【日中関係・論文】中国vs.日本 アジアのもう一つの大きなゲーム

近年、中国政府は、包括的な地域外交政策の一環として、南北両半球での活動を増やし始めた。おそらく最も顕著な例が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立することによってアジアの地域の金融構造を多様化させようとする試みだ。2013年に提唱され、公式には2016年1月に開業したAIIBは、日本と米国を除いたほとんどあらゆる国からの参加を速やかに取り付けた。AIIBは明示的に地域への貸し付けプロセスを「民主化しよう」と努めた。というのも、日米両国の15パーセント以上に比して中国には全体の議決権付出資持分の7パーセント以下しか与えないといったADBの規則と統治の硬直性について、中国政府は長い間不満を持っていたからだ。中国の優勢な地位を確保するため、中国政府はAIIBの32パーセントの出資持分と27.5パーセントの議決権を保有している。これに次ぐ大口出資者のインドには、わずか9パーセントの出資持分と8パーセント強の議決権しかない。しかしながら、ADBのおよそ1600億ドルの資産ベースと300億ドルの貸付と比較すると、AIIBはその野心に見合った規模に到達するには程遠い。同行には当初1000億ドルの資本金が見積もられたものの、これまで払い込まれたのは200億ドルの出資分担のうちほんの90億ドルにすぎない。初めから小規模な資産ベースであったことから、AIIBは、2017年度に予定されていた20億ドルの貸付けについて、初年度はわずか17億ドルを支出したにとどまる。

多くのアジア諸国にとって、日中間の明白な支援と財力の競争は歓迎すべきことだ。インドネシアのようにインフラを是が非でも必要とする国から来た当局者は、ADB-AIIB間の競争に高潔な循環過程、すなわち、日本の社会性に優る、環境に優しい基準が中国の貸付品質に寄与し、また中国のより低コストの価格構造がプロジェクトをいっそう実現可能にするといった循環過程が起こるのを望んでいる。ADBによれば、2030年までにはインフラ整備で推定26兆ドルが必要となるとのことだが、そうであれば、たとえ日中両政府がそれぞれの金融機関をより大きな目的のための手段だと見なすとしても、資金調達元や支援元は多ければ多いほどよい。

習近平国家主席はその新しい銀行を、古い中国開発銀行と新しいシルクロード基金とともに何としてもインフラ援助機関と位置付けるために、AIIBを野心的な(大袈裟なともいえる)一帯一路構想と結び付けた。日本に比し、中国は海外援助の大部分をインフラに集中した。そのため一帯一路構想(BRI)は、そのインフラ整備の優先順位を最新かつ最大に具体化する役を担うことになる。「新シルクロード計画」としても知られるBRIは、アジアでの日本の経済的存在感に対抗するための中国の代表的な挑戦のひとつだ。2017年5月に北京で開催された一帯一路フォーラムの開会の辞において、習国家主席は、ユーラシア大陸とその先を繋げるために1兆ドルのインフラ投資を誓約した。それはすなわち、新しい世界規模の経済構造をもって陸路と海路を基盤とする貿易ルートを何としても繋げようとする試みだ。ADBのある1ページに倣って、習国家主席は、BRIがアジア周辺や世界に広がる貧困を減らすよう努める所存であることも誓約した。BRIで投資される額が結局は誓約された額に遠く及ばないであろうといった疑いがはびこってはいるが、習国家主席の計画は、経済政策と同様に一つの政治綱領を体現するものだ。

BRIは準貿易協定として機能するため、同構想はまた、日中間の自由貿易の競合に興味を集中させる。多くの者が臆病で緩慢な貿易政策であると考えるにもかかわらず、日本の経済学者小島清が、はるか遡ること1966年に「アジア太平洋の自由貿易圏」を現に提唱していた。しかしその考えは、2000年代半ばのアジア太平洋経済協力会議(APEC)のフォーラムまでの間、真剣に受けとめられることはなかった。2003年に、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の10か国の構成国が自由貿易協定の交渉を開始し、同協定は2008年に発効した。

日本の自由貿易に向けた大攻勢は、2013年に公式に参加した環太平洋経済連携協定(TPP)とともに始まった。日本と米国および他の太平洋諸国とを結びつけて、TPPは全世界の生産高のほぼ40パーセントの割合に、そして世界規模の貿易の優に4分の1の割合に及んだものと思われる。しかしながら、2017年1月の米国の離脱に伴い、この協定の行く末には疑問が投げかけられている。安倍首相は、政治的資本を授けられたこの協定を再交渉することをひどく嫌ってきた。その政治的資本は、農業分野の圧力団体の抵抗にもかかわらずTPP議案を可決させるために同首相が費やしたものだった。日本にとってTPPは、強化された貿易や投資、そして共通規制の計画の採用に基づいた広大な利益共同体から見れば、依然として芽生えの状態のままだ。

中国は2010年にASEANとのFTAに署名し、また1兆ドルの相互貿易合計額と1500億ドルの投資を2020年までに実現させるという目標を持って2015年に同協定を更新することで、ここ10年にわたって貿易面で日本に追いつこうと努めてきた。より意義深いことに、中国はASEAN加盟国10か国および6つの対話国(中国、日本、韓国、インド、オーストラリア、およびニュージーランド)を連携させることを目指した2011年のASEANの構想、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を採択した。世界規模の生産高のほぼ40パーセントを占めるとともに、35億近くの人々を結びつけることで、RCEPはますますTPPに代わる中国の選択肢として見られるようになった。日本とオーストラリアがRCEPに関する最終合意を特に遅らせようと努めている一方で、中国政府は、トランプ政権のTPP離脱に加え、中国が今や世界経済のリーダーであるという広範囲にわたる印象によって大いなる後押しを受けた。日本政府はこのような意見を争うことに関して成功をほとんど見いだしておらず、今なお、中国優位の経済構想に代わる選択肢を提供しようとの取組みを続けている。そのような取組みの一つがRCEP交渉に携わり続けることであり、もう一つは、ADBがAIIBとともに特定のプロジェクトに共同で資金提供をすることである。日中が双方の団体で、そしてアジア諸国にその影響力を最大化しようと努める一方、日中間のこの種の協調的な競合は、地域の経済的な関係における標準になるかもしれない。

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