【EU:オピニオン】ジョージ・ソロス:欧州のサイレント・マジョリティが口を開き始めた

2019年の欧州選挙が、5月23日から26日にかけて欧州連合加盟28か国で行われ、751人の欧州議会議員を選出されました。1979年に初めての選挙が行われて以来、直接選挙によって議員を選出するのは9回目。

今回の欧州議会選挙で有権者たちが述べていたのは、欧州連合の基礎となった価値観を維持したいということです。
しかし、欧州の指導者たちは、有権者が望む急進的な制度改革を実行できるのでしょうか。
今回の欧州選挙について、ジョージ・ソロス氏のオピニオンをプロジェクト・シンジケートから紹介します。

Post by Mariko Kabashima 2019/06/10 23:08


Projgect Syndicate

2019年6月7日

ジョージ・ソロス著


ロンドンー先月の欧州議会選挙は予想以上に良い結果をもたらしましたが、それには単純な理由があります。親欧州のサイレント・マジョリティが口を開き始めたからです。彼らが述べたのは、彼らはEUが設立された価値観を維持したいと思っているだけでなく、EUの機能のあり方を根本的に変えたいとも思っているということです。彼らの主な関心は気候変動です。
 
これは親欧州政党、特に緑の党への支持を表明するものです。建設的な行動を期待できない反欧州政党は、期待した成果を上げることができませんでした。また、より影響力を持つために必要とされる統一戦線を形成することもできません。
 
改革が必要な制度の一つは、スピッツェンカンディダット(筆頭候補者)制度です。それは、EU委員長の間接的な選出の一つの形式です。事実、フランクリン・ディウス氏は、『EUオブザーバー』誌に掲載された、素晴らしいけれど悲観的な記事の中で説明しています。民主的な選出が全くないことよりも悪いと。それぞれの加盟国には実際の政党がありますが、欧州横断的な協力体制は、各国の指導者たちの個人的な野心を促進する以外に何の目的ももたない人工的な構築物を生み出します。
 
2004年から欧州委員会の議長を務めている欧州人民党(EPP)に代表されるように、EPPの現指導者であり、国家政府の経験がないマンフレッド・ウェーバーは、議会の多数派にとどまるために、事実上いかなる妥協も辞さない構えです。ハンガリーの独裁的な首相、ビクトール・オルバーンを受け入れることを含んでいます。
 
オルバーンは公然と欧州の規範を無視し、マフィア国家と呼ばれるものを作り上げたため、ウェーバーにとって深刻な問題となっています。EPPを構成する各国政党のほぼ半数が、オルバーン派のフィデス(=ハンガリー同盟)を追放したいと考えていました。しかしウェーバーは、フィデスに対して比較的簡単な要求をし、EPPをなんとかなだめることに成功しました。:所謂、中央ヨーロッパ大学(私が設立したCEU)が、アメリカの大学としてハンガリーで自由に機能し続けることを許可することです。
 
フィデスは従いませんでした。それでも、EPPはフィデスを追放したのではなく、委員会の委員長が選出された際、EPPの一部とカウントされたまま、フィデスの加盟資格停止処分をしただけです。オルバーンは現在、フィデスをEPPの正真正銘のメンバーとして復活させようとしています。ウェーバーがオルバーンを受け入れる方法を見つけるかどうかは興味深いです。

スピッツェンカンディダット制度は政府間協定に基づいていないため、容易に変更することができます。欧州委員会の委員長が、厳選された候補者のリストから直接選出された方がはるかに望ましいですが、それには条約の変更が必要になります。欧州理事会議長は、リスボン条約で規定されているように、加盟国の資格ある過半数によって引き続き選出されることもあり得ます。
 
条約改正を必要とする改革は、欧州議会選挙によって与えられた民主的正当性の増大によって正当化されます。最近の選挙の投票率は50%を超え、2014年の42.6%から急増しました。投票率が上昇したのは、有権者の62%が参加した1979年の最初の選挙以来、初めてのことです。
 
不思議なことに、この場合、スピッツェンカンディダット制度はドリームチームを生み出すことを約束します。スピッツェンカンディダット制度に原則的に反対しているフランスのエマニュエル・マクロン大統領の責任が大きいです。欧州議会の採決に先立って行われたスペインの総選挙で勝利したスペインのペドロ・サンチェス首相との夕食会で、両首脳は委員会と議会に理想的な2人の筆頭候補者を支持することで合意しました。
 
ドイツはスピッツェンカンディダット制度の主要な支持国です。ウェーバーが敗れた場合、ドイツはドイツ連銀のウィドマン総裁をECB(欧州中央銀行)総裁に推すことになります。彼は全く相応しくありません。実際、彼は、10年前のユーロ危機を克服するために重要な銀行のいわゆるアウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)を無効にしようとした事件で、ドイツ連邦憲法裁判所でECBに反対する証言をしたという事実によって資格を失いました。この事実がもっと広く知られることを願っています。
 
その他の適任者がいれば、ワイドマンがECB総裁になる方が望ましいです。現在の状況では、フランスはトップになれないでしょう。ドイツでもなければ、他の国にもっと多くの余地を残すことになるので良いことです。
 
スピッツェンカンディダット制度以外にも、抜本的な改革を必要とする多くのEU制度があります。しかし、それは、総選挙の結果が約束したことが実現するかどうか、どの程度実現するかを見極めるまで待つことができます。今はまだ勝利を宣言し、リラックスし、お祝いする時ではありません。EUを、その大きな可能性を満たす十分に機能する組織に変えるためには、なすべきことがたくさんあります。
 
 

Projgect Syndicate
ジョージ・ソロス: 
ソロス・ファンド・マネジメントの会長であり、オープン・ソサエティ・ファウンデーションの会長です。
ヘッジファンド業界のパイオニア。
The Alchemy of Finance、The New Paradigm for Financial Markets:The Credit Crisis of and What it Means、The Tragedy of the European Union(『金融の錬金術』、『金融市場の新たなパラダイム:2008年の信用危機とその意味』)など、数多くの著作があります。

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子)

2019年欧州議会議員選挙の詳しい結果はこちら

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