【インド】ダーウィンの進化論を教科書から削除、科学界が激怒

インドのモディ政権は、インドの教育をヒンディー教ナショナリストの政治的な目的から、ダーウィンの進化論を教科書から削除、インドのより古い政治史にも照準をあわせ、イスラム教徒の業績や貢献を否定または無視するよう求めたり、ムガール帝国の箇所を削除するなどヒンズー教徒に都合の悪いことを削除するよう検閲を推進しているという記事です。

モディ政権のこの馬鹿げた動きは、極めて政治的なもので、同国の科学者たちが一斉に抗議を行っているそうです。

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《引用記事 Ancient Origins

ヒンドゥー教ナショナリストであるインドのナレンドラ・モディ首相が、公立学校の9年生と10年生の理科の授業で使用される一部の教科書から、チャールズ・ダーウィンと彼の進化論に関する部分を排除した。これは、常に論争を引き起こすことを避けられないヒンドゥー・ナショナリスト政府の決定である。

この驚くべき決定は、インドの2億5600万人の学生に教科書やカリキュラムを選定する政府機関である国立教育研究訓練評議会 National Council of Educational Research and Training (NCERT)によって最近発表された。

2021-22年度には、9年生と10年生の試験から進化論に関する問題が削除されたが、このトピックはまだ教えられていた。しかし今回、これらの学年の生徒が読む科学の教科書から進化論が正式に削除され、禁止トピックのリストに載せられている。


インドの教科書からダーウィン進化論が削除されたことに対する科学者たちの反応

インドの科学者たちは、モディ政権による科学の政治化と考え、すぐに抗議の声を上げた。モディ政権は、主に宗教的な理由から進化論を否定するヒンズー教の民族主義運動と連携している。

「生物学の進化論が削除されたことに、国の科学コミュニティは深く失望しています」と、インドの非営利団体Breakthrough Science Societyは、Science Insiderに引用された声明で述べている。

「この科学の基本的な発見に触れる機会を奪われた場合、学生たちは思考プロセスで大きな障害を抱えることになります。」

Breakthrough Science Societyは、初等中等教育の科目リストに進化論を戻すようNCERTに懇願する公開書簡に、4,000人以上の科学者や研究者から署名を集めた。

一方、進化生物学者のアミタブ・ジョーシ博士は、ジャワハルラル・ネルー先端科学研究センターの代表として、「科学教育に必要不可欠なものを排除することは、幅広い中等教育の概念を侵害するものである」と述べ、科学の教科書から進化論を削除することを非難した。

現時点では、11、12年生で選択科目として生物学を選ぶ学生たちは、進化論について説明された教科書を使用することが可能。しかし、これは科学とは関係のない理由でモディ政権が科学教育に介入したことに対する批判の嵐は収まっていない。


「進化論はおそらく、教養ある国民全員が知っておくべき生物学の最も重要な部分である」とジョーシ博士は述べ、生物学の選択科目を選ばない学生たちがこのトピックについて教わらないことを非難した。「それは直接、私たちが人間としてどのような存在であり、生きている世界の中でどのような位置にいるかを表しています。」

教科書からダーウィンの進化論を削除する決定に対して批判的な別の学者は、ナレンドラ・モディ首相(ナショナリスト政党・バーラティヤ・ジャンタ・パーティーBJP)が2014年に政権を握る前のNCERTのトップであったクリシュナ・クマル博士である。

同博士はAl Jazeeraに「教科書から削除された内容の全体像を誰も知りません」と語っている。「ダーウィンが誰であるかを知らずに10年生を合格する学生を想像できますか?」

ダーウィンの進化論を否定する一方で、民族主義的なヒンドゥー教グループは、動物や人間のさまざまな形態をヒンドゥー教の創造神ヴィシュヌの化身(生きた具現化)と見なす代替進化論を推進している。

この理論では、地球全体に合わせて10のヴィシュヌの化身が存在し、異なる生命形態のグループを表し、それらを総称して、ヒンドゥーの聖書で「ダシャヴァターラ」と呼ばれている。化身は異なる段階で地球に現れ、彼らが創造した生命形態の次のセットは、以前に現れたものよりも複雑であり、伝統的な進化論のステップを再現している。


学校カリキュラムをヒンドゥー原理主義とインド民族主義の論調とより合わせたものにしようとする試みは、科学の教科書の変更にとどまらなかった。NCERTは、さまざまな学年で使用される政治科学や歴史書から、ヒンドゥー原理主義者に不快にさせる箇所を削除するなど、他のタイプの文章にも変更を加えている。

たとえば、2020年にNCERTは、11年生と12年生の政治科学の教科書から、偉大なインドの指導者マハトマ・ガンジーの信念や業績について論じている2つの文を削除した。削除された1つの文章は、「ガンジーが『インドをヒンドゥー教徒だけの国にしようとする試みは、インドを破壊する』と確信していたことを指摘した」というもの、2つ目の削除された文章は、「ヒンドゥー-ムスリムの団結を堅く追求することがヒンドゥー過激派を激怒させ、ガンジーを暗殺しようとする試みが何度か行われた」というもの。

NCERTを運営するヒンドゥー原理主義の教育改革者たちは、インドのより古い政治史にも照準を合わせ、イスラム教徒の業績や貢献を否定または無視するよう求めている。彼らは、インド亜大陸を支配したイスラム教徒の一派であるムガール帝国に捧げられたセクション全体をインドの歴史教科書から削除するよう命じた。


ムガール帝国はその全盛期には、現代のバングラデシュやアフガニスタンを含めてインド南部にまで勢力を拡大した。しかし、現在、学校の子供たちは、この帝国の業績やインドの重要な時期について学ぶ権利を否定されているのだ。

これらの検閲行為は、学者たちから強く非難されてきた。しかし、インド政府が方針を転換することを期待する人は殆どいない。
「(抗議が)何か変化をもたらすでしょうか?」と、全インド人民科学ネットワークの前会長である生物学者のサティアジット・ラス博士は問いかける。
「インド政府のこのような決定の最近の軌跡を考えると、少なくとも短期的にはおそらくそうではないでしょう。長期的な結果に影響を与えるためには、持続的な進歩的努力が必要です。」

同時に、NCERTが教科書の内容をいじくり回している間に、ヒンドゥー教徒のナショナリストたちは、インドのムスリム少数派によって歴史的に抑圧されてきたという架空の物語を含めたカリキュラムの変更を求め始めている(現在、ムスリムはインド人口の14%を占めている)。

また、古代のヒンドゥー科学者たちが、現代の科学がそれらの存在を構想する前に、幹細胞研究を行ったり、宇宙に飛び立てる機械を発明したりしたという話を含めて、科学史を書き直すことも考えている。


科学に対する挑戦が悪い方向に向かう時

 ダーウィン進化論、あるいはその他の現在の主流の理論に対する科学的根拠に基づく挑戦は、すべての学術的環境で歓迎されるべきである。宗教的または精神的な要素を含む批判であっても、証拠と科学的推論に基づいている限り、議論に含めるべきである。

しかし、インドの学校で起こっていることは、科学的多様性への尊重に基づくものではないようである。それは、インドのナショナリスト政治の人気のある流行や反応的な宗教的熱狂によって動機づけられている。

「学校のカリキュラムはひどく残酷です。」とクリシュナ・クマール博士は述べ、モディ政権の国立教育研究訓練協議会の最近の行動に対する感想を要約した。
「学生全体が、科学と歴史の重要な概念について、完全に無知であることが判明するのは、非常に残念なことです。」

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 文・翻訳)

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