制裁の締め付けを感じるでしょう。」

ワシントンD.C.のシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(Center for a New American Security)の上級特別研究員兼エネルギー・経済・安全保障計画ディレクターであるエリザベス・ローゼンバーグ氏は、飢饉は、国会議員がより厳しい取引制限を課すのかを決定する際に考慮すべき「可能性の1つ」であると語った。

1997年5月31日、北朝鮮の東新郡にある流通センターの近くに男が赤十字社の食料を入れた袋を運んでいる

 

「その一方で、核弾頭を装備した大陸間弾道ミサイルがいよいよ増えており、さらにもっと多くの人が重大な脅威にさらされているというのは、冷静な見解です」と、制裁の実行に関わる際には、綱渡りのようにバランスを取らざるを得ない状況に多く直面することを認めつつ、彼女は語った。

北朝鮮で広がる飢餓がいかなるものか想像する必要はない。1994年から1998年まで、北朝鮮は飢饉で荒廃し、推定100万人が亡くなった。

現在の危機と重なっているが、飢饉を引き起こした要因の1つは、農業部門でソビエト連邦が1991年に崩壊した後、石油製品が不足したことである。

朝鮮との国境に位置する中国の丹東市の郊外にある原油タンク

それ以降、首都平壌以外の北朝鮮人の多くは、貧しく孤立した存在のまま生活している。完全な原油禁止がなくても、このような人たちは、今年すでに課された制裁で最も苦しんでいるという専門家もいる。

9月、国連安全保障理事会は、北朝鮮の原油輸入を現在の水準に制限し、精製された石油輸入は年間200万バレルまでに制限した。

米国は石油製品の全面禁止を望んだが、中国とロシアを囲い込むために取りやめた。

この制裁体制の抜け穴で、中国は1年で推定10,000バレルの原油を、鴨緑江の下を通るいわゆる『友好パイプライン』で北朝鮮に送り続けることができるのである。

原油は、それから北朝鮮で唯一稼働している原油精製所であるポンファ化学工場に送られる。そこで軍事製品に転化される可能性もあるが、それのみならず、重要なことに一般市民向けの交通、農業、および漁業産業にも使われる可能性もあるのである。

ロンドンを拠点としたシンクタンクである、国際戦略研究所

 

(International Institute for Strategic Studies)が行った9月の報告によると、原油のポンプ輸送が止まったとしても、北は溶融した石炭といった、他種の炭化水素を製造し不足分を補うことができると考えられる。

また、さらなる制裁を予測し、金正恩は燃料資源を密かに貯蔵していると推測もある。

9月の最終制裁協議後に、フォン・ヒッペル氏が共著した論文によると、エネルギーの枯渇があったとすれば、金正恩はおそらく、何も知らない一般市民の人々を矢面に立たせるだろう。そして、米国が自身の王朝を打倒しようとするのを止めるために不可欠であると、彼が信じている兵器に影響させることはないだろう。

ノートルダム大学名誉教授であるジョージ・A・ロペス氏によると、「原油制限とミサイル計画との間に直接的な影響があることを示す根拠は現時点でほとんどありません」。

「平壌では目にしない最も貧しい人たち、および都市以外の人々には、今年の冬に灯油が不足するでしょう。また、国内農業への影響が春・夏に現れますが、壊滅的なものとなりえます。」

北朝鮮の兵士と平壌の住民は12月1日に集会に出席する。

 

この優先順位の付け方は、北朝鮮では珍しいことではない。北朝鮮は、世界の最貧国の1つでありながら、未だにGDPの5分の1を超える額を工面して軍事に費やしている国である。これは、どの国よりもずば抜けて高い割合である。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領が9月に表現したとおり、「北朝鮮は核計画を諦めるくらいなら、草を食べるだろう。」

専門家数名が、NBCニュースに、石油製品の全面的禁輸はほぼ実現不可能であろうと伝えた。そうするためには、中国をトランプ氏の要求に黙って従うよう説得しつつ、北朝鮮へのあらゆる違法密輸を止めなければならないであろう。

「完全な原油輸出禁止を、完全に実施できるというのは信じがたいです」と、新アメリカ安全保障センターのアナリストであるローゼンバーグ氏は語った。

科学国際安全保障研究所(Institute for Science and International Security)が火曜に発表した報告によると、中国を含む計49か国が、完全な制裁実施ができていない。

孤立した国(北朝鮮)に、少しでも原油が入り込まないようにする全面的な禁止を、管理しようともせずにそうなっているのである。

「どうやっても、水も漏らさぬ完璧な制裁計画を作ることができるとは考えにくいです」と、ローゼンバーグ氏は付け加えた。

では、何ができるのだろうか。

北朝鮮から出入りするモノの物理的な移動を押さえるべく努めるのではなく、北朝鮮に関係する金融取引を制限することが前に進む方法であるという点で、ローゼンバーグ氏とロペス氏双方が一致した。ホワイトハウスが主として注目しているようには見えないが、この措置は、徐々に米国および国連決議でも出て来ている。

「このような金融制裁は、現在と未来の動向です」とロペス氏は語った。「単に、よく言われるように『金の行方を追う』のではなく、不法なものも適法なものも含め、すべての金を断ち切るのです。」

(海外ニュース翻訳情報局 渡辺 つぐみ)

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