【トヨタの海外戦略】世界から注目を集める「自動車テクノロジー×中国市場戦略」に迫る

提供元: RSコンポーネンツ社


進むAutomotive AI 市場のキープレイヤーと最新動向

Google, IBM, Algolia, The A.I. Company, Zoox…という顔ぶれを見て、これらの企業が参入する業界がすぐに思い当たる方はどれくらいいるだろうか。AI開発の常連がずらりと並ぶところを見ると、話題の量子コンピューティング開発か、はたまた新しい機械学習アルゴリズムの開発に関わるIT業界だろうと思う方が多いのではないだろうか。

もしシリコンバレーに本拠地を置くスタートアップZoox(ズークス)を知っていれば、これらが「AIによる自動運転車両の開発」の貢献に尽力する企業であるとピンときたかもしれない。実際にAutomotive Artificial Intelligence (AI) Market 2019-2024のレポートでは上記企業が自動運転AI市場をリードするキープレイヤーになると予測している。

省電力高機能メモリ*の搭載は「コネクテッドモビリティ」と呼ばれる自動車IoT化をハードウェア面から支え、音声・画像認識、運転や事故発生のパターン学習といったソフトウェアの技術進歩は運転アシストシステム (以下、ADAS)の実用化を急速に推し進めることになった。さらにサービスの観点では、Mobility as a service (MaaS)に代表されるモビリティプラットフォームの拡充が自動車業界に大きな転機をもたらすといえるだろう。

アメリカのコンサルティング会社Tractiaが発表した調査結果によると2018年20億米ドル(約2,000億円) であったAutomotive AI市場は、2025年には265億米ドル (2兆6,500億円) 規模に拡大すると予想されている。その年平均成長率は46.9%である。

以下のグラフを見てもAutomotive AI市場においてはハードウェア、ソフトウェア、サービスそれぞれで市場が拡大しており、特にサービス分野の伸びが大きいことが明らかだ。


(出所:Tractia, 2019)

今後も拡大が予想されるAutomotive AI市場だが、収集されたビッグデータの活用方法はADASの研究開発だけにとどまらない。欧米ではマーケティングへの活用も期待されている。

自動車に搭載したセンサー、カメラからドライバーの運転技術やクセを分析し、次回の買い替えの際の「車種」「価格」の提案に活用する考えが広まっている。

2019年、コンサルティング会社アクセンチュアの発表によるとドイツ、イギリス、フランスの600人以上の自動車購入者に対する調査から、約23%が「購入の際の価格交渉を嫌っている」、また全体の15%が「自動車をオンライン購入できないことに不満を持っている」ことを明らかにしている。今後、従来型のカーディーラーの役割は大きく変わるだろう。

今後も多数の自動車メーカー、OEM、AI関連企業がAutomotive AIの開発を進めていくと見られているが、その魅力をどれだけ効果的に購入者にアプローチできるかという観点でもビッグデータを自在に操る企業に軍配が上がりそうだ。



なぜ今中国市場なのか トヨタが開拓を進める自動車市場とその好機

このような自動車市場の変化に対して、日本メーカー各社が次期戦略を打ち出している。特に売上高、販売台数でも世界のトップに位置するトヨタはAIをはじめとする最新テクノロジー活用に向けた積極的資本投資、そして世界市場への戦略的進出を進めている。

トヨタは2018年日本国内市場で販売者数全体の30%、登録車(小型/普通車)の登録車数シェア約45%を占めており、世界規模でも売上高、販売台数ともにVolkswagenに次ぐ第二位の立ち位置だ。


(出所:AUTOMOTIVE JOBS, 2019)


近年、トヨタが進める開発投資戦略と中国に焦点を当てた海外市場展開の動向は、欧米メディアからも大きな注目を集めている。

イギリスFINANCIAL TIMESの記事では、以下のように取り上げられている。

引用元FINANCIAL TIMES 2019/09/03


 (以下、抜粋)

トヨタは中国電気自動車メーカーのBYDと Contemporary Amperex Technology (CATL, 徳時代新能源科技)の2社とともに電気自動車バッテリーの分野で提携。さらにライドシェア企業のDidiへの6億米ドルの投資計画を明らかにした。

2019年8月には中国のスタートアップ企業Pony.aiと協同し、AIによる無人自動運転システムプログラムを開始した。

トヨタは2018年1月から7月までの自動車販売台数について、前年同期間比較では他市場では11.4%の落ち込みがあったにも関わらず、中国市場では12%増加があったことを発表している。

中国市場にはVolkswagenやGMといったライバル企業がひしめいている。しかし同社社長、豊田氏は中国、そして貿易戦争に揺れる米国の二国の仲をとりながら中国展開を進めることを明言している。


さらに、同社は2019年内に「自動運転」開発拠点を北京・上海に開設することを発表しており、中国市場におけるテクノロジー開発の勢いが衰えることはなさそうだ。

しかしながら、上記のグラフで中国市場の販売台数の伸び、また経済の伸びの予測を見る限り、なぜ世界のトヨタが今中国市場にこだわるのか疑問を持つ方も多いだろう。

一つ目の理由は中国のデータ収集に関する規制にある。中国市場の独自標準を満たしながらAutomotive AIを実現するためには米国、中国の異なった標準のどちらにも対応する必要がある。もうひとつの理由として、中国政府の積極的なテクノロジー投資があげられる。政府は“Made in Chine 2025”という政策を掲げ、「ロボティクス」「電動自動車」「新素材」といった最先端テクノロジーのグローバルトップになるという目標を明確にしている。トヨタもこの経済的なトレンドに乗らない手はないというわけだ。

トヨタはモビリティサービス分野でも海外の企業との提携、投資を進めているという。

アメリカのテクノロジー情報メディアVenture Beatの記事によると、同社はUberへ5億米ドルの投資を実現。さらには電気自動車MaaSビジネス参画のためe-Palleteと呼ばれるプラットフォームでSoftbank, Amazon, マツダ,ピザハットと提携をする。中国市場拡大の目的でトヨタと提携したDidiももちろんこの枠組みに参加するかたちだ。

今後の自動車市場においては、既存の業界を超えた協業、多国間の経済的・政治的調整を含めた舵取りがキーポイントになる。

長年のトヨタの海外市場戦略経験は、今後Automotive AI市場でもトップを走るために十分な知見を与えるだろう。複数国間での開発、生産、販売で培ったそのバランス感覚を最大の武器に進むトヨタ、そしてそれをとりまく先進企業の動向にはこれからも世界中から多くの視線が集まることだろう。

*先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システムのプロセッサとしても活用が広まる省電力高機能メモリの一例、SRAMの詳細はRS Components社サイトから

記事提供元: RSコンポーネンンツ社

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