【テクノロジー・経済】デジタル通貨革命におけるアジアの役割

ここ数年で急激に暗号通貨が普及し、よく話題に上るようになりました。暗号通貨の土台となるブロックチェーン技術は、これまでインターネットの世界で当たり前であった中央集権的な管理者を置かないという点に大きな特徴があります。代わりに、取引台帳を参加者同士でインターネット上に共有し、自分たちの手で取引を承認するという非常に革新的な技術であり、各分野に応用できるのではないかと期待されています。ただ、その「非中央集権的」性質が、国家や中央銀行を脅かす存在にもなりえます。多様な国家形態を有するアジアでは、この新しい技術にどう対応するのでしょうか。本記事は、アジア・タイムズからの紹介です。

尚、日本では、「仮想通貨」という言葉で普及していますが、海外では「暗号通貨」が一般的であること、暗号理論を用いて取引の安全性を確保する通貨の性質を鑑み、当記事では「暗号通貨」を訳語として採用します。
Post 2017/11/12 9:25

Asia times  NOVEMBER 5, 2017

シンガポールのように門戸開放政策を取る地域がある一方、ベトナムのようにイノベーションよりも規制を好む地域もある。

この1年を文明社会から離れて暮らしていない限り、ビットコインやここ最近数か月での、急速なビットコイン価格上昇について聞いたことがあるだろう。今年だけで、そのデジタル通貨は1月の700ドル程度から先週は6,000ドルを超えて750%を超える上昇となり、全体の市場容量が1,000億ドルを越えて押し広げられている。

多くの人は未だに、仮想資産になぜそのような高い価値を置くことができるのか、そしてこの新しい暗号通貨革命におけるアジア諸国の役割とは何かを疑問に思っている。

デジタル通貨は、ブロックチェーン技術を基盤としている。要するに、すべての取引記録を1つの分散台帳の中に含む分散型データベースである。取引記録が1つの中央サーバーに保管されたり、1つの銀行や政府によって管理されたりするのではなく、インターネット上でノード(参加者)らのネットワークに存在している。

取引が行われるたびに、「マイナー(採掘者)」は強大な計算ハードウェアや、暗号理論的に安全性を確保したアルゴリズムを使ってその取引を承認し、ブロックチェーンを更新する。その作業に対し、いくらかのコインが報酬として与えられる。

古めかしく、遅く、そして高い銀行送金システム、ばらつきのある外国為替レート、および抑制的な金銭移動政策の代わりとなるものを人々が探すようになるにつれて、世界的な需要が伸びている。特に金融関係での政府監視の急増で、技術に精通したトレーダーや投資家らはデジタル通貨に目を向けるようになった。

ビットコインが唯一の果実ではない。文字通り、アルトコインと呼ばれる数百のより小規模なコインがあり、固有の価値や目的を提供することでトレーダーや投資家らを魅了し、技術開発を行うとともにネットワークを育てている。

イーサリアムは、デジタル取引およびアプリケーション開発のための分散「燃料」であり、幾何学的に価値が成長している。今年の始め、1イーサリアム10ドルほどで始まったが、現在は300ドルを超えて取引されている。イーサリアムがビットコインと違うのは、もともとの用途が分散アプリ(DAPP)の開発を促進するものである点である。イーサリアムは、直接的な通貨というよりは、世界的なソフトウェアのソリューションであり、未来のインターネットを強化することを志向している。

国内で80%の暗号通貨が採掘されたと推定されている中国は、今年の暗号通貨の台頭に関し極めて重要である。

ブロックチェーンを反復するたびに過程が少しずつより複雑になるため、計算には強大なコンピューターが必要である。ビットコインの採掘(マイニング)は今や大部分が普通の人の手を離れ、コンピューター装置を詰め込んだ中国本土内の巨大な工場で行われている。

中国政府は管理を望んでおり、先月に新規暗号通貨公開(ICO)を禁止する決定を下し、その後暗号通貨の交換を全面的に禁止した。これにより、世界的なビットコイン価格は25%急落した。最近の開発および中国がこれらの規制を撤回するかもしれないという報道で、今週の市場は記録的な高さにまで回復した。

中国は、「分散型スマート経済ネットワーク」のスローガンの下、NEOと呼ばれる独自の暗号通貨を有する。現在、8月の最高50ドルから、28ドルあたりで取引されており、5月の0.50ドルが最低である。つまり、この代替コインは不安定であるというのは控えめな表現であろう。中国政府からの決定は、デジタル通貨市場中に大きな影響を及ぼした。中国での採掘(マイニング)と投資家の母体は、今も最大の割合を構成しているからである。

中国が管理および規制に取り組む一方、日本は暗号通貨に関して言えば門戸開放政策を取っていると考えられている。日本の国内金融規制当局(金融庁)は、9月だけで11の交換業者を認可した。そして、中国本土出身者の多くが、政府のこれまでにない引き締め政策を避けるために、隣国(日本)の機会を伺っている。

日本のSBIインベストメント・グループは、バンコクを拠点とした新規事業を支援している。この事業では、日本語の「店」という単語と、囲碁の「碁」にちなんでつけられたOmiseGo(オミセゴー)と呼ばれる独自のコインを開発した。このデジタル資産は、先端技術になることを目指しており、デジタル・ウォレット(財布)の開発を通じ、非中央集権化された金融取引、支払い、および交換を促進する。

韓国はやや違った立場を取っており、デジタル通貨に関する金融取引について、もう少し管理することを望んでいる。ちょうど今週、中央銀行は通貨というよりは、むしろ一次産品としてビットコインを規制する計画を発表し、ICOも禁止した。

新規暗号通貨公開(ICO)は、投資家や資金を獲得するために、新しいデジタル通貨や資産が売り出される際のものである。市場は価格が乱高下しやすく、(短期に取引を完了させる)スイングトレーダーらを引き付ける「西部の荒野」のようなものであり、大部分が規制されていない。中央銀行は、ICOを取り締まるときは、ユーザーを不正から守っていると主張する。韓国は、対策本部に暗号通貨の交換を監視し政策を展開するよう任命していることから、マネーロンダリングについてより懸念しているように思われる。

シンガポールは、デジタル通貨に関する公的な規制をまだ打ち出しておらず、現時点では開放的なままとなっている。島国(シンガポール)の中央銀行および金融規制当局である、シンガポール金融管理庁の当局者は、最近ブルームバーグのインタビューで「開かれた精神を保持する」だろうと述べた。

逆にベトナムは今週、完全に暗号通貨を禁止し、トレーダーにビットコインや類似の資産に手を出すと罰金となることを警告した。

ロシアも暗号通貨界における大物プレーヤーであり、大きな発表があれば市場中に波紋を広げる可能性がある。ロシアも交換に対しより強い規制に向けて動いており、中国と一緒になって10月にデジタル通貨をすべて禁止する極端な措置を取っている。

ウラジミール・プーチン大統領は最近、ロシアはビットコインに代わって使われる「クリプトルーブル」と呼ばれる独自の仮想コインに着手する計画であると発表した。国営ニュース局であるRTによると、ビットコインは「犯罪行為、脱税、およびテロの資金調達で得た資金を洗浄する機会に加え、不正計画の広がり」を生み出していると大統領は主張した。

技術やイノベーションに管理と規制で対抗する新しい戦場は、アジア諸国の中で形成されている。政府、中央銀行および金融機関は、概してその非中央集権化された性質のために、暗号通貨の台頭を恐れている。

デジタル資産を規制し、制御しようとする継続的な努力が実践されているが、一方でユーザー、トレーダー、および投資家らが目指すものは反対である。すなわち、自分たちの金に対する銀行や政府による管理からの自由である。

アジアの暗号通貨界における主要プレーヤーの中には、取り締まりや規制政策を打ち出すものがいるにもかかわらず、雄たるビットコインや、より小規模な姉妹通貨は牽引力を得続け、日に日に成長している。これからはブロックチェーン技術の時代であり、1995年がインターネットの年となったように、2017年は暗号通貨の年になるかもしれない。

(海外ニュース翻訳情報局 渡辺 つぐみ)

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