【日中関係・論文】中国vs.日本 アジアのもう一つの大きなゲーム

もちろん中国は、南シナ海の行動規則に則って、ASEAN諸国との継続的に話し合いや、あるいはマレーシアとの合同演習の実施などを通じて、海洋の外交を通じてこうした懸念を和らげようと努めた。しかし、威嚇行為を繰り返し、アジア諸国へ直接警告することは、それらの親善行為の効果を弱めており、力の弱い国々は中国の拡大政策行為にどれだけ黙って従わなければならないか考えさせられている。中国政府の南シナ海での主張に対して下されたハーグの常設仲裁裁判所の判決を、中国政府が明確に拒否していることも、この地域の不安を増強している。さらに日本と違って中国は、防衛機器を提供することで友好国を得ようとはしていない。アジアにおける中国の武器販売先の大半は、北朝鮮とバングラデシュとビルマ(ミャンマー)で、日本とアメリカ両国と協力している国々からは孤立しているパキスタン(中国の武器移転の最大の受け入れ国)を加え、緩やかなグループを形成している。

現実的政治と限定的に強権政治を組み合わせた中国の手法は、長期間ではないにせよ、少なくとも短期的には中国の目標の達成をより確実にするだろう。力の弱い国々は、中国の侵略行為をうまく食い止めるということに幻想を抱いておらず、そういった国々の希望は、中国政府の行動が自然に穏やかになるか、無理して共同で圧力を加えて、中国の意思決定に影響を与えるかだ。こういった算定においては、日本は主として邪魔者に見える。日本政府は東シナ海で自国の領土を守ることができるが、日本の力はこの地域では限定的であることも分かっている。このことは、アメリカ合衆国との同盟関係が継続的で強化されることを義務化するだけではなく、東南アジア諸国に防衛機器を提供するなどして、中国政府の意思決定をこじれさせる手段を講じさせてもいる。日本政府は、そうすることで、中国のアジアでの膨張を防ぐのではなく、潜在的に中断を促していることを理解している。逆の言い方をすると、アジアは最も強力な二つの国家による安全保障戦略の競争にさらされている。日本は好かれようとし、中国は恐れられようとしている。

中国と日本の対抗意識は、それぞれがアジアでそれとなく提供している国家開発モデルにも深くはっきり表れている。それは中国政府が太平洋を取り巻く国々で共産主義が採用されることを期待するものでもなく、日本政府が議会制民主主義の導入を支援することを期待するものでもない。むしろもっと根源的な問いで、お互いの国が周辺国にどのようにみられているか、その国の力、政府の影響力、その国のシステムによってもたらされる社会の活力や機会といったイメージによって、それぞれが地域でどれほどの影響力を持っているかといったことだ。

これは極めて主観的な取り組みであって、二つの国のどちらにより影響力があるかを決定する根拠ははっきり解明できるものではなく、不確かで、推論的で、間接的であるということは認識されるべきだ。モデルとなっているこの問題は、ソフトパワーにおいて広く普及している考えとも同じではない。通常、ソフトパワーは国家の力の要素として定義されており、もっと具体的には、国家が政治的な目的を成し遂げる状況で作られる特有のシステムの魅力のことだ。中国政府も日本政府も自国の利益を高めたいと思っていることには疑いがないが、それぞれがどのように見られているかということと、両国が追い求めている政策で得られる利益とは別の問題だ。

遠い昔には、マハティール・モハマドのような人が、日本をマレーシアにとっての規範の国だと宣言し、中国でさえ日本の近代化モデルを模範と考えていた時代があった。雁行形態論と呼ばれている東南アジアとの経済的な結びつきを広く政治的な影響力に転用しようとした日本政府の期待は、1990年代の中国の台頭によって頓挫した。中国政府がすべてのアジア諸国にとっての最大の貿易相手となり、中国が中心的地位を占めるようになった。しかし、中国政府の主張に対する長年の懸念と、経済的に圧倒されてしまうという恐れから、中国とアジアの関係は主には貿易関係でとどまっていた。短期的な視点では、経済的な力があるので、中国はより影響力があるように見えるかもしれないが、中国も断片的にしか経済力を政治的な利益に転換できていない。中国の政治モデルを模倣するアジア諸国が増加したわけではないのだ。

むしろ日本政府と中国政府は、地位と影響力を得ようと激しく争い続けている。それぞれが対応しているアジアの関係者はほとんど同じで、アジア諸国は二国が提供しているものが概ね市場競争に基づいていると考えており、力の弱い国にとってはどちらか一国だけとの取引よりも多くを得ることができる。なおまた、中国と日本は、自国の政策をアメリカのアジア政策の見解に基づいて策定している。日本にとってアメリカとの同盟は、本質的には中国政府に対抗して、日本政府とアメリカ政府が一体化することに役立っているが、一方でアメリカの意向という根本的な不確実性を作りだしているものだ。アジア大洋地域に関わり続けるというアメリカとの約束において、その信頼性に日本は懸念を持っており、日本政府の軍事力の近代化計画を、部分的にはより実際的なパートナーになるものにさせ、また過度の依存を避けるようにもさせている。それと同時に、アメリカの長期的な政策が不確実なゆえに、中国の増大する軍事力の懸念を共有するインドやベトナムやそれ以外の国々と協力関係を深めたいという日本の欲求は、高まっている。同様に、オバマ政権が南シナ海の領海問題に介入にしたときに取った中国政府の反応は、南沙諸島での島の埋め立てと基地建設の計画であった。アメリカ発ではないにもかかわらず支持を集めた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や、この地域の融資において持続した影響力がある世界銀行を、少なくとも部分的にはその力をそぐために計画された中国の金融と自由貿易のイニシアチブについても同様のことが言える。

単に物質的な観点から考えると、二国間のどの方面の競争においても日本はより悪い立場となっていくだろう。日本が経済的に輝いていた時代は遥か昔で、これまでに一度もまだその比較的強い経済力を政治的な影響力に転換できたことがない。政治システムが硬直していると認識されていることで、日本が戦後数十年間に見せていた躍動感を再び取り戻すことはないという感覚を付け足している。

しかし、概ね生活に満足した、高度に教育された健康な人々を擁した安定した民主政治によって、多くのアジア諸国にとって日本はまだベンチマークとして見られている。かつて取り組んだ汚染問題や、低い犯罪率から、日本は発展途上の社会に魅力的なモデルを提供している。ピュー研究所の2015年の調査によると、回答者の71パーセントが好意的な意見を持っていて、日本の温和な国際政策と最小限の海外軍事オペレーションは、寛容な海外援助と併せて、日本をアジアでもっとも賞賛される国にしている。中国はわずかに57パーセントの支持しか獲得しておらず、少なくとも回答者の3分の1は否定的な印象を持っている。

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