【ダボス会議:全文翻訳】ソロス:2022年ダボス世界経済フォーラムでの発言

By Mario Kabashima

ダボス2022が2022年5月22~26日にかけてスイスのダボスで開かれます。
今年のダボス会議は、過去30年間で最も重大な地政学的、地域経済的タイミングに、100年に一度と言うパンデミックを背景として開かれるとのこと。

こちらでは、ジョージ・ソロス氏のスピーチを全文日本語訳にしました。

当サイトでは、これまでもジョージ・ソロス氏のスピーチを翻訳しご紹介しています。

ジョージ・ソロス氏の予想は、これまでも非常に的確でした。
ロシアのウクライナ侵攻、中国、気候変動、EUについてなどについて語っています。

ぜひご覧ください。


《引用記事 ジョージ・ソロス 2022/05/24 》

2022年ダボス世界経済フォーラムでの発言


2022年5月24日にスイスのダボス会議


昨年のダボス会議以降、歴史の流れは劇的に変化しました。

ロシアがウクライナに侵攻しました。これはヨーロッパを震撼させました。欧州連合はこのようなことを防ぐために設立されました。最終的に戦闘が止んだとしても、状況が以前の状態に戻ることはないでしょう。

この侵略は第三次世界大戦の始まりだったかもしれないし、我々の文明は存続できないかもしれません。それが、今晩、私が取り上げるテーマです。

ウクライナへの侵攻は、晴天の霹靂というわけではありません。世界は、「開かれた社会(open society) と閉ざされた社会(closed society)という正反対の2つの統治システムの間で、ますます対立を深めているのです。その違いをできるだけ簡単に定義してみましょう。

「開かれた社会」では、国家の役割は個人の自由を守ることです。「閉ざされた社会」では、個人の役割は国家の支配者に仕えることです。

新型コロナウイルスのパンデミック や気候変動との闘い、核戦争の回避、国際ア機関の維持など、人類全体が抱える他の問題は、そうした闘いの後回しにされてきました。だからこそ、私たちの文明は存続できないかもしれないと言っているのです。

私は1980年代に政治的慈善活動に従事するようになりました。当時は世界の大部分が共産主義の支配下にありました。私は、弾圧に憤慨し、闘っている人々を支援したいと思いました。

ソ連が崩壊とともに、私は当時のソ連帝国に次々と財団を設立していきました。その努力は私が思っていたよりもうまくいきました。

あの頃はとてもエキサイティングな日々でした。また、1984年には、個人的な経済的成功の時期とも重なり、300万ドルだった年間の寄付金を、3年後には3億ドル以上に増やすことができました。

2001年の9/11テロ以降、流れは「開かれた社会」に逆行し始めました。抑圧的な政権が台頭し、「開かれた社会」は四面楚歌の状態にあります。今日、中国とロシアは「開かれた社会」にとって最大の脅威となっています。

私は、なぜそうなったのか、長い間考え続けてきました。その答えの一端は、デジタル技術、特に人工知能の急速な発展にありました。

理論的には、AIは政治的に中立であるべきです。つまり善にも悪にも使うことができます。しかし実際にはその効果は非対称です。AIは、抑圧的な政権を助け、「開かれた社会」を危険にさらすような統制の手段を生み出すことに特に長けています。COVID-19はまた、ウイルスに対処する上で非常に有用であるため、管理手段を正当化するのに役立ちました。

AIの急速な発展は、ソーシャルメディアやITプラットフォームの台頭と連動しています。これらのコングロマリットは世界経済を支配するようになりました。彼らは多国籍企業であり、その勢力は世界中に広がっています。

このような発展は広範囲な影響をもたらしました。それらは中国と米国の対立を激化させました。中国はITプラットフォームを国家の英雄に変えました。米国は個人の自由への影響を懸念し、より躊躇しています。

これらの態度の違いは、米国と中国が象徴する2つの異なる統治システム間の対立に新たな光を当てています。

習近平の中国は、歴史上どの国よりも積極的に国民を監視・管理するために個人情報を収集しています。こうした発展から恩恵を得るはずでしょう。しかし、今夜後に説明しますが、そうではありません。

最近の動きを見てみましょう。2月4日、北京冬季オリンピックの開会式で、ウラジーミル・プーチンと習近平は会談をしました。彼らは、両国間の協力には 「限界はない」 と発表する長い声明を発表しました。プーチン大統領は、ウクライナにおける 「特別軍事作戦」 を習主席に伝えましたが、実際にウクライナへの全面攻撃を念頭に置いたのかは不明です。米国と英国の軍事専門家は、確かに彼らの中国の相手国に何が準備されているかを話しました。習主席はこれを承認したが、プーチン大統領に冬季五輪が終わるまで待つよう要求しました。

習近平は、中国でオミクロンの変種が流行り始めたばかりだったのにもかかわらず、オリンピックを開催することを決定しました。主催者側は選手たちのために封じ込めようと懸命に努力し、オリンピックは無事に終わりました。

しかしオミクロンは、中国最大の都市であり商業の中心地である上海を皮切りに、そのコミュニティの中で猛威をふるいました。今は中国全土に広がっています。しかし、習主席は 「ゼロ・コロナ」 政策に固執しています。このため上海の人々は、自宅で自己隔離するかわりに、臨時の隔離センターに入ることを余儀なくされ、大きな苦難を強いられています。そのため、上海は反乱寸前まで追い込まれました。

多くの人はこの一見非合理的なアプローチに困惑していますが、私は皆さんに説明することができます。つまり習近平は後ろめたい秘密を隠しています。習近平は中国国民に、武漢の原型を想定したワクチンを接種し、新型にはほとんど効かないことを話していないのです。

習主席は、非常にデリケートな時期にいるため、潔白を主張することはできません。彼の二期目は2022年の秋に切れるが、彼は前代未聞の三期目に任命され、最終的には彼を終身支配者者になることを望んでいます。

彼は人生の野望を達成するためのプロセスを綿密に計画し、すべてはこの目標に従属させなければならないのです。

一方、プーチン大統領のいわゆる 「特殊軍事作戦」 は計画通りに展開されませんでした。彼は、自分の軍隊がウクライナのロシア語圏の人々に解放者として歓迎されることを期待していました。ロシアの兵士たちは勝利パレードのために彼らの制服を携えていました。しかし、実際はそうなりませんでした。

ウクライナは予想以上に抵抗し、侵攻してきたロシア軍に大損害を与えました。軍隊は装備が悪く、指揮系統も悪く、兵士の士気は低下していました。米国と欧州連合 (EU) はウクライナの支援に結集し、ウクライナに武器を供給しました。彼らの助けを借りて、ウクライナはキーウのための戦いではるかに大規模なロシア軍を破ることができました。

プーチン大統領は敗北を受け入れることができず、計画を変更しました。彼は(チェチェンの首都)グロズヌイの包囲で残忍なことで有名なウラジーミル・シャマノフ将軍に指揮をとらせ、5月9日の戦勝記念日までに何らかの成果を収めるよう彼に命じました。

しかし、プーチン大統領には祝福するものがほとんどありませんでした。シャマノフは、かつて40万人の住民が住んでいた港町マリウポリに力を注ぎました。彼がグロズヌイにしたように、瓦礫山と化しましたが、この包囲で何千もの民間人の命が奪われましたが、ウクライナの防衛軍は82日間持ちこたえました。

さらに、キーウからの急速な撤退は、プーチン軍がキーウ郊外のブチャで民間人に対して犯した残虐行為を明らかにしました。それらは十分に記録化されており、テレビでその写真を見た人々を激怒させています。その中にはプーチンの 「特殊軍事作戦」 について何も知らされていなかったロシア国民は含まれていなません。

ウクライナへの侵攻は現在、ウクライナ軍にとってはるかに困難な新たな局面を迎えています。彼らは、ロシア軍の数的優位性を克服することがより困難な開けた地形で戦わなければなりません。

ウクライナは、ロシア領土に反撃し、侵入するなど、最善を尽くしています。これには、ロシア国民に実際に起こっていることを理解させるという付加的な利点があります。

また、米国は議会に前例のない400億ドルの軍事・金融支援をウクライナに配分させることによって、ロシアとウクライナ間の財政格差を縮小に最善を尽くしてきました。結果は予測できないが、ウクライナに勝機があることは間違いありません。

最近、ヨーロッパの指導者たちはさらに踏み込んだことをしました。彼らは、プーチンがしていることが二度と起こらないように、ウクライナ侵攻を機に、より大きな欧州統合を推進しようと考えました。

イタリアの民主同盟 (Partito Democratico) の党首エンリコ・レッタ (Enrico Letta) は、ヨーロッパの一部連邦化計画を提案しました。連邦部門は主要な政策分野をカバーします。

連邦制の中核では、どの加盟国も拒否権を持ちません。より広域な連合では、加盟国は 「有志連合」 に加わるか、単に拒否権を保持するだけでよいのです。イタリアのマリオ・ドラギ(Mario Dragh)首相はレッタの計画を支持しました。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、親欧州の姿勢を大きく広げ、地理的な拡大、それに備えるためのEUの必要性を主張しました。ウクライナだけでなく、モルドバと西バルカン諸国も欧州連合への加盟資格を得るべきです。細部を詰めるには長い時間がかかるでしょうが、欧州は正しい方向に進んでいるようです。歴史上かつてないほどのスピード、団結力、活力でウクライナ侵攻に対応ししました。当初は躊躇したいたが、ウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長も親欧州の強い発言をするようになりました。

しかし、欧州の化石燃料のロシアへの依存は、メルケル前首相の重商主義的な政策が大きく影響しています。メルケル前首相は、ロシアとガスの特別供給契約を結んでおり、中国をドイツ最大の輸出市場にしていました。これによりドイツは欧州で最もパフォーマンスの良い経済力を持つようになりましたが、今は大きな代償を払わなければなりません。ドイツ経済は方向転換が必要です。それには長い時間がかかるでしょう。

オラフ・ショルツ首相は、メルケルの政策を継続すると約束して首相に選ばれました。しかし、さまざまな出来事によって、彼はこの約束を断念せざるを得なくなりました。社会民主党の神聖な伝統と決別しなければならなかったのだから、それは簡単なことではありませんでした。

しかし、欧州の統一を維持することになると、ショルツ首相はいつも最終的には正しいことをしているように見えます。彼はノードストリーム2を放棄し、防衛に1000億ユーロをコミットし、長いタブ―を破ってウクライナに武器を提供しました。それがロシアのウクライナ侵攻に対する西側民主主義諸国の対応です。

ウラジーミル・プーチンと習近平の2人の独裁者は何を示さなければならないのか。彼らは限界のない同盟で結ばれています。共通点も多いです。彼らは脅迫によって支配し、その結果、気が遠くなるような間違いを犯すのです。解放者としてウクライナで歓迎されると期待されていたプーチン、習近平は、おそらく持続不可なゼロコロナ政策に固執しています。

プーチン大統領はウクライナ侵攻時に大きな過ちを犯したと認識していたようで、今は停戦交渉に向けた地ならしをしています。しかし、彼は信用できないので停戦は達成できません。プーチンは和平交渉を始めなければならないが、それは辞任に等しいので、決してやらないでしょう。

状況は混乱を極めています。侵略に反対していた軍事専門家は、ロシアのテレビに出演して、状況がいかに悪いかを国民に知らせることが許されました。後にプーチンに忠誠を誓いました。興味深いことに、習近平はプーチンを支持し続けていますが、もはや制限なしではありません。

これは、習近平がなぜ失敗する運命にあるのかという説明になります。プーチン大統領にウクライナへの攻撃を許可しましたが、失敗に終わったことは中国の最大の利益になりませんでした。中国はロシアとの同盟における上級パートナーであるべきですが、習近平の自己主張のなさはプーチンがその地位を奪うことを可能にしました。しかし、習主席の最大の過ちは、 「ゼロコロナ」 政策をさらに推し進めることでした。

ロックダウンは悲惨な結果をもたらしました。中国経済を急落させました。3月に始まり、習主席が軌道修正するまで勢いを増し続けるでしょう。習主席はミスを認めることができないので、決して逆転することはないでしょう。不動産危機に加え、世界経済にも大きな影響を及ぼすでしょう。サプライチェーンの崩壊で、世界的なインフレは世界的な不況に転じる可能性があります。

しかし、プーチン大統領が弱体化すればするほど、予測不可能になります。EU加盟国はプレッシャーを感じています。彼らは、プーチンが代替エネルギー源を開発するまで待つことはなく、本当に痛い目にあっているときにガスの蛇口を閉めるかもしれないことを理解しています。

先週発表された「RePowerEu」プログラムは、こうした懸念を反映しています。オラフ・ショルツ首相は、前任者のアンゲラ・メルケルがロシアと結んだ特別な取り決めのために特に不安を感じているようです。イタリアのガス依存度はドイツとほぼ同じだが、マリオ・ドラギ首相の方が勇気があります。欧州の結束は厳しい試練に直面するだろうが、結束を維持するなら、欧州のエネルギー安全保障と気候に関するリーダーシップを強化することができます。

中国はどうでしょうか。習近平には敵が多いです。彼は監視と弾圧のすべての手段を自身の手に握っているので、誰も彼を直接攻撃しようとはしないが、共産党の中に不和があることはよく知られています。しかし、共産党内の不一致は周知の事実であり、それが一般人が読めるような記事で表現されるほど、鋭くなっています。

一般の予想に反して、習近平は、彼が犯した過ちのために、待望の3期目を得られないかもしれません。しかし、たとえ彼がそうなったとしても、政治局は次の政治局のメンバーを選ぶ自由を習近平に与えないかもしれません。そうなれば、習近平の権力と影響力を大幅に減らし、彼が生涯支配者になる可能性を低くなるでしょう。

戦争が激化している一方で、気候変動との戦いは二の次にならざるを得ません。しかし専門家によると私たちは既に大きく遅れをとっており、気候変動は取り返しのつかないものになりつつあります。それは我々の文明の終焉を意味するかもしれません。

私はこの見通しは特に恐ろしいと思います。私たちの多くは、人間はいつかは死ぬものだという考えを受け入れているが、私たちの文明は存続することを当然のことと思っています。

ですから、戦争を早期に終結させるために、すべての資源を動員しなければならりません。我々の文明を守る最善でおそらく唯一の方法は、プーチンをできるだけ早く打倒することです。それが肝心な点です。

ありがとうございました。

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 文・翻訳)

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