ドイツ:グローバリゼーションや移民の恐怖でドイツ人の「ハイマット」(我が家へ)という概念が流行

ドイツは、移民の受け入れにおいて、1973年のオイルショックの時に一時制限したことがあったものの、1950年代後半からずっと受け入れてきました。メルケル首相は、2010年に「多文化主義は完全に失敗した」と発言しましたが、今では積極的に移民を受け入れています。移民が多くればなるほど、自分のアイデンティティを確認するためなのか、現在、ドイツで「ハイマット(我が家へ)」という概念が復活し、流行しているそうです。ドイツに住んでいてもドイツ人がよそ者だと感じてしまう感覚の危機感。グローバル化が進めば進むほど、「我が家へ」という感覚を求めるというのは皮肉なものです。このことについてのベルリン発ロイターの記事を紹介いたします。
post 2017/10/10 10:48  ♣update 2017/10/10 13:00 ♣update 2017/10/10 15:14

Reuters   By Andrea Shalal  2017/10/06

[ベルリン 6日 ロイター]

ほとんどのドイツ人は、ナチスの歴史によりもたらされたナショナリズムの匂いがするものに警戒するとはいえ、グローバリゼーションに対する不安が高まっていることから、「ハイマット」(我が家へ)という概念が復活している。

フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)大統領は、火曜日のドイツ再統一27回目の記念日を際立たせるのに反響を引き起こすような言葉を18回も用い、2015年以降100万人以上もの移住を受け入れたのち、国が移民についての率直な協議を必要としたと述べた。

「同盟90/緑の党」の党首ジェム・オズデミル(Cem Ozdemir)は、9月24日の国民投票で投票の約13%を占めるべく民族自決主義者と反移民のテーマを強調した政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に由来するその言葉を人々に正しく認識させるため、シュタインマイヤーに拍手喝采を送った。

ドイツの戦後史にはイタリア、トルコ、ギリシャ、および東ヨーロッパからの移住に関することが含まれるが、その歴史は自身を移民の国とみなすことに抵抗したものであった。政治難民と経済移民を区別するための適切な移民法が求めれている真っ只中にいる。今、その考え方は変遷している。

それに加えて、ドイツ人であるとはどういうことか、といった新たな魂の探求が始まり、同様に、ダーンドル(伝統的なアルプスのドレス)や鳩時計や地元の食べ物、それに北部のジルト島のような地域を舞台にしたミステリー小説などに対する需要が再び高まっている。

ベルリンの政治家リエド・サリー(Raed Saleh)は、自身が5歳のときにパレスチナ人の両親がイスラエル占領地区であるヨルダン川西岸からドイツに移住したが、その彼がベルリンのウェディング地区の高等学校で講演した際には、自己のアイデンティティとの闘いを思い起こしたと述べた。そこでは学生の90%が移民家族の血筋を引いているからである。

「本当に才能があり社会問題に積極的に関心を抱いている人たちに出会った。私は彼ら(そしてドイツのすべての子どもたちも)に、自分はここにいると感じてほしい」とサリーは言った。「私は長い間自分自身にそのような気持ちを持っていなかった。」

サリーは、今年初めに出版されたその著書“German Me: The New Guiding Culture”において、ドイツとその8200万人の人々に対して、より包括的な「共通のビジョン」を持つことを呼びかけた。

彼の著書は、ドイツのアイデンティティと祖国の概念を探求する、過去1年間に出版された十数点の本のうちの1つである。

「ハイマット」に特化したDer Spiegel誌の特別号の制作を監督したスザンナ・ヴァインガルデン(Susanne Weingarten)が述べたところによれば、右派およびリベラルの若い「流行に敏感な人」の双方から、デジタル化やグローバリゼーションや移民問題の危機などによって深刻化した、ドイツにおけるある種の不安定感に関心が向けられているとのことである。

「ドイツでは、それは国家社会主義によってこき下ろされた概念だ」と、彼女はナチズムに言及しつつ述べた。「『ハイマット』それ自体の意味を明確にするのは難しい試みだ。それは、ホロコーストの50~60年後に生まれた若い世代だけが無意識に行動できることだ。」

今年の春、その著書“Heimat:A Phantom Pain(ハイマット;幻肢痛)”を発表したクリスチャン・シュレール(Christian Schuele)が述べるところによると、極右への気運や支持は、移民の数が急増するにつれ、とりわけ街が荒廃し、地元の伝統がなくなってしまった人々にとっての国民としてのアイデンティティの喪失感によって駆り立てられるとのことである。

彼が言うには、現在の議論は長いこと期限切れ状態になっており、選挙に目を向けてみると、以前は共産主義だった東側諸国、その他例えばロシアやトルコなどを背景とする者のまとまりが不十分であったため、社会の深刻な亀裂が明らかになったとのことだ。

「それはまさしく人々の心を動かすテーマだ」とベルリンにあるドースマン(Dussmann)書店の広報担当者、ビアンカ・クロエム(Bianca Kroemer)は述べた。同店ではこの問題に焦点を当てた一画を設けている。

 デュッセルドルフに本社を置くドロステ出版社(Droste Verlag)の業務執行取締役ユルゲン・クロン(Juergen Kron)は、「『ハイマット』が流行しています。」と賛同した。同社は、出版市場が全体的に低下しているにもかかわらず、地域タイトルに焦点を当てて売上増を維持し続けてきた。

2006年夏の間、すなわち、長きに渡って他ならぬ極右を連想させてきた旗を振ることでサッカー・ワールド・カップのホスト国を務めることをドイツ人が大いに楽しんでいた時、国民のプライドはナチ時代以降で初めて満たされることとなった。

近年、「地元商品を買う」運動は、あらゆる種類の地域の本に対する関心を刺激したと、クロンは述べた。

来週のフランクフルト・ブックフェアでは、母国のテーマに関連する約10件のイベントが予定されている。

自身が生まれる2年前に両親が韓国からドイツに渡ってきたという、ハンブルクの33歳の音楽教師ドロティア・ズー(Dorothea Suh)は、ドイツのアイデンティティに関する議論の進展が遅すぎると懸念し、また結局は他の党がAfDの課題を取り込むことだろうと懸念している。

ズーが心痛めた最近の経験として、「外国人よ出て行け」という隣人の叫び声もそのひとつであるが、ズーは前向きに移住を計画している。

「ドイツは私の家です。私はこの地を後にしたくないのですが、母国であるのに自分をよそ者のように感じ始めています。」「私はあまりにも長く待ちたくはありません。それで、気がついたら閉ざされたドアに向き合っていたのです。」とズーは述べた。
(翻訳 K・M)

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