【英国レポート第5弾:EU離脱】英保守・労働の2大政党ともに内部崩壊の危機。

英国現地より、当サイト独自レポート第5弾!

Post by   Eshet Chayil ーONTiB Contributor 2019/04/07 12:46 JST

英保守・労働の2大政党ともに内部崩壊の危機。野党・労働党との協力というメイ首相の危険な賭けで閣僚の辞任は30人超に。「辞めないで」とツイッターでの呼びかけも。

 英国のEU離脱を巡り、2大政党が揺れています。現保守党政権の至上命題である英国のEU離脱を、関税同盟や欧州司法裁判所の管轄下に留まるという(ソフト・ブレグジット)形だけでも完了させたいメイ英首相は3日、ついに最大野党・労働党と組んで妥協案を探る模索チームを設置することで合意しました。2016年の国民投票結果を受けた保守党公約(マニフェスト)やメイ首相が何度も言及してきた「レッドライン(絶対に譲れない線)」を完全に覆す禁じ手と、保守党議員や支持者の間で不満が噴出。メイ政権は発足以来2年足らずで、閣僚辞任が30人を超える事態に陥っています。1979年のサッチャー政権以来の6政権を比べても断トツ(BBC作成のグラフを参照)の多さです。

 一方の労働党も基盤は盤石とは言えません。党内にくすぶる反ユダヤの差別主義に対する憤まんや、EU離脱を巡る意見対立などで議員7人が2月下旬に離党しているほか、労働党支持者3人が反ユダヤの差別容疑で逮捕されたことも明らかになったばかりです。コービン労働党党首は国際テロ組織ハマスの幹部らを「友人」と呼んだり、テロリストの墓に花輪を添えたりと無差別なテロ行為を容認するかの行動が物議を醸しており、労働党の伝統的な支持基盤であったユダヤ系イギリス人の支持者離れは致命的水準とも言われています。

 英政界をここまで貶めたEU離脱。「協定なき離脱」は、リスボン条約第50条によって定められた加盟国に離脱を保証する安全弁の仕組みのはずでした。ところが、英中銀から残留派議員、EU官僚に大手メディアまでがこぞって英経済の先行き不安感を増幅。首相権限として、法定離脱日の3月29日に離脱を敢行することもできたメイ首相は議会の圧力に屈する形で、離脱延期を飲みました。現行の離脱日である4月12日までに労働党の協力でも協定合意案の打開策が見つからない場合の回避策として、議会はさらに再延期をEUに願うことを義務付ける法案を可決したため、メイ首相は5日、EUのドナルド・タゥスク大統領に書簡で「6月30日」までの再延期を申請。5月23日から実施される予定の欧州議会選挙への参加を強いられる長期延期となるとの見方が広がっています。

 離脱派の保守党議員や支持者の不満は爆発寸前ともいえ、このまま閣僚や議員の辞任や、支持者離れが続けば、メイ政権の存続はおろか、保守党そのものが内部崩壊するとの危機感も急浮上しています。

 英国レポート第5弾の今回は、英保守系高級紙テレグラフが5日掲載した、強硬離脱派のジェイカブ・リースモグ氏の見解をご紹介します。同氏はツイッター上でも、「辞めないで。国の未来が掛かっています」と保守党議員や支持者に呼びかけています。


リースモグ氏は2010年に北東サマセット選挙区から選出。保守党内の欧州懐疑派ヨーロピアン・リサーチ・グループ(ERG)の会長を務めており、懐疑派の保守党議員70人前後の票を握るとされる有力人物です。高尚かつ説得力のある下院議会の討論やニュース番組への出演で一躍名を馳せ、閣僚経験がないにも関わらず、一部では次期党首候補とも目されています。歴代の英政治家の失敗談などを通し、現保守党の政治理念である規制の少ない解放された自由貿易や資本市場主義と、EUや労働党が推奨する保護貿易や規制で縛る社会主義を対比させる見方を披露しています。

ジェイカブ・リースモグ英保守党議員著 【The Telegram  2019/04/04】

 首相自らの党が、首相の推す政策に反対しているとき、野党の支持を取り付けて政権維持を試みた歴代首相の歴史は、無残なものです。首相個人の政治生命が絶たれる傾向にあり、その党首が率いる党は長い間、政権に返り咲くことができません。

 テレーサ・メイはついに、この破滅への道を突き進む決心を固めたようです。彼女はつい最近まで、一国を率いる指導者としては不適格で、危険とさえ嘲笑していた人物。そんな輩が今や、彼女がしている嘆かわしい努力、つまり英国民が国民投票で示した結果や、彼女がしてきた約束の山を叶えるという悪あがきを蘇生させるための、救済者になってしまったのです。

 (最大野党である英労働党党首の)ジェレミー・コービンがこれまでの政治生命をかけて追求してきた社会・政治システムは、すでに世界各地で試され、失敗してきたものあり、英国の憲法上では相容れません。

 新たに設置された協定合意案の模索チームは、政治的思想で類似性のある2者による居心地のよい方策探しなどではありません。絶望が突き動かしているのです。

 その点においては、(19世紀の保守党政治家)ロバート・ピール男爵が、ホイッグ党の票を獲得することで実行したトウモロコシ法の廃止よりもたちが悪いと言えます。ト法廃止当時は、2者間には憲法理解における共通性があり、数年経てば誰もが受け入れられる政策であったうえ、政治的見解の違いは、双方の議員にとって互いに歩み寄ることができる程の狭さであったのです。

 下院議会の採決でピールは、自らの党であるトーリ党(現保守党)議員からは少数の支持しか得られなかったにもかかわらず、賛成327票、反対229票という大差で(穀物価格の高値維持を目的としていた)穀物法の廃止を可決させました。しかし、アイルランドの強制法案の採決では賛成292票、反対219票と敗北。ピールは辞任に追い込まれ、保守党はその後、28年間にも渡り、政権を一党で担うという回復ができませんでした。

 野党の協力で政権運営を試みて失敗した次の例は、(第一次世界大戦当時の英国を代表する指導者で国民自由党の政治家)ロイド・ジョージでしょう。彼が人民予算(や国民保険法)など一連の社会改革を労働党との協力で推し進めたことや、折り合いの悪い保守党議員、なかでも特に公爵に対して、背筋が凍るような演説をしたことを考えると、あり得ない(リベラル派と保守派の)協力体制でしたが、戦時下という緊急時の強いリーダーシップがこれを可能にしました。

 やがて「バックベンチャー」と呼ばれる幹部ではない保守党議員の造反が起き、ロイド・ジョージ下ろしに成功すると、「1922年委員会」が設立されたのです(同委員会は最も重要な保守党の議員委員会として現在も続く)。それ以来、リベラル派が再び首相を選出することはなく、ロイド・ジョージ自身もその後、政治家としては冴えませんでした。チャーチルの失策で(もしも英国がナチス支配下となった場合、ナチスを助ける)売国奴の政府のトップとして呼び戻されることを望んだ程です。

 その次の例は、ラムゼイ・マクドナルドでしょう。スコットランド出身のマクドナルドは、1929年から1931年にかけて労働党党首として、イギリス史上では初の労働党政権を樹立しました。しかし、世界大恐慌の最中の歳出抑制を巡る意見対立から労働党議員が過半数割れするなど苦しい政権運営を余儀なくされました。

 その後の総選挙では、労働党は52議席と、493議席を確保した保守党に惨敗しました。マクドナルド派の国家労働機構の議席数は13議席。保守党は彼が首相の座に居座ることを許しましたが、マクドナルドは社会主義信奉者にとっては負の象徴とも言える存在。1935年の総選挙でマクドナルド自身が落選し、労働党は第二次世界大戦後の1945年まで政権から外れることになりました。

 こうした歴史上の先例から見ると、労働党の協力を求めるテレーサ・メイの新しいアプローチは(党の地盤沈下という)病の前兆を示しており、彼女が取ろうとしている政治手法は危険に満ちていることが分かります。さらに憂うべきは、主流の政治家が公約を果たせないでいることで、極右勢力の台頭を促していることです。

 労働党はすでに、極右勢力や、トミー・ロビンソン(現英独立党UKIP党首)のような人物にとって、格好の餌食となっています。(EU離脱が遅れ、5月23日実施予定の)欧州議会選挙に英国が参加を強いられたならば、労働党は議席数を大幅に減らすでしょう。

 メイ首相とコービン氏との政治的駆け引きで、彼の政治的スタイルを支持してしまうことになれば、英国の強みである安定した政策運営のプロセスを危険にさらします。保守党にとって悪影響を及ぼすだけでなく、英国の将来にとってさらに深刻な事態となりましょう。

 国家の繁栄は、その安定性にかかっているといっても過言ではありません。英国内で多くの金融や法的な取引が行われているのは、その安全性のお陰です。

 政治の極右化を許すようなことがあれば、金融取引などにおける安全性を損ないかねず、投資や金融取引を行うと場所としての英国の魅力が損なわれてしまいます。

 (影の蔵相)ジョン・マクドネルが資本規制の計画を練っているという噂は、国内資本の逃避にもつながります。労働党の協力で離脱協定案が社会主義色を強めるようなことがあれば、資本流出は前倒しで起こるリスクさえあります。

 メイ首相は早々に辞任することを表明しているので、そこまで悲観的な成り行きは、おそらく、避けることができるでしょう。

 確固とした政治理念を掲げる党は、たとえ恥をさらしたとしても再起可能です。1959年の総選挙で戦後最大の議席を獲得したマクミラン内閣が、スエズ動乱の後に証明したように。そして、汚名挽回を図ることができるのは、保守党議員や支持者です。メイ首相に抗議するために閣僚辞任や支持者離れが起きていますが、これは間違ったアプローチです。

 保守党支持層の公式ウェブサイト「コンサーバティブ・ホーム」の世論調査によると、圧倒的多数が「(関税同盟や単一市場に留まず、EU法や規制に縛られない)クリーン・ブレグジット」を望んでいます。保守党の汚名を挽回するには、保守党員が(切り裂いた)メンバー・カードをまた貼り付ける必要があります。保守党の次期リーダーを選出するのは、あなたたちだからです。

(海外ニュース翻訳情報局 えせとかいる)

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