【ウクライナ】ロシアとウクライナの戦争についてどのように宗教が関係しているか?

By Mariko Kabashima

現在、いまだロシアとウクライナが硬直している状態です。

ロシアとウクライナの問題は極東である日本人にとっては非常にわかりにくいものですが、その中でも、特に宗教の問題はあまり馴染みがないのではないでしょうか。

私は、個人的にソ連時代に極秘の宣教を行っていた今は亡きロシア系米国人の神父様をよく知っています。この神父様から、カトリックとして正教会のアプローチを学んだことがあります。ちなみにこの神父様は足が悪かったのですが、それはソ連国内での宣教で拷問を受けたことによるものと聞いたことがあります。

なのでこの記事は、私にとっても色々とピントくる部分がありました。

そういえば、現在のウクライナの大統領ウラジーミル・ゼリンスキー大統領は、ユダヤ人だったんですね。
このことから、強硬なゼレンスキーの西側諸国へのアプローチは、同大統領の民族的なものも多少影響したのではないか?と思いました。

ここにご紹介するマイアミヘラルドのこの記事は、キエフのAP通信社の記者ユラス・カルマナウ氏とュージャージー州プリンストンのルイス・アンドレス・ヘナオ氏により執筆されたものです。


《引用記事 マイアミ ヘラルド 2022/02/27 》

ロシアとウクライナの戦争と宗教との関係は?

ウクライナのロシアとの複雑な政治史は、宗教的状況にかかわっている。ウクライナの多数派である正教徒は、キエフを拠点とする独立志向のグループ、ウクライナ正教とモスクワ正教に忠実なグループに分かれている。

しかし、ロシアとウクライナの両方で宗教的ナショナリズムを訴えることがあっても、宗教的忠誠心はウクライナの生存競争のなかでの政治的忠誠心を反映していたものではない。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、モスクワを中心とする正教会を防衛する目的もあってウクライナへの侵攻を正当化したが、ウクライナ正教会の両派閥の指導者は、ウクライナの重要な少数派カトリック教徒同様、ロシアの侵攻を激しく非難している。

「神への愛、ウクライナへの愛、隣人への愛をもって、われわれは悪と戦い、勝利を得る」 とキエフのウクライナ正教会の長であるエピファニー大司教は誓った。

モスクワ正教会総主教の下にあるが、広範な自治権を持つウクライナ正教会のオヌフリ総主教は、 「お互いの口論や誤解を忘れ、…神と私たちの祖国への愛をもって団結しましょう」 と述べた。

そのような一見統一されたようにみえる戦線さえ複雑である。木曜日にオヌフリ総主教のメッセージを投稿した翌日、彼の教会のウェブサイトは、その教会と信者が攻撃されていると主張するレポートを公開し始め、一つの攻撃をライバル教会の代表者のせいだとした。

ウクライナ正教会がどのようにして、どちらの側につくかで苦悩しているなか、ウクライナの正教会の組織の分裂は近年、世界中に波及している。米国の正教会の中には、戦争が分裂を悪化させることを恐れながらも、このような紛争を脇に置いて、戦争を終結させるために団結できることを望む者もいる。

『ウクライナの宗教的状況はどうなっているのか?』

調査によると、ウクライナの人口の大多数はウクライナ正教徒であり、正教徒と同様のビザンチン式典礼で礼拝し、ローマ法王に忠実なウクライナカトリック教徒はかなり少数派であると推定される。その他、人口に占めるプロテスタント、ユダヤ教徒、イスラム教徒の割合は少ない。

ウクライナとロシアは、宗教的にも政治的にも共通の歴史によって分断されている。

彼らの祖先は中世のキエフ・ルス王国で、10世紀にウラジーミル王子(ウクライナ語でヴォロディミール)が異教を拒否し、クリミアで洗礼を受け、正教を公式の宗教として採用したのが始まりである。

2014年、プーチンはその歴史を引用して、ロシアにとって「神聖」な土地であるクリミアの掌握を正当化した。

プーチンはロシアこそがルス王国の真の継承者だと言うが、ウクライナ人は自分たちの近代国家には明確な血統があり、モスクワが勢力として台頭したのは何世紀も後のことだと言う。

その緊張関係は正教会との関係でも続いている。

正教会は歴史的に国家単位で組織され、総主教は共通の信仰で結ばれながら、それぞれの領土で自治権を持っている。コンスタンティノープル総主教は対等な立場にあるが、カトリックのローマ法王とは異なり、普遍的な管轄権を持っているわけではない。

今のウクライナの正教会は、誰が統治しているのか?

それは、300年以上前の出来事をどう解釈するかによる。

ロシアが勢力を伸ばし、オスマントルコの支配下でコンスタンティノープル教会が弱体化したため、1686年にコンスタンティノープル総主教庁はモスクワの総主教にキエフの最高司教を叙任する権限を委任したのである。

ロシア正教会は、それは永久譲渡であったいっているが、コンスタンティノープル総主教庁は、それは一時的なものだと言っている。

過去1世紀の間、独立志向の強いウクライナ正教会は、2019年に、現在のコンスタンティノープル総主教庁のバルソロミュー総主教がウクライナ正教会をモスクワ総主教から独立したと認めるまで、正式な承認を欠いた別々の教会を形成してきた。この動きに対して、モスクワ総主教は違法だと猛烈に抗議していたのである。

ウクライナの状況は、現場ではいっそう不可解だった。

正確な統計を取るのは難しいが、多くの修道院と教区はモスクワの総主教の下に残っている、と「Holy Rus:新ロシアにおける正教会の復活」の著者であるジョン・バージェスは述べた。村レベルでは、多くの人々は自分たちの教区の配置についてさえ知らないかもしれない、とバージェス氏は言う。

この分裂は両国の政治的分裂を反映しているのだろうか。

はい、複雑ですが。

ウクライナの前大統領ペトロ・ポロシェンコは、 「我々の教会の独立は、我々の親ヨーロッパおよび親ウクライナ政策の一部である」 と、2018で述べた。

しかし、ユダヤ人であるウラジーミル・ゼリンスキー現大統領は、宗教的ナショナリズムに重きを置いてはいない。土曜日には、正教会の指導者だけでなく、カトリック、イスラム教、ユダヤ教のトップの代表者とも話をしたという。
「すべての指導者は、ウクライナのために命を捧げた擁護者の霊魂と、我々の団結と勝利のために祈る。これははとても重要なことです」と述べた。

プーチンはこの問題を利用しようとしている。

2月21日の演説でプーチンは、歪曲した歴史物語でウクライナへの差し迫った侵攻を正当化しようと、キエフがモスクワ総主教座のウクライナ正教会の「破壊」を準備していると、証拠もなしに主張したのである。

しかし、戦争を兄弟を殺害した聖書の登場人物「カインの罪」に例えたオヌフリ大司教の反応は、モスクワ系の教会さえウクライナの民族的アイデンティティを強く意識していることを表している。

それに比べ、モスクワ総主教のキリル氏は平和を呼びかける一方で、侵略の責任を問わなかった。

モスクワ総主教庁の下にあるウクライナ正教会は、長い間、広範な自治権を持っていた。その上、ウクライナ的な性格をますます強めている。

米国正教会センサスのナショナルコーディネーターであるアレクセイ・クリンダッチ氏は、「どの教会に所属しているかに関係なく・・・独立したウクライナで育った沢山の新しい聖職者がいる」と述べた。旧ソ連で育ったクリンダッチ氏は、「彼らの政治的嗜好は、所属する小教区の正式な管区とは必ずしも相関していない」と述べた。

カトリック教徒はどこにいるのか?

ウクライナのカトリックは、主にウクライナ西部を拠点としている。

1596年、当時カトリックが支配していたポーランド・リトアニア連邦の支配下にあった正教会のウクライナ人が、ビザンチン式典礼や既婚司祭など独特の慣習を保持することを認めたローマ教皇の権威に服従することで誕生した。

正教会の指導者たちは、このような協定はカトリックと外国が自分たちの群れを侵略しているとして、長い間非難を続けてきた。

ウクライナのカトリック教徒は、皇帝や共産主義者の下で迫害に抵抗してきた歴史が特に強い。

「ロシアがウクライナを支配するたびに、(ウクライナ・カトリック教会が)破壊されている」と、フィラデルフィアのウクライナ・カトリック教会区のコミュニケーション責任者、マリアナ・カラピンカは言う。

ウクライナのカトリック教徒はソビエトによって厳しく弾圧され、何人かの指導者が殉教した。多くのウクライナ人カトリック教徒は地下で礼拝を続け、共産主義が終わってから教会は強く立ち直った。

そのような歴史を持つウクライナのカトリックは、モスクワによる再度の支配に抵抗する強い理由があるのだろう。しかし、彼らは一人ではないとカラピンカ氏は言う。「ソビエトに迫害されたのはウクライナのカトリック教徒だけではありません。「多くの団体が抵抗する理由を持っているのです 」と。

最近のローマ教皇は、ウクライナや他の東方正教会のカトリック教徒の権利を擁護しながらも、ロシア正教会との関係を和らげようとしてきた。

しかし、ロシアの侵攻後、フランシスコ法王は金曜日にロシア大使館を訪れ、個人的に「戦争への懸念を表明」したとバチカンは述べている。

正教会の分裂はウクライナを超えてどのように影響をうけたのだろうか。

ロシア正教会は2018年、コンスタンティノープル総主教がウクライナの独立教会を認める動きを見せたため、「聖体拝領の交わりを断つ」ことを決定した。つまり、モスクワ系とコンスタンチノープル系の教会の信者は、相手の教会で聖体拝領ができない。

この争いはアフリカの東方正教会にも広がっており、アフリカの総主教がウクライナ教会の独立を認めた後、ロシア正教会は別の教会を認めた。

しかし、他の多くの教会は争いを避けようとしてきた。複数の正教会が管轄権を持つ米国では、ほとんどの団体が今でも互いに協力し、礼拝をおこなっている。

この戦争は米国の教会間の団結のポイントを提供するかもしれないが、関係をさらに試されるかもしれない、とロシアのルーツはあるが現在はモスクワから独立しているアメリカの正教会のアレクサンダー・レンテル大師は述べた。

「世界の正教会で起こったこの分裂は、正教会が処理するのが難しい出来事だった」 と彼は言った。「今は、この戦争のために、より困難になってきている」と述べた。

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 文・翻訳)

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