【米国:記事比較】大統領予備選大穴・自己資金1億ドル超のインド系共和党候補者

バイオテクノロジー企業家のヴィヴェック・ラマスワミ氏は、「経済成長による国民統合」と「ウォークネス訳注1の拒否」を掲げて共和党の2024年大統領候補者指名選挙に立候補しています。彼の政策が混戦模様の共和党予備選挙から一線を画すことができるでしょうか?


ウォークネス訳注1:社会的公正、人種差別、性差別などに対する高い意識を持っていること)

BBC(中道)の記事では、ラマスワミ氏がインド系アメリカ人の代表であること、ラマスワミ氏の高等教育におけるアファーマティブ・アクション訳注2 反対や、中国への経済的依存度削減を求める主な政治的立ち位置が挙げられてます。同記事は、支持者や懐疑的な人々を含む多数のインド系アメリカ人の有権者を引用して、「政治的な違いに関係なく、インド系アメリカ人コミュニティは彼らの政治参加の急増に喜んでいる。」と結論付けています。

アファーマティブ・アクション訳注2:マイノリティー優遇措置、差別是正措置。社会的な要因による差別で不利益を被っている者に対して、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のこと。

一方、右寄りのニューヨーク・ポストのオピニオン記事では、ラマノスワミ氏を「スリーパー候補」とし、「静かに心をつかんで希望を目覚めさせる、予想外のスリーパー候補」と賞賛しています。
同記事は、ラマスワミ氏の選挙キャンペーンのプレゼンテーションを「トランプよりもエネルギッシュで分断を引き起こさないバージョン」と解説。トランプ氏や他の共和党の競争相手に関するラマスワミ氏の発言を並べ、「ラマスワミ氏のポイントが上がるにつれ、トランプ氏がどれだけ怒るか見てみましょう。」と結論付けています。    

このように語られるインド系アメリカ人のラマスワミ氏ですが、英国からインド系の首相がでてきたように、インド系米国人の大統領がでてくるのも、そう遠くないのかもしれないですね。

こちらでは、ニューヨーク・タイムズの記事をご紹介します。


《引用記事 New York Times

独裁的手法で支配する口のうまい共和党員

2024年大統領選挙の大穴候補者、ヴィヴェック・ラマスワミは、莫大な富を餅、驚くべき自信に溢れている。彼はまた、ドナルド・トランプが決して行わなかった方法で、驚くべき力を発揮することを公約している。

共和党の大統領候補として立候補している奇才ヴィヴェック・ラマスワミ氏は、彼が法の支配と憲法の三権分立を信じていることを、支持者に知ってもらいたいと考えている。

憲法を徹底的に研究した結果、ラマスワミ氏は、大統領職の強大な権限によって、「初日に」教育省を廃止することができると考えているという。憲法が予算の権限を議会に与えており、その後の法律が、大統領がその予算を使わないことは違法であることは無視している。

ラマスワミ氏はまた、教員組合を撲滅したいと考えているが、教員組合は州や地方自治体との契約によって管理されていることは認めている。

そして、南部国境を越えてやってくるフェンタニル訳注3の脅威を抑え込むために、軍隊を解放することを約束している。1878年に制定された「Posse Comitatus Act」(民間法の執行に軍隊を使用することを禁止する法律)があっても、気にしていないようである。

フェンタニル訳注3:鎮痛剤として使用される強力なオピオイド

要するに、裕福な37歳の起業家であり、知識人保守主義の新しい顔として自身を売り込んでいるラマスワミ氏は、トランプ氏ができなかったことや行えなかったことを、より強引に行うことを公約している。

「私はアメリカ・ファーストの政策を推進するドナルド・トランプ氏に敬意を表しますが、彼は行くところまで行ったと思います。」とラマスワミ氏は、ニューハンプシャー州ベッドフォードのマーフィーズ・タップ・ルームで約100人の観衆に語った。「私はこの選挙に立候補して、ドナルド・トランプ氏よりも遥かにアメリカ・ファーストの政策を推進するつもりです。」

インド移民の息子であるシンシナティ生まれのラマスワミ氏は、選挙に立候補するのは初めてで、ほとんど知名度がなく、最も勝ち目のない立候補者の一人のように見える。しかし、彼は多くの支持者を集めており、自信にあふれている。彼はすでに選挙戦に1,000万ドル(約13億円)以上投入し、必要に応じて1億ドル(約130億円)以上を投じると述べている。最近の全国的な世論調査ニューハンプシャー州の調査では、共和党の中で彼が上昇傾向にあることが示されているが、得票率は5%にも満たない程度である。

フロリダ州のロン・デサンティス知事を、大学キャンパスやNBCニュースのビジョンのない「実行者」とあからさまに非難するのは、トランプ氏との最終的な対決をクリアするためだ。彼が前大統領に最も過激な批判を浴びせたのは、トランプ氏が予備選の討論会をスキップすると示唆したことについてである。これにより、彼自身のライバルを追いつくために必要なステージを奪われることになると主張している。

ラマスワミ氏は、ホワイトハウスに至るシンプルな道筋を見ている。アイオワ党員集会で十分な成績を収め、ニューハンプシャー州を制し、指名を獲得し、その後1980年のロナルド・レーガンのジミー・カーター大統領に対する勝利を上回る地滑りで勝利するというものである。

「彼は新入生のときから同じよう語り、自信に満ち、口が達者で、自分自身にとても自信を持っていた」と、ラマスワミ氏の高校時代の友人であり、社会的責任のある企業に縛られない投資家向けの金融オプションを提供する資産運用会社を共同設立したビジネスパートナーのアンソン・フレリックスは語った。「成功すれば自信もつく、それは好循環です。」

そして、彼の公約が法的に問題があるかもしれないとしても、多くの共和党員にとっては正しいように聞こえる。-少なくとも権限があると感じる人が多い。

「彼は自分が何を言っているのか分かっているようだ」と、自称「ウルトラMAGAトランプ支持者」のボブ・ウィリスは語り、水曜日にニューハンプシャー州キーンに到着するラマスワミ氏を待っていた。

自信こそがラマスワミ氏の才能である。父親はゼネラル・エレクトリック社のエンジニアで特許弁護士だが、候補者によれば、息子よりもはるかにリベラルだという。母親は医師である。彼が厳格なベジタリアンであるのは、インドのルーツに由来する。

ピアノの先生から、政府の悪とヒラリー・クリントンの間違いについて長い話を聞かされたのが、ラマスワミ氏の政治的な旅の始まりだった。ハーバード大学では、彼は生物学を専攻し、「Da Vek」という政治的なラッパーの別名を持ち、大胆なリバタリアニズムを展開した。

卒業後、イェール大学ロースクールに入学するまでの間、金融業界で製薬会社やバイオテクノロジー企業に投資する仕事をした。法学部の学位を取得する前、彼はすでに1500万ドル(約15億円)の価値があったとインタビューで語り、その際、富の不平等を憂いだ。

「富の不平等は、我々が皆、平等な市民であるという前提を拒絶する社会的階層を助長していると思います」と語る。


実際、ラマスワミ氏は、国民、特に彼の世代や若者が、数学者ブレーズ・パスカルが「心の中の神の形をした空洞」と呼ぶものを失ったという、包括的なテーマを持っている。ラマスワミ氏が言うところによると、この空洞は、「世俗のカルト」、つまり「目覚めた人種主義」、「性的・ジェンダーの流動性」、そして「気候カルト」によって埋められているとされ、愛国心、メリトクラシー、そして犠牲のアメリカの理想を再発見することでしか、「完全に薄まらない」と述べている。

ラマスワミ氏は、信憑性を欠くようなことを言ったり、真面目さを損なうようなこともある。彼は選挙戦で、CNNのドン・レモンと激論を交わした直後、レモンがクビになったと豪語している。しかし、その議論の中で、黒人が銃を持つ権利を得るまで公民権を確保できなかったという彼の発言は、公民権運動が非暴力を前提にしていたため、歴史的にほとんど意味がない。実際、ブラック・パンサー党訳注4が武装したことで、政府による致命的な弾圧を受けることになった。

ブラック・パンサー党訳注4:1960年代後半から1970年代にかけてアメリカで黒人民族主義運動・黒人解放闘争を展開していた急進的な政治組織

ラマスワミ氏は、化石燃料の燃焼が地球を温暖化させているという確立した科学的根拠を認めながらも、その答えは「掘削、採掘、石炭燃焼」であり、化石燃料をさらに使用することだ。そうすれば、経済成長が促進され、すべての人を気候変動から守るための緩和策に充てることができると考えているのだ。

また、彼は、人種に基づくアファーマティブ・アクションの廃止を約束した最初の大統領候補だと言うが、これは2016年のベン・カーソンの大統領選の目玉であったことを無視している。ラマスワミ氏は、大統領令によってアファーマティブ・アクションを終わらせるという。

彼は、ウクライナへの援助には1ドルも使わないが、メキシコの麻薬カルテルは軍事力で「殲滅」すると言っている。


水曜日の夜、ニューハンプシャー州ウィンダムで、ラマスワミ氏は、バイデン大統領に挑む民主党のワクチン懐疑派、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を、自身の副大統領候補に指名すると提案した。火曜日には、混血の孫と黒人の婿を持つ女性から、「アンチ・ウォーク」という言葉の意味を明確にするように尋ねられました。

「Woke Inc.:Inside Corporate America’s Social Justice Scam」という本の著者であるラマスワミ氏は、「私自身を説明するためにこの言葉を使ったことはありません」と答えた。その間、側近が「Stop Wokeism. Vote Vivek」と書かれたステッカーを配布した。

彼と仕事をしたことのある著名人にとっては、彼が言っていること全てがやや不可解に感じられることがある。ラマスワミ氏の本当の財産は、オバマ前大統領時代のメディケア・メディケイドサービスの元管理者であるドナルド・M・バーウィック氏が語るように、医薬品投資と彼が「素晴らしい」アイデアを思いついて設立した薬剤開発会社ロイバント・サイエンスからのものだ。

製薬会社は、たとえ医薬品がが成功しても、利益が見込めないと判断した場合、研究を断念することが多い。そこで、ロイバント社はそのようなベンチャー企業を拾い上げ、市場に送り出すことにした。ロイバントの諮問委員会には、元民主党上院議員で上院多数派指導者のトム・ダッシュル氏、バーウィック博士、オバマ政権の保健福祉長官だったキャスリーン・セベリウス氏らが加わった。

ダッシュル氏は、処方箋薬を手頃な価格で市場に提供するというラマースワミ氏がの取り組みに惹かれたと語った。

「私は、ラマスワミ氏がコスト削減のために最大限の努力をしていることから、社会的責任や企業責任も彼の考え方の一部だと考えていました」と、ダシュル氏は語った。

その後、2020年にジョージ・フロイドが殺害された後、ラマスワミ氏は、ブラック・ライブズ・マターや投票権、”E.S.G.訳注5“といった社会問題に発言する企業を公然と非難し始めた。- 環境、社会、ガバナンスへの投資。ウォールストリート・ジャーナルに掲載された意見コラムに続き、タッカー・カールソンのFox News番組(現在は終了)に出演することになった。

E.S.G.訳注5 :Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動

2021年1月12日にロワバンを辞職したバーウィック博士は、「私はかなりショックを受けました」と語った。数日のうちに、ダシュル氏とセベリウス氏も辞任した。ラマスワミ氏はやがて3冊の本を書き、フレリックス氏とともに資産管理会社の設立を立ち上げ、大統領選に出馬した。


選挙戦のかなり初期の段階で、ラマスワミ氏は自身の訴求力の限界について率直に語っている。アイオワ州で共和党のコーカスを支配している福音派のクリスチャンたちは、彼のヒンドゥー教信仰に慣れ親しむ必要がある。彼の「メキシコとの戦争」はサウスカロライナで好評を博すかもしれないが、ニューハンプシャー州のよりリベラルな有権者の中で抵抗が予想されると述べている。

また、ニューハンプシャー州の懐疑的な人々は、彼をどの程度真剣に受け止めればよいのかわかっていない。同州のスポフォード在住のヴィクトリア・グラさん(50歳)は、彼がデサンティス氏を排除するためのトランプ氏との裏取引の一部であると疑問視し、ニュージャージー州の元知事クリス・クリスティ氏が2016年のニューハンプシャーでマルコ・ルビオ上院議員を排除するのを手助けしたように、同じようなことが起こっていると考えている。

1億ドルの自己資金調達は、ラマスワミ氏を長期間にわたって選挙に参加させることができ、一部の有権者は、ラマスワミ氏の精神的な社会的刷新を求めるほぼ救世主的な訴えに明らかに説得されている。

マンチェスター在住のグレッグ・デュモントさん(45)は、同候補者が彼の子供たちを道徳的な堕落と「アイデンティティ政治の人種主義」と彼が呼ぶものから救おうとする勇気を持っていることを称えて、ウィンダムで涙を流した。

政治犯として刑務所に収容されているトランプ氏を描いたTシャツを着たデュモントさんは、シャツの男性よりもラマスワミ氏に投票するつもりだと述べた。
「(彼は)全ての政策をアップグレードしたもので、人格的な問題はない」と述べた。「ナルシズムにはうんざりだ。」

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 文・翻訳)

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