【米国】スティーブ・バノンの起訴は、トランプの議事妨害戦術にとって何を意味するか?

連邦大陪審は金曜日、下院1月6日の選択委員会が出した召喚状に従わなかったとして、トランプ大統領の元アドバイザーであるスティーブン・バノン氏を2件の議会侮辱罪で起訴しました。

なぜそれが重要かというと、この起訴は、議会の暴動に関する委員会の調査から生まれた最初の起訴であり、司法省が1983年以来、議会侮辱罪で誰かを起訴したのは初めてだからです。

バノンは罰金と懲役刑の可能性があります。司法省によれば、議会侮辱罪は1件につき最低30日、最高1年の懲役刑が科せられます。
早速ですが、バノン氏の弁護士は10月、トランプ前大統領が大統領特権を主張していることを理由に、協力しないことをパネルに伝えました。

民主党と多くの法律専門家は、バノンは2017年にトランプに解雇されており、1月6日の国会議事堂襲撃事件の際には私人であったことから、特権の主張は怪しいと批判しました。

委員会は、1月5日に公にした発言が “翌日に起こる極端な出来事について何らかの予見があったことを示唆している “と報告書の中で主張し、バノンを侮辱するために素早く動いた。

下院は10月21日、229対202でバノン氏を侮辱罪で拘束することを決議しました。共和党員9名が決議に賛成しました。

1月6日の特別委員会の委員長であるベニー・G・トンプソン(民主党)と副委員長のリズ・チェイニー(共和党)は、声明の中で次のように述べています。

「スティーブ・バノンの起訴は、特別委員会を無視したり、我々の調査を妨害しようと考えている者に明確なメッセージを送るべきです」

「我々は必要な情報を得るために、自由に使える手段を使うことを躊躇しません」

民主党は、司法省がバノンを起訴するのに数ヶ月かかることで捜査が滞り、他のトランプ関係者が協力しない動機になるのではないかと懸念していました。

起訴のニュースは、予定されていた証言への出頭を拒否したマーク・メドウズ前ホワイトハウス首席補佐官を侮辱罪で拘束すると委員会が脅したのと同じ日のことだった。
委員会は、他にも数十人の元トランプ大統領補佐官を召喚しています。バノンに対する容疑を考慮して、これからどれだけの人が協力を選択するかは不明です。

金曜日の夜、報道は広く大きく取り上げられましたが、ほぼバランスのとれたものとなりました。

左派系の報道機関の中には、国会議事堂での暴動を “insurrection*”(訳注*:暴動・内乱・謀反)と呼ぶものもありました。

右派系の報道機関は、左派系の報道機関よりもメドウズ氏の召喚状について記事の後半で言及する傾向がありました。

こちらでは、極めて左系のVoxの記事をご紹介します。

国務省のバノン起訴のについての文書は全文翻訳しましたので、こちらからご覧になれます。


《引用 Vox 2021/11/13 》

スティーブ・バノンの起訴は、トランプの議事妨害にとって何を意味するか

スティーブ・バノンの起訴は、司法省が議会の召喚権を行使する意思があることを示している。

金曜日、ドナルド・トランプ大統領の元最高顧問であるスティーブ・バノンが議会侮辱罪で起訴され、1月6日の首都襲撃事件に関連した潜在的に不利な情報開示からトランプ大統領が自らを守る力が衰えている可能性を示唆している。

今回の起訴は、この種の起訴としては約40年ぶりのことであり、これまでに召喚状を受け取ったバノンを含む35人の人物・団体に議会が証言を求めていく上で、今後の重要な兆しとなる可能性がある。

9月に他の多数のトランプ元幹部とともに召喚されたバノンは、2017年に政権を去っているが、1月6日の攻撃に至るまでのバノンのトランプとの会話に関する報道や、バノン自身のポッドキャスト「War Room」での発言などから、彼の証言が委員会にとって大きな関心事になるだろう。

CNNによると、テロの前日の1月5日、バノンは自身のポッドキャストのリスナーに「明日は大混乱になる」と語り、12月には、ボブ・ウッドワードとロバート・コスタが近著『Peril』で報じたところによると、バノンはトランプに「ベビーベッドで殺すつもりだ。バイデン大統領をベビーベッドの中で殺す。」と語ったという。

金曜日に起訴されたにもかかわらず、懲役刑の見込みでさえバノンに証言を強要するかどうかは不明である。ワシントン・ポストのフィリップ・バンプが金曜日に次のように書いている。
「起訴されたことは(バノンにとって)誇りであり、自分の番組で大々的に誇示してきたこの世界を変え真の戦士であることの証明になるだろう」。

しかし、バノン自身が証言しようとしているかどうかにかかわらず、召喚状を無視した過去のトランプ政権の高官とは違って、証言しないことで何らかの結果に直面する可能性はかなり高いようだ。司法省によると、有罪判決が下された場合、2つの侮辱罪のそれぞれについて「最低30日、最高1年の禁固刑、および100ドルから1,000ドルの罰金」に直面するという。

そして、司法省が本物の法的な力をもって議会の情報要求を後押しすることで、召喚状の脅しは証言への強力なインセンティブとなり、調査を妨害しようとするトランプ大統領に対抗する議会の重要な手段となる。

バノン氏の起訴は、トランプ大統領の妨害戦術が限界に達しつつあることを示唆する2つの動きのうちの1つにすぎない。もう1つ今週のはじめに、DC地方裁判所の判事が、委員会は攻撃に関連したトランプ・ホワイトハウスから文書を受け取るべきだと判決を下したものだ。

当面は、一時的な行政差し止め命令により、委員会は文書を受け取るまで少なくともしばらく待たなければならず、DC巡回控訴裁判所での弁論は11月30日に予定されている。しかし専門家によると、この訴訟は連邦裁判所の基準では迅速に進んでおり、時間切れを狙うトランプ氏の努力に打撃を与えているという。

具体的には、ニューヨーク・タイムズ紙によると、DC地裁のターニャ・チュトカン判事の判決は、トランプが提訴してからわずか23日後に下された。これに対して、2019年に行われた、トランプ大統領(当時)がロシア捜査妨害をしようとした疑惑に関して、元ホワイトハウス顧問のドン・マッガーン氏に証言を強要するために、地裁の判決に3カ月以上かかっている。

チュトカン氏は火曜日の判決で、トランプが主張する大統領特権は、議会に文書を差し控えるのに十分ではないと結論づけ、「公共の利益は、1月6日につながった出来事を調査する立法府と行政府の意思の結合を、差し止めるのではなく許可することにある」と記した。

「大統領は王ではなく、原告(トランプ氏)は大統領ではない」とチュトカン氏は述べた。

この事件と、現在、強権的なトランプ元政権幹部に漂う起訴の脅威との間には、少なくとも2022年の中間選挙までは、トランプと共和党が政権から排除されていることから、トランプのお気に入りの戦術である議事妨害が、これまでのように彼にとって有効な盾にならない可能性が現実にある。


議事妨害(stonewalling)はトランプの古典的な戦術であり、以前にも有効だったものである

トランプは大統領就任以来、遅延戦術に重きを置いていたが、彼が今同じことをしているのには、それなりの理由がある。それは、以前はうまくいっていたからだ。

過去には、候補者として、あるいは自由に権力を行使できる立場にあっても、トランプ大統領は自らの恥ずかしい、あるいは罪に問われる可能性のある情報を明らかにする数多くの取り組みを止めたり、妨害したり、回避させたりしてきた。

トランプ氏は大統領就任前から、IRSの監査を理由に納税申告書の公開を何度も阻止してきたが、最終的には大統領退任後に連邦最高裁判所がトランプ氏の納税申告書を、トランプ氏の個人的およびビジネス上の財務に関する調査を行っているニューヨーク市の地方検事局に提出してもよいとの判決を下すまで、公開を見送らせることに成功した。

召喚に応じないことを一律に拒否するなど、同様の戦術はトランプ氏の在任中にも有効だった。2019年には政府機関や証人に議会の召喚に応じないよう指示したことで、権力乱用に加えて議会妨害の罪で弾劾されたものの、最終的には上院で無罪判決を受けている。

CNNのメーガン・バスケスが昨年指摘したように、トランプの「ノンコンプライアンスの習慣は、ある意味で、効果的な戦略である」。
つまり、最初の弾劾が始まる前でさえ、トランプの戦略は、2016年の米大統領選挙へのロシアの干渉が疑われる件について、ミュラーの調査を妨害することに成功した。バスケス氏によると、早急に報告書を出さなければならないというプレッシャーの中で、特別検察官のロバート・ミュラーは、トランプ大統領との直接インタビューを拒否したという。これは、法的な問題に発展して捜査が可能な限り滞ることを知っていたからである。

しかし、トランプの戦術は、共和党が議会の少なくとも1つの議会を支配していた当時は度々成功していたが、トランプとその党が権力を失った今、1月6日の委員会の進行中の調査を阻止するために、彼ができることは限られている。


議会には無駄にする時間はないが、トランプは隠すことがたくさんあるかもしれない

バノンの起訴は、1月6日委員会が調査を真剣に進めていることを示すものでもある。そしてそれにはもっともな理由がある。

他にも、委員会は潜在的に時間的な制約に直面している。2022年の中間選挙が間近に迫っており、共和党が下院の主導権を取り戻すのに有利な状況にあるため、委員会が調査を行う時間は、共和党の下院多数派によって閉鎖されてしまう危険性がある。

これは、トランプの口止め戦術が成功すれば、さらに強力になる可能性があることを意味し、委員会の仕事にリスクが高まるということだ。

特に、2020年の大統領選挙の後、そして1月6日の暴動の前に、トランプと彼の仲間の行動について多くがすでに知られている一方で、トランプの顧問達は、証言することを強制された場合、まだ重要な直接の詳細を提供することができる。

特にバノンは、1月6日の攻撃につながった事件の主要な扇動者であったことを報告書は示唆している。
2020年の大統領選結果を覆そうとトランプ大統領が企てた可能性のあるメモを書いたジョン・イーストマン弁護士も今週、委員会から召喚された。

これまでのところ、トランプ大統領の側近の多くは召喚状に応じておらず、金曜日には、トランプ政権の元首席補佐官マーク・メドウズは、証言の期限を過ぎてしまい、議会侮辱罪で自らが送検される可能性もある。

しかし、今週、いくつかの分野で進展があったように、トランプ氏が最大限の努力をして妨害しても、彼が期待したほどにはプロセスを遅らせることはできなかった。どう見ても、1月6日の国会議事堂暴動を調査する委員会は権力を行使して徹底した調査を行うことを望んいる。そうであれば、1月6日に何が起こったのか、そして2024年の共和党大統領候補の有力候補であるトランプがどのように関与していたのか、新たな詳細を明らかにするのに十分な時間があるかもしれない。

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 文・翻訳)

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